過去の職場&就職体験記 (2)弱小企業での地獄−02

第2話「社長のお誕生日」

(1997年11月執筆)


 ’97年XX月X6日、我が社の暴君=ワンマン社長が66歳の誕生日を迎えました……。「6」が異様に多い事態に、思わず「ダーミアーン」と口走っちゃっただよ。
 ちなみに「ダミアン」とは、かの有名な(?)ホラー映画「オーメン」の主人公。ツムジに「666」と刻まれている悪魔の申し子のコトです。うふ。

 それはいいとして、私は当然のように、そんなこと(=社長の誕生日)は私の人生には無関係とばかりに過ごしていたのに、仲の良い社員2人が社長に誕生日プレゼントを贈る、っつーんだわ……。なんだよ、それ……と、グッタリしていたんだけど、
「こんなちょっとのことで社長が良い気分になれば、安いものじゃないっ。鷹瀬さんも一部出資ってコトで、カードに名前書きなよ。お金はいいからさ。社内円満が一番だよ
と必死に説得され、勢いに押されて思わずカードに名前を連ねさせてもらった……。2人だけに出資させる訳にもいかないから、贈り物の3分の1は払ったよ。凄く不本意だけど、以前の「付き合い出資」に比べたら、時間を拘束されない分、安いモノかもしれないってコトで我慢したさ。

 彼女たちは去年、前任者から同じように説得されて、社長にお誕生日プレゼントを贈ったらしい。その前任者は1年しかいない人だったらしいから、その人もまた、誰かからこの悪習を受け継いだんだろうなぁ。人は消えてもこの訳の分からん習慣だけは残っていくんだ……。今までこの会社に現れては消え、消えては現れた数々の人々の涙の「社長防御策」の名残が、お誕生日プレゼント大作戦、って訳なんだろーか。なんだか目頭が熱くなるほど子供っぽいんですけど……。

 話を進めるけど、結局贈ったものは「366日花言葉集」という絵本(?)。社長の誕生花は「こけバラ」。花言葉は「無邪気」だった……。
 こ……これは……凄い深い言葉なんじゃないか? 「無邪気」って、66歳の人に対して使ったら、それって「馬鹿」と同義語なんじゃない? それは私の考え過ぎ? 嫌味に取られないかな……と心配していたらまるで無用の心配だったらしいよ。
 このプレゼントを贈ったのは朝一番で、その日の午後、私は社長と2人で銀座に行く用事があったんだわ。そしたら社長がその道中、「あの本、当たってるわね」と言い出したんだな。アタシャ、この人は一体何を言い出すんだと身構えたよ……。
 この言葉の次の社長の台詞を、省略なしで一挙公開しようじゃないのさ。
「私の友人にオーラが見える人が居るんだけど、私のオーラは少女のオーラなんですって。だから純粋に夢や理想を追い求めている姿を誤解されて、凄く強(したた)かだと思われるのよね。私は【誤解の星】の下に生まれているから。でも、私の事を知っている人は、私を凄く大事にしてくれるのよ。私のことを解かってさえ貰えれば、私は情に厚くて親切だから、周りも大事にするに決まっているのよ。本当に、あの【無邪気】っていうのは当たってるわね。私には邪気と言うものが無いのよね」
 ……………………。おーい、みんなぁ〜。ついてきてるかなぁ? 私はこの台詞をリアルタイムで聞かされた時は、ついていけなかったよ……。

 まずさ、ぱっと聞いてもオカシイ個所が何ヶ所か見付かっちゃうよね? それは私の思い違いじゃないよね?? 一つ一つを取り正すのもなんだけど、敢えてやってみるよ。
 一番手でさっくり登場した「私(社長)の友人」の「オーラが見える人」って……。もうここでイエローカードなんですけど……。あの〜……社長……。オーラが見えるご友人がいらっしゃるんですか? 実際にはこんな恐いことは聞けず、黙って次に話題が移って行きましたが……。
 移った先の話題もブッチギリだよね……。「私のオーラは少女のオーラ」って……。あの〜……社長……。私もう、どこで突っ込んで良いのやら、よく分からないんですけど……。アナタ「誤解」と言うけれど、私にはそれは「理解」じゃないかと思われるのですが……。

 しかも「誤解の星」って……また、ただ単なる言葉じゃなくて、専門用語なんだろーなー……。社長、占星術とかに凝ってる人だから……。キュウシ火星とかシコク土星とか、社長から聞いたこと結構あるし。その手の単語なんだろうなぁ……。まぁもういいけど。
 そして極めつけと言うか何と言うか……。「私は情に厚くて親切だから、周りも大事にするに決まっているのよ」って、凄い言葉だよね……。普通、素面じゃ言えない言葉だよ……。だってこれって創意工夫も何にも無い純然たる自慢じゃないの? それとももっと深い哲学的な意味があるのか? 私、66歳の人がこんなに堂々と自分賛歌を唄っちゃってる場面、初めて見たよ……。
 いや〜良いモン見させて貰った! センキュ!!

 最後に、「無邪気」ってなんとなく悪い意味合いが強いと思っていたけど、漢字の通りほぐして「邪気が無い」って言い換えると、なかなか良い言葉なのネ。初めて知ったワ。これからは気ヲ付ケテ使ってみようカシラ。

 あまりの事態に収拾がつかない。もう無理やり結論に持って行こう。
 スゲェよ、社長! アンタ、幸せな人だね。付いて行きはしないが、遠くから観察させてもらうことにした。面白すぎる。
 ──以上。



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