過去の職場&就職体験記 (2)弱小企業での地獄−07

第7話「針師=玉先生登場!」

(1998年4月執筆)


 前回のペーパーで続け様に書いた「就職最前線トーク」ですが……。色々皆さんから反応ありまして、総括して言えることは「そんなにパラダイスな会社はない」ってコトと、「中小企業はどこもちょっとオカシイ奴が数人いたりする」けど、「それにしたってウチの社長はやっぱりオカシイ」ってコトでしょうか。この会社、マジでスゴイと思うんだけど……。引き続き報告させて貰ってもいいかな……。こんな体験(鬱憤?)を胸の内にしまっておくのは勿体無いよ……。

 以前のペーパーにて「クリスマス・イヴの出来事」ってタイトルで、九州から来た霊媒師=俊先生(仮名)のお話をしましたが、うちの社長のトレンドはいつだって速攻で変わります。今の社長のトレンドは針師=玉(ギョク)先生(仮名)です。ちなみに俊先生は、社長の言葉を引用すると、
「ダメよ、あの先生は。若いのに生意気すぎるわ」(’98年2月現在)
だそーです……。私、その手の業界に関してはド素人だけど、俊先生見た瞬間からそんなこと判ってたな。えへ。

 話を戻して。この玉先生、金の針を人体に埋め込んで万病を治す達人(by 本人)なんだって……。社長はこの先生に3〜8ミリの針を埋め込んでもらったんだー。

 首から顔にかけて70本! 埋め込みっぱなし!

 寝返りは打てるのかとか触ると判るのかとか、そんな基本的な疑問はさて置き、15年かけて金針が体内に溶けて行くんだって!!

 でさぁ、この針治療の後、社長の右顎と眉間に内出血の痣が出来てんねん。その痣も普通の紫なんて可愛いシロモノじゃないのよ……。真っ黒い痣なの……。社長いわく「体の弱い部分が痣になって現われる」んだそーだが、冷静に考えれば単に針師の腕が悪いんじゃ……。眉間に出来た痣なんて、なんかチャクラみたいでさー。ゴッツ恐いのよっ!(注:チャクラとは第三の眼のことです)
 でも社長はご機嫌! なんだかよく分かんないけど、ヤッタね!!

 ある日、玉先生が社長の自宅での治療の前に社長室で社長とサシで会見したんだけど、その声がデカイもんだから隣の部屋まで聞こえてくるのよ……。聞きたくもない話が色々……。
 長さ20センチくらいの朝鮮人参が1千万円だってサ。その人参から生える長さ6センチくらいのひげを子供に与えると、その子は一生風邪引かないんだって。いえーい! ひゅーひゅー!! 何がなんだか解からないけど凄いぞ!!! いいぞいいぞーっっ!!!!

 あの勢いだと、社長は買わされるんじゃんか?と、皆でひそひそ隣の部屋でやってたら、心配御無用! 本当に買っちゃったよ……。玉先生が見せてたのよりは小さ目のを買ったから1千万円ってことはないと思うけど、単純計算で2センチで100万かぁ? 勘弁してくれよ……。本当にあまりにちゃんと堂々と胡散臭いので、社員は大爆笑だっよ。一人丁度外出してて、見せてあげたかったと歯噛みした。

 んで、後日談よ……。社長に出来た痣は身体の悪い所が浄化されると消えるらしーんだけど(by 玉先生)、社長の痣は消えるどころか濃くなって行ったのね。そしたら3回目に来た玉先生が言う訳だ。
「あなたは血管が弱いようですね。血管が弱い方にはゲルマニウムと言う薬が良く効くんですよ
 ……………。もうさぁ、それは詐欺師の手口の王道中の王道なんじゃない? なーんも創意工夫もバリエーションもないんじゃない? あんまりだろう……と思っていたら、次の日から社長、ゲルマニウム飲んでんねん。
 ごめん……もぅいいよ……。私が悪かったヨ……。自分で稼いだお金をどう使おうと勝手だヨネ。社員がどうこう言うべきじゃないヨネ。
 ちなみに、玉先生、1回(所要時間約3時間)来ていただくのに30万円。合計3回来ていただいたの。うふ。もぅ合計金額は計算してねん。おっと、この金額プラス、ゲルマニウム代と朝鮮人参代も忘れちゃいやん。

