過去の職場&就職体験記 (1)大企業での地獄−03
第3話「営業研修日記(前編)」
(1997年4月執筆/1999年8月加筆)
さて、共同研修で大分ボディブローを食らっているようでしたが、あんなのはまだ甘いモンでした。だって、今度の研修は既に配属される職種が「営業」と決まっている人達のみで構成されたメンバー、営業マンになるための研修内容……。救いが用意されていません。
改めて話をまとめるのは面倒なので、当時の日記をそのまま掲載いたします。色々と社会を知らない甘ちゃん学生の色が強い私ですが、これが当時の私の素直な視点です。今ならもうちょっと違った観点で物事を見るのでしょうが、ま、これはこれで初々しい反応ということで、参考までに。
では、日記形式……っつーか、当時の日記をお届けします。
国内販売推進事業部(つまり営業)のメンバー42人が今日全員集合したが、最悪。女子は私を含めて5人。うち3人が同じ寮にいることから既に仲が良く、もう1人はK大出身のいかにも気が合わなそうな子。飲み会大好きな人達ばかり。
「ここのところ10日間毎日連続飲み会やっちゃったぁ。楽しかったぁ。先月は飲み代だけで6万も使っちゃってぇー」
だと。そんなに初っ端から人種の違いを見せ付けないで欲しい……。話を聞いているだけで疲れた。
飲み会が好きなのは女子だけではない。自己紹介でも「飲みが好きです」と言い切った人間は全体の9割を占める。いかにも営業!という風情の人達ばかり。目立ちたがり屋。でしゃばり。話し好き。飲み会大好き。宴会歓迎。そういう人達。
──家に帰ってから泣いた。
私の凄い所は、落ち込みが直ぐに解消するトコロだ。朝は電車の中で吐きそうになるくらい登社拒否の兆しがあったが、今日1日でそれも解消した。
配属面接のため、色んな男子と話したが、思っていたよりも皆、不満を抱えているようだった。これは心底嬉しかった。色々と話すうちに、好きになれそうな人も見付けた。女子はちょっと期待できなさそうなので、男子に救いを見付けたほうがいいのかもしれない。
アドバイザ(担任のような人)のキラキラ男、H野さんにはついていけないものを感じる。皆が配属面接の時に「うお〜、どこに飛ばされるんだよ〜」と言ったら、帰り時間に「『飛ばされる』と言うのは止めましょう。これは異動です」と真面目に言っていた……。言葉を変えれば本質も変わると思っているのだろうか。「『移動』は物を動かす移動で、人事のイドウは『異動』と書きます。これを間違える人がたまにいますが、恥ずかしいですから」と言うが、私たちは物のようにイドウさせられるのだから「移動」で核心を突いていると思う。
配属面接は悲喜交々だった。一人ずつ会議室に呼ばれ、面接官と話し合うのだが、残りの40名弱は一部屋で待たされ、その間、雑談していた。面接を済ませてきた者に面接の様子を聞いてみたり、自分の持つ情報を交換したりして、お互いに震え上がっていた。様々な会話が飛び交っていて、これはこれで哀しくもおかしかった。
「国内営業所で唯一カタカナの営業所って知ってる? ……オホーツク営業所だよ。嘘か本当か知らねぇけど、ここに行くと2年で壊れるらしーぜ。まぁそりゃそうだよな。どこ見渡しても雪と流氷しかねーんだから……。自殺するにはもってこいの営業所らしいよ」
「聞いてくれよ〜。今の面接でさぁ、面接官に『雪は好きですか?』って聞かれちゃったよ〜。俺、北海道に飛ばされるのかなぁ……。せめて飛ばされるなら南が良いと思って、思わず『ハイビスカスの方が好きですっ!』って答えちゃったよ……。不味かったかなぁ」
「俺なんかもっと直接的だったぜ……。いきなり『自炊は出来るの?』だってさ」
「俺さぁ、本籍は福岡なんだよ。でも生まれてすぐに東京に来たから、福岡なんて関係ないんだよ。なのに面接官の人、履歴書を見て『福岡で生まれたんだ。じゃあ地元だね』とかしつこく言うんだよ〜。慌てて『0歳までしかいませんでした』って言ってンのに、真中の書記の人、物凄い勢いでメモを取るんだもんなぁ……。俺、福岡に飛ばされンのかなぁ……」
「今、東京のW寮にいる奴等って、寮長に『配属先が決まるまで、荷物はダンボールに入れたままにして広げない方がいいよ』って言われてるんだってさ。W寮の別名、お前知ってた? ──『発射台』って言うんだって……」
……みんな必死だ。
吹っ切ったお陰で、1人で居ることも辛くはなくなった。ただ驚くのは、1人で居る人間が非常に少ないことだ。たった10分の休み時間でさえ、彼らは廊下に出て、塊になり、雑談をしている。教室に残っている人間は2〜3人で、1人で居るのは私くらいだ。
