過去の職場&就職体験記 (2)弱小企業での地獄−06

第6話「続・米国本社、倒産?!」

(1998年2月執筆)


 早速ですが、ドリームワールドへの誘いを開始させて頂きます。
 前回からの続きです。

 社長によるとね、本社、倒産してナインだって。ライバル会社の嫌がらせで、ああいう記事が出回ってるんだって。
 今日の朝、本社の社長H氏からFAXが届いてたの。それによると、記事にあるように裁判は確かにしたけど、最終的には勝ったんだって。でもその後、相手側がまた裁判をしたんだって。つまり、再審請求ね。今その裁判中なんだって。この裁判もいずれ勝つって。

 インターネットの件も、本社のHPが開けないのは「丁度メンテナンス中」だからなんだって。電話が通じないのは、
「通じるはずなんだけど、おかしいな。サービスセンターに俺(=H氏)が問い合わせてみるよ」
だって。
 ……………………ふーーーーん。そーなんだー。はっは!

 まーそーだよね。本社の社長が言ってんだから大丈夫、潰れてないよね! やったぁ! 心配して損しちゃった♪ 便りの無いのが元気な証拠って言うもんね。聞かなきゃ答えてくれないってのがイイよね! そんな些末なことに心を煩わすことはないって言うアメリカ人らしい大らかな思い遣りなんだね。
 アタシャ信じたよ! 社長もこのFAXが来て心強いだろうなー。やっぱ訳分かんないインターネットのHPより本人からのFAXだよねっ!!

 ──って、ンな訳ねーだろッッッ!!! どんなに自分を騙しても、やっぱ思いっ切り胡散臭いやんけっ! いくら社長に事態の胡散臭さを訴えても通じないようだけど、私の心の中でいつまでも疑っているのは自由だよね……。
 ちなみに、今日の朝このFAXを囲んでの社長と私の会話が以下。
社長 「ほら見なさい! アメリカは訴訟社会で恐いのよ。H氏の会社は実力あるから、大手から目を付けられやすいのよね。でも全部勝ってるでしょ」
鷹瀬 「それは分かりましたけど、じゃあなんでネットでオーダー頁が開けないんでしょうね」
社長 「あなた英語読めないのっ?! ここに『メンテナンス中』って書いてあるじゃないっ!」
鷹瀬 「それは分かりましたけど、じゃあなんで電話注文も出来ないんでしょうね……」
社長 「それも書いてあるでしょッッ!?! 『サービスセンターに問い合わせる』ってっ!! なに読んでるのよっっ!」
鷹瀬 「…………」
社長 「この問合せしてきた人に、メールを書いて頂戴。『本社は大手から嫌がらせを受けています』って」
鷹瀬 「そんなことまで書かなくても、『ただいまメンテナンス中のため』でいいんじゃないですか?」
社長 「事情を書いた方が誠意があるでしょっ」
鷹瀬 「……なんか言い訳臭く取られないといいですけどね……」
社長 「まともな神経を持った人間なら、こういう事情を説明すれば誠意があると分かってくれますよ。いいから黙って言われた事を書きなさいよっ! それと、今後アメリカの本社のこと知りたいっていう人が現われたら、その度ごとに報告しなさいよっっ!」
 ──朝から疲れました。

 それにしても、H氏からのFAXをそのまま信じてるんだから社長もとんだお人好しだよな。やっぱり米国にいる第三者にきちんと問い合わせてみようと思うのが普通の思考回路だと思うんだけどね。社長、米国に知り合いいるんだしさぁ……。出来ないことじゃないだろうに……。本社が潰れてるかもしれないという緊急事態なんだから、それくらいしたっていいと思うケド。
 ま、本人信じてるんだから関係ないのか。

 でもなぁ、今回の一件って、詐欺師に「あんた詐欺してたの?」って聞いて、詐欺師が「ううん、してないよ。それは騙されたって言ってる奴が僕を妬んでそういうデマを流してるんだよ」って答えてるようなモンだと思うんだけどな……。それを信じてる社長はなんだかなぁ……ホントに変なトコ純で参っちゃうよ。

 たとえ百万歩譲ってH氏の言う通り倒産してなくて訴訟中だとしたら、一応同じ製品売ってる会社なんだし、ちょっとは教えといてくれても良いと思うんだけどなぁ……。それこそアメリカ人って鷹揚だから、そんな細かいことには頓着しないのかぁ? あ、私ってばだんだん自分を騙そうとしてる?

 ホンットこの会社、思い込みと気合だけで成立してるなぁ。もしかしたら、会社って思い込みと気合だけで設立できるのかも。
 それに、この会社で起こることってすべて薄いヴェールに包まれているようで、現実味がないんだよねー……。なんか学生の時、イデア論とかでやったなぁ。「世の中は『そこにあるんだ』という意識でもって成り立っている」って。だからこの会社も社長の観念のみで成り立っているのかも。だからこんなに現実味がないのかも。

 やっぱ社長大事にしないとな。社長がいなくなったらいきなり周りのモノが──私を含めて──魔法が解けたように消えていってしまうのかも。
 そーいや社長、飛べない飛べないって嘆いてたけど、こっちでパワー使いすぎてるから飛べないのかもな。自分飛ばすよりよっぽど難しい会社浮かすというコトをやってんだからさ。しかも無意識で。凄ぇよ。アタシャ今更だけどソンケーするね。ははは……。(←乾いた笑い)

 ま、いっそのこと「本社は実は2年前に倒産していて、H氏が社長を完璧に騙してた」ってゆー筋書きだとワタシ的には楽しいんだけどね。




 さて、ここからは随分後に付け足した後日談です。

 本社はね、潰れてませんでした。アメリカ行ってこの目で見た訳じゃないから何とも言えないけど、HPのオーダーも、電話注文も現在では可能になりました。
 裁判記録の頁は相変わらず「負・け」のままになってるけど、きっと更新してないだけなんだよネ。私はそう信じることにした。だって、潰れてようと潰れてなかろうと、私は入社当初と同じ状態で勤めてるんだもん。本社がどうなってようと、関係ねーよ。はっはっ!!

 この会社に入って一つ学んだことがあるよ。
 人生、思い込みだけで結構どうにかなる。小さいことにくよくよするな。
 後にベストセラーになる本のタイトルにまで行き着いたって訳だ。先駆者だね、まったく。



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