日常エッセイ−34

「愛しき山男」

(2001年8月16日執筆)



 9月のアイルランド旅行に差し迫り、そろそろ準備を始めるか……とばかりに、本日バックパックを購入しました。
 今度は短い期間ではありますが、初めの数日間は荷物を持ち歩きながら転々とするので、現在持っているスーツケースではちと厳しい。しかし、1週間荷物を担ぎながら行動する訳でもないので、スーツケースのように荷物が上下関わらず取り出し易く、一望できるような構造であることが望ましい……。
 そんな相反する2つの願いを抱えたまま、どうしようか、どこで購入しようか、どんなのがいいのかな、という疑問を加算しながらネットの世界を彷徨うと、チラリホラリと「ニッピンで購入したバックパックが……」「このバックパックはニッピンで……」という文言を発見。

 ──OK、分かった。ニッピンだね、ニッピン。ニッピンか。ニッピン。(←我ながら頭弱そう……)
 そこでバックパック売ってるんだね? 専門店かな? 色々教えてくれるかな?

 手掛かりが余りにも少なかったので、すぐさま「ニッピン」で検索を掛け、まずはホームページを確認。



OUTDOOR MIND
ニッピン


山の道具を作り続けて半世紀!登山とスキー・スノボの店ニッピンです。



 おお! 私の希望通り、専門店でした。でも旅行の専門店ではなく、登山とスキーとスノボの専門店らしいです……。いや、それでもいい。何てったって、「OUTDOOR MIND」──訳して「戸外の活動を好む精神」。直訳ですが、良い感じです。(←……そうかぁ?)
 コホン。落ち着いて、私。

 さて、ホームページで店舗所在地を確認していると、MAPのリンクボタンの下に「クーポン券」というボタンが燦然と輝いているではありませんか。「クーポン券」──訳して「優待券」「割引券」「粗品引換券」。どう訳しても良い感じです。っつーか、クーポン自体既に日本語です。
 コホン。落ち着いて、私。

 地図を確認するよりも先に、いそいそと「クーポン券」のボタンを押すワタクシ。現れる別画面。



粗品引換券

このクーポン券を印刷し、お持ち下さい。粗品をプレゼント致します。
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( 数に限りがありますので、無くなり次第終了させて頂きます。 )



 ──「数に限りがあります」?! 数に限りがあるようなモノなんだっ! うわ〜! うわ〜っ!! なんだろう〜〜っ!! どっきどき〜〜!!

 俄かに頬に渦巻きが浮かび上がるワタクシ。理性を吹き飛ばす物欲。余りモノには執着していないくせに、「割引」とか「粗品贈呈」という行為を愛して止まないこの貧乏精神は、一体いつどこで染み付いてしまったのでしょうか……。
 たそがれる間もなく、プリンタの電源を入れ、まずはこのクーポン券を印刷し、次いで、ああこっちが最初の目的だったやね、とばかりに店舗地図を印刷し、準備は完了です。

 さて、以上のようなごくごく普通の経緯がありつつ、ニッピンおよび他店への数度に渡る偵察を経て、取り扱いバッグやその価格から、やはりニッピンにお世話になろうと決意を固め、本日クーポン券を握り締め、アウトドアマインドの店ニッピンを再訪したのであります。


<WALK ABOUT 55L/バックパックとリュックの一体型 3WAYバックパック>

 心に決めていたバックパックを手に持ち、レジへ向かいます。
 さて、会計の段になるといよいよクーポン券の登場です。
「あ、そうそう。忘れていたけどコレ……」
 そんなさり気なさを装う演出と共に、クーポン券をレジにそっと置いても、肝心のクーポン券、手の汗で湿って妙にくったりしているし、長時間握っていたためくしゃくしゃ……。見る人が見れば、このクーポン券に掛けられた期待の大きさはすぐに分かってしまうことでしょう……。

 しかしニッピンのレジ担当、そんな不特定多数の人間からの多大なる期待には慣れているのか、「ああ、ホームページ見て来たのね」的な反応を軽く見せると、無言のまま背後の棚から取り出した小袋を、包装途中のバックパックの上にそっと置きます。


<13cm×18cm×厚さ0.5cmの紙袋>

 中身は何なのか、どういうものなのか、「どうぞお使い下さい」の一言もなく置かれた小さな包み紙をじっと見詰め、中身が何であるか夢膨らませるワタクシ。
 しかし、観た感じから、厚みがない柔らかいもので、恐らくハンカチのようなものなのかな……と推測していました。

 勝手に推測したものの、数に限りがある粗品ですもの。やはり中身は気になります。
 家に着き、本来の目的であるバックパックの封を開けるよりも先に、なんとなく粗品小袋に手を伸ばすワタクシ。
 あ、やっぱり柔らかいな。なんだろう。なんだろうったら。

 封を開けると同時に、真っ白なビニールっぽいものが目に映ります。触って確認すると、布ではなく、やはりビニールのようです。
 ──アレ? ハンカチじゃないの?
 袋から完全に取り出してみると、どうやら粗品は折り畳まれている様子。
 ──ん? なんなの、これは……。


<ニッピンの「数に限りがある」粗品>

 ……………………なんだか分かりますかね……。アタシャこの手に広げて見たのに、一瞬なんだか分かりませんでしたよ……。
 以下、拡大図。


<ニッピンの「数に限りがある」粗品/拡大図>

 ──そうです。環境に優しいゴミ袋2枚アミノバイタル(スポーツドリンク)の粉末1個 まさしく粗品っ! しかし、まさしく登山家精神に満ち溢れた粗品っ!