吹っ切ったとは言え多少は孤独なので、本を持ってくることにした。短い時間で細かに読めるものと思い、笑えるエッセイを買い漁る。「明るい悩み相談室」「変!」(中島らも)、「オンリー・ミー」(三谷幸喜)、「笑われるかも知れないが」など、今の気持ちにしっくり来るものを選ぶ。1冊4〜500円。エッセイ集など読み返さないので、普段なら絶対に買わないが、今は心が弱っているので仕方ない投資だ。皆が出席する飲み会に出ていないのだ。飲み会1回3千円とすれば本は6冊まで買えると考えて良いだろう。
さて、教室に一人残り、本を読む。なんだか暗い要素は揃い切った気がする。しかし本当に暗いのはこれからだ。読んでいるものが面白いので、笑う。教室に一人で本を読み、そして笑っている。まさに三重苦だ。教室の扉は開かれており、廊下から中を伺うことは出来る。端から見たら私はきっとアブナい奴だろう……。
教室に独りでいると、「なんで廊下に来ないの?」とか「なに読んでるの?」とか、細かく話し掛けられる。そんなに一人でいることって不自然なのかなぁ。放っておいてくれ、とまでは思わないけど、もっと皆も一人になればいいのに、とは思う。あまり群れられると孤独になる。
午前中の授業で、賄賂の恐さを物語った「転落の構図」という30分のビデオを見させられたが、これが結構面白かった。善良で真面目で堅気な公務員が、企業側の人間に金を掴まされ、挙げ句の果てには贈賄容疑で刑務所入り。妻や子供に迷惑を掛けたことを後悔するが、妻と子供は家を出て実家に帰り、離婚もする。刑期を終え、出所しても帰る宛もなく、絶望した主人公は電車に飛び込み自殺をしてオシマイ、という内容だ。
話の作りは無理が無く、あんなふうにアプローチされたら私も金を受け取ってしまうだろうと思われた。昼休み、女子4人でご飯を食べている時にこのビデオの話題になったが、私のように真に受けてみている人は少なくとも女子の中にはいなかった。
「あのビデオ、古いよね。『お父さーんっ』って言うところなんか笑えたー」
と言うのが彼女たちの感想だ。思わず涙ぐんでいた私の立場は……。
──別にいいケド、せめて一人くらい話の合う人がいないもんかね……。
S能大学のU山氏の講義。コンピュータ業界の動向と裏話を4時間掛けて話してくれた。とても面白かった。この会社に入って良かったと初めて思った。
家に帰って直ぐに、友人から電話があった。追い詰められたような声で「今日これから会いたい」と言うので、彼女もつい最近配属された先で苦しんでいるのかなぁ……と変に嬉しかった。しかし、会ったら彼女は彼女なりに上手くやっているようなのでちょっと寂しい。だが1ヶ月前の大阪での研修中、彼女も泣くほど苦しんでいたことを思い出し、「私もだけど、アンタも一匹狼だったもんね?」と聞くと、彼女の言葉。
「私の方は一匹狼がワラワラ居たけど、鷹瀬は本当に一匹狼じゃん。カッコイー! ヒューヒュー!」
……所詮、私は一人らしい。
TW社という所で、CIS(営業活動概要モジュール)の特別研修を行なう。3日間で一人当たり10万円の受講料だという。ここでの講義は苦痛なものばかりだった。いかにして「営業マン」が作られていくかを生で見ることが出来て、ある意味勉強にはなった。
TW社の研修用の教室は、窓はあるがブラインドが下ろされたままで、天気の日も雨の日も、外界に関係なく延々講義を聞く体勢が取られている。一種、洗脳に近いものがあるような気がするのは気のせいだろうか。学生時代に聞いた話だが、洗脳に必要な条件は4つあると言う。
(1)狭い空間に閉じ込められること
(2)その空間には窓が無いこと(時間の感覚を無くすため)
(3)その空間は空調設備が整っていること(季節の感覚を無くすため)
(4)飢えさせること
──今回は4つの内、最後を除いて3つほど当てはまっているんですけど……。洗脳の裏事情を知っているだけに、ちょっと恐い……。
初めは「バカみたいだよね」の一言に同意してくれる人も少々いたが、研修の最後には居なかったような気がする。
客の役、営業マンの役に分かれて、脚本を読み上げる実演大会を3日間、朝から晩まで数多くこなした……。バカバカしくてやっていられないが、調子に乗って色々アレンジする男子が目立った。段々演技が濃くなり、その内ウケを狙う奴が増えてゆくのが恐かった。
もしかして、コレって洗脳が成功しているってコトなんじゃ……。
悩みはまだまだ続くようです……。自分で読み返していてもグッタリしちゃいました……。
よほど暇な方のみ、第4話へどうぞ。
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