 もうねー……。社長を見ていて思ったけど、騙そうとする人だけでは世の中うまく回らないんだよ。社長みたいに「騙されたい!」っていうニーズがあって初めて詐欺が成立するんだなぁと感心したね。そのくらい騙す側にも騙される側にも勢いがある会見を覗き見した。凄いんだー。どっちもハイなの。しかもナチュラル!
 例えばよ、
「針は一見高い様に見えるけど、大病患って入院なんて事になれば所詮は100万だ200万だって掛かるでしょ。でも針を打っておけば、この先一生病院に世話になる事はない訳だから、結局はお得な訳です。それが解らない素人が多いから……」
って、この言葉。玉先生の言葉じゃないのよ。社長が玉先生に向かって言った言葉よ……。
 それは騙しのための玉先生の言葉だろう……。なのに社長、自ら相手の切り札を言っちゃってんのよ……。私、誰が何言ってるのか、途中でマジ解ンなくなったわよ。玉先生にしてみりゃこんなに騙しやすい客もないだろう。「そーなんです。そーなんです」と上機嫌だった。

 二人の会話は本当に凄かった。常人にはなかなか理解できないものだったよ……。またこういう会話がたまに耳に入るんじゃなくて、たまにマトモな話が耳に入る会社なんだよねー。本当にこれはシャッターチャンスだっ!ってくらい綺麗にまとまったお芝居……ってゆーか……漫才ってゆーか……。とにかく皆に見せてあげたかった……。せめて近しい友人だけにはと思い、アタシャ盗聴用のテープレコーダー買おうかと秋葉原をウロついたよ。絵的に無理ならせめて会話だけでも聞かせてあげたいと思って。買ってないけどね。

 私さ、玉先生の実力の程は知らないのよ。本人いわく、万病や不治の病を何件も治してるらしーんだケドね。でも例え本物の大先生だったとしても、3時間30万円ってのはなぁ。時給10万円かぁ……。
 ま、高い金取ってりゃ詐欺師って訳でもないけど。でも私、あんなに露骨にちゃんと完璧に胡散臭い人、初めて見たんだよ。それくらい胡散臭かったんだよ。私以外の人もちゃんと「これは異常な事だ」って思ってたから、本当に異常事態だったんだと思うのよ……。
 社長と玉先生の会話を聞いてた社員の一人が「私、人が騙される現場、初めて見た……。壁を挟んで5メートル以内で、しかもリアルタイムで人が騙されてるよ……。凄い経験させてもらってるなー、この会社に入ってから……」と黄昏てた……。

 で、私なんかは社長がどうなろうと知ったこっちゃないから放っておくけど、社員で社長想いの44歳の女性がわざわざ社長に進言したのよ。「社長……朝鮮人参を買うのはちょっと様子を見てからにした方が……」って。そしたら社長は彼女に向かって言ったさ。
「玉先生を信じられないのね。アナタねぇ、いい加減、自分だけが正しいと思うの止めなさい
 ………………。もぅ本当に凄いんだよ。全てが。常人の想像を絶してるんだよ。全てが。

 まぁ、最近の出来事はざっとこんなトコロでしょうか……。まだまだ色々あるけどね。「(社長が)前世治療を受けたい」という主旨の手紙を社長命令で書かされたりさ……。
 ウチの社長、自分では絶対に手紙書かないのよ。プライベートな手紙まで社員に書かせるの。要するに文章が作れないらしーんだな。でもチェックは出来るんだな……。だから社員に書かせて、それにケチを付けて直していくんだな。ゴッツ腹立つねん。

 で、ウチの会社のワープロはそんな社長の手紙を書かされた人々の涙の遍歴を時々垣間見せるんだな。
 例えば「半日」って打とうとすると、真っ先に出てくる熟語は「反日」よ。「さいご」も最初に出てくるのは「最期」の方だし。普通「最後」だよね……。どんな手紙書かされてたんだか……。
 それに会社に置いてある英語の辞書。「訴える」とか「嘘を見破る」とか「騙す」とか言う単語ばっか波線が引いてあったりするし……。他にも「ビジネス文書の書き方」って本があって、なんかしおりが挟んであるから見てみたら、「抗議文書の書き方」の章だった。折り癖が付いてたのは「退職届の書き方」の章だった……。会社にあるものって、会社の歴史を垣間見せるよね……。

 こんな毎日を送っています。

 誤解のないように言っておきますが、楽しいですよ、会社。毎日次の仕事は何にしようかって想いを馳せてられるし。ま、でもこれから就職する皆さんはくれぐれもヤケや成り行きで会社を選ばないように。困るのは自分。苦労するのも自分なんですから。ははは(←重過ぎる)

 短期間で辞めると私の経歴が傷つくので、この頃では真剣にうちの会社、倒産しないかと願っています。倒産なら私の経歴には傷が付かないもんね。年内に倒産してくれないかなぁ……。



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