 良い! この素朴な姿勢が良いっ! 粗品として贈呈するモノが「ゴミ袋」というメッセージ性も良い! 1枚でも5枚でもなく、2枚という妙に半端な枚数が良いっ!
 さすがにゴミ袋だけじゃ……という迷いが伺えるように、それでも山を愛する者同士に秘めやかに通じる心遣いとして、アミノバイタルを1個添える、その奥床しいオマケ精神が良い!(※ゴミ袋とアミノバイタルのどちらがオマケのつもりなのかは不明)
 これらの粗品を持って、「数に限りがある」という節約魂が良いっ!!

 中途半端に資源の無駄遣いを見せ付けるメモ帳類よりも、使い捨てと言うには余りにも使えないボールペンよりも、趣味の合わないハンカチよりも、使い勝手があるようでないバンドエイドよりも、あればあったで使うがなくても良い綿棒よりも、やっぱゴミ袋2枚の方がインパクトあるし、嬉しいよね! しかもオリジナルブランド、メッセージ付き! 忘れちゃいけないスポーツドリンク粉末1個付き!!

 さすが登山用品を扱う専門店だけあります。なんでしょう……この山男のような不器用な気遣いは……。
 あ……なんかショートストーリーが浮かびます。


タカコ 「え?」
山男 「ほら、来月お前の誕生日だろ? 8月の誕生石ってなんだっけ?」
タカコ 「……ペ、ペリドットだけど……」
山男 「ペリドット?」
タカコ 「ほら、透明で黄緑色の……前に私がしてたペンダントの楕円形のトップの……」
山男 「ああ、橄欖(かんらん)石のことか。上部マントルを作る鉱物だな。分かった」
タカコ 「………………」

タカコ (ゆ……指輪くれるつもりなのかな……。でも私の指輪のサイズなんて知ってるのかしら? ペンダントかな……。ブローチ? なんにしても、誕生石を聞いてくれたのなんて初めて……。凄い嬉しいっ!
 去年はウッカリ『本棚欲しいんだよね』なんて冗談で言ったら、作ってくれちゃったもんな……。まさかアレが誕生日プレゼントになるなんて思わなかったなぁ……。まぁ、今でも大事に使ってるけど……。
 一昨年はなんだっけな……。ああ、そうか、一昨年はブルーベリーの苗木だっけ……。そりゃ『視力が落ちちゃって。ブルーベリーって目に良いんだって』とは言ったけどさ……。まさかその苗木が誕生日プレゼントになるとは思いもよらなかったなぁ……。まぁ、毎年実を付けてるけど……。
 その前は……ああ、そうだ。あの頃は私も分かってなくて、『花束とかって嬉しいよね』なんていう婉曲なリクエストしたんだった……。そしたら花の種を30種類くれたんだっけ……。まぁ、全部見事に咲かせたけど……。
 いや、それぞれ嬉しい。嬉しいけど……なんかこう……1度でいいから普通のプレゼントって貰ってみたかったんだよね……。
 ああ、でも今年こそアクセサリーかぁ……。嬉しいなぁ……。誰かに言われたのかな?)


──誕生日当日。

山男 「遅くなって悪いな」
タカコ 「今日は空けといてね、って言ってたのに! 酷いよ、もう22時じゃない。しかも何、そのカッコ。また山に行ってたの? 今日、何の日か忘れてるんじゃないっ?」
山男 「忘れてないよ。ホラ、手、出して。誕生日おめでとう」
タカコ 「…………………………何……この岩石……?」
山男 「何、って、橄欖(かんらん)石の原石だよ。日高山脈まで行って、採ってきた

──タカコに襲いかかる失望。そして、沸き起こる愛情。

タカコ (……………………駄目だ……私はきっと一生この人から指輪とかネックレスとか、世の中一般の女の子が貰っているような普通の贈り物は貰えない……。でも私、この人のこと大好きだわ……)

山男 「え? タ、タカコ?! そっ、そんな泣くほど嬉しかったのか?
タカコ 「……ううっ(号泣)」


 ニッピンの粗品からこんな粗末なストーリー思い浮かべて遊んでいる場合じゃないんですが……。
 とにかく、私はこのニッピンの姿勢から、愛すべき不器用な山男を垣間見たような気がしたのでした。

 天晴れニッピン。我らがニッピン。それ行けニッピン!
 【脱サラ宣言!】では公式にニッピンを応援致します。



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