過去の職場&就職体験記 (2)弱小企業での地獄−05
第5話「米国本社、倒産?!」
(1998年2月執筆)
大ニュースさぁ! なんだってこんなに毎日イベントが起るんだよ〜っ。もうこの会社、凄すぎるっ! はぁはぁ。
ちょっと落ち着いて事情を順を追って話そう……。
まず基本として、ウチの会社は米国に本社がある化粧品会社の商品を、日本で独占して売る権利を得て販売している輸入卸売会社なのね。子会社ではないけど、本社とは親子関係にあると言うか……ちょっと微妙な立場の会社なの。
ウチの会社は本社の製品を日本人向けに作り直して(箱を日本語にするとか、日本の薬事法に触れる成分を除くとか)それを通販やらデパートに卸したりして売ってるんだけど、輸入商品の哀しさで、米国で販売されている価格の3倍くらいになっちゃうのよ。
この頃はインターネットも普及してきたので、日本人の客が直接米国本社のHPにアクセスして商品を買おうとするケースも出てきたりするんだけど、まぁ色々あって日本人はウチの会社からしか買えないことになってるのね。
そんな中、当社のHPを通してメールでアメリカ在住の日本人から’98年1月末日に問合せがあってね。ウチの商品を買いたいって言うんだ。で、私は「日本からわざわざ輸入しないでも、アメリカに住んでらっしゃるのでしたら、米国本社から買った方がお値段も3分の1でお得です。米国本社のHP上からオーダーもできます。アドレスは……」っていう形で教えてあげたのよ。
そしたら直ぐに返事が来て、「本社HPの〈To Order〉のボタンを押しても開けないし、注文の電話番号に掛けても通じないんですけど……」って言われたのよ。こちらで調べたら確かにHPも電話も繋がらないので「おかしいね」って言ってたら、次の日に同じ人からメールが来て、
「ネット上でニュースを見ました。多分これが原因で買えないのでしょうね。もうご存じかもしれませんが、一応……。URLは〈http://www.*******〉、ニュース頁です。見てみてください」ってメールだったのさ。
上のURLを見たね……。英文だから英語が読める社員に読んで貰ったら、その社員、読んでて見る見るうちに真っ青になったね。
米国本社……1995年8月に倒産してるって書いてあったらしいんだ……。
「社長、このこと知ってんのかなー。誰が言うのかなー……」って皆で脅えたよ。誰も恐くて言えないから仕方ない、私が言ったさ。どんなことになるかと思ったら、さすが社長……。
「これは嘘よ。アメリカは売れてるから、嫌がらせで妨害されてるのよ。あなたにメール寄越した人もグルよ! 決まってるわよ」……凄いよねー。本当にどうにかしてくれ。それにインターネットがなんなのか全然解かってないから手に負えない。「ニュースの頁に書いてあることですから嘘の発信とか、そんなに堂々と出来ないと思うのですが」って言っても、「それくらいやるわよ」で片付けられるし……。
「一般人にアメリカのHPのアドレスなんか教えないで頂戴! あなた事の重大性を知らないから云々かんぬん」って……。キーワードに会社名入れて検索で探せば、簡単に見付かるんですけど……。
あーもー。本社潰れてたら、どうするっ?! しかも2年以上前に……(←どんなコントじゃ!)
でさぁ、独自で調べたらとある裁判記録のHPで更に詳細が……。
このHPに米国本社の今までの裁判記録が全部載ってんねん。で、開いたら13頁もあるねん。ざっと見たら米国本社、37回も裁判してんねん。でも取り敢えず、全部最終的には「勝訴」の文字がチラついてるんで、安心してスクロールしたんよ……。そしたら最後の裁判記録には「裁判は負・け」って書いてあったの……。
俄かには信じられなかったよ……。自分が入社する2年前から本社が潰れていたなんて……。いや、まだ真偽のほどは判らないんだけど……。
気になるのは、ではこの2年間、ウチの会社はどこから商品仕入れてたのか?ってコトなんだけど、これが結構複雑なのよ。米国製品をそのまま輸入すると日本の薬事法に引っかかる成分が入っているので、ウチの会社は日本用に作り直したものを輸入してたの。でも工場は米国にあるの。そこから仕入れてたのね。
で、支払いは米国本社の社長H氏にしてた。当社、H氏に月1千万円払ってるの。でも当社では製品自体がそんなに売れてないから、この1千万円は、「1千万円分の製品を売る権利」を買う代金な訳です。でも製品自体は出ない訳だから、権利を過剰に買っている状態で、「いずれ清算しなきゃならない」ってことになっていたらしい。H氏が潰れたことを黙っていたとしたらここら辺が関わってくるから、完全な詐欺になると思うんだよね。’95年8月からずっと、社長はH氏に支払い続けてるんだもん。
畳み掛けるように不穏な事実もあるのよね……。私は最近入社したばかりだから知らなかったけど、元からいる社員によると、この1千万円の振込先が2年くらい前に変更してるんだって……。
──あれ〜? なんかどんどん1本の道筋が見えてきたぞ〜。
でもまぁ2年も前に潰れてて今どうにかなってるって事は、本社なんか無くてもどうにでもなるって事なのかも……。会社も信じれば立ち続けるものなのかもね。ウチの会社を支えてるのは、利益でも人材でもなくて気合だったのかも……社長の。その社長が本社の倒産を知らないってのが凄いよなぁ。
本社潰れて支店ってやってけるもんなんだね……完全なる独立採算制って感じか? だんだん自分でも何が真実か分からなくなってきたぞ。信じて信じて信じ続ければ、きっとそのうち社長と同じものが見えてくるのか? そしたらきっと主観的には幸せになれるような気がするんだよな……。
ま、そうなった時には、私は人として大切な何かを失っているんだろうケド。