日常エッセイ−32
「牛乳から教訓」
(2001年6月5日執筆)
最近、やることが多々あるせいか、寝るのが午前2〜3時頃になってしまいます。自分の時間を日に5時間は確保しようと思うと、こういう生活リズムになってしまうのです。お陰で会社で眠い眠い……。ちょっと気を抜くとひとりでに揺れ始めるから危険です。
残業せずに真っ直ぐ家に帰った場合、夕食&一仕事は21時頃には終わるので、そこから先は大抵、寝るまでの間PCの前で過ごすのが平日の日課ですが、私はPCに向かう時に「ながら」の姿勢を取れません。つまり、何か食べながら、音楽を聴きながら、テレビを見ながら、何かをしながらPCに向かうことが出来ないのです。
それは別に文章を書いている時だけでなく、ゲームをしている時でも、家計簿を付けている時でも、ネットサーフィンしている時でも、おおよそ頭を使っていないと思われる場合であっても駄目なのです。1つの時間に複数のことが出来る人が羨ましくてなりません。
さて、今日の本題はそんな「ながら」論議ではないのです。
こんなふうに夕飯を終えてから寝る間際までPCの前にかじりついていると、当然自分の時間を満喫し終えて、さぁ風呂に入って寝るか、と思うその前に、とてもお腹が空いていたり、とても喉が乾いていることは珍しくありません。本日もそうでした。
基本的に空腹には強いのですが、さすがに風呂上りともなると、乾いていた喉が一層乾き、身体が水分を欲します。腹の足しになることも頭の隅に置きつつ、カラカラに乾いた喉にはやっぱ牛乳でしょう。健康にも良さそうだし。冬ならば緑茶と行きたいところですが、もう夏だし。冷えた牛乳をグイっと一杯。
──以上のような戯言も、どうでもイイのです。
冷蔵庫を空けると、既にかなり前から口が開いて軽くなっている牛乳パックが1本。この軽さはコップ1杯あるかないかだな。よーし、良いでしょう。私が残飯処理機になりましょうとも。コップを使うと使用後に洗う水が無駄だからね、この量なら私が最後だし、行儀が悪いのは百も承知で、いっちょ直飲みさせて頂きます。
手にした牛乳パックの注ぎ口に唇を構え、何故か空いている右手は腰に添え、足を肩幅程度に開き、勢い良く左腕に角度を付けます。
丑三つ時に、牛乳相手に高圧的な態度を取ってみせる私……。思えばこれがすべての始まりだったのでしょう。
牛乳が下方に押し寄せることで動いたパック内部の冷たい空気が唇に当る瞬間、次に訪れる喉の潤いを予感して心が震えます。
カラカラに乾いた喉は油断しまくり全開状態。最初のひと口分は検問なしに喉越しを許可されたのであります。
ひと口目をゴックンと飲み干した直後に、鼻先で待機する牛乳から、えも言われぬ仄かな刺激臭が……。飲み干した第1陣の残液が、舌の上で妙にまったりとした触感を伴って、自分たちが牛乳から進化した別の何かであることを主張しています。
そう、この触感は牛乳と言うよりヨーグルトに近い……これはまさに濃度の高い飲むヨーグルトのまろやかさではないですかっ!
異常事態に気付いた私は、瞬時に洗い場に駆け付け、口の中に残る進化した牛乳を吐き出し、手にしていた牛乳パックを引っ繰り返します。パックから零れ落ちる牛乳の擬音が「ザバーッ」ではなく「トロ〜リ」だった時点で、自分の身に起こった出来事がコトの他デンジャラスであることに改めて気付かされました。
また一方で、急激に冷えたことにより味覚が鈍くなっていた口の中でも、体温を取り戻すと同時に、今己が口に含んだものがどれだけヤバイものか、と言うことを、味蕾(みらい=味覚芽)たちが主張し始めます。
腐った牛乳って酸っぱいだけじゃないんですねぇ。妙な苦味があるの。いや〜もう大発見っ!
とにかく、口の中のものを全部吐き出そうとも、この酸っぱ苦い絶妙な味が残る残る。大量の水で口を濯ごうと、この後味がいつまで経っても消えないのです。
嗅覚に始まり、触覚、視覚、聴覚、味覚……五感がフル回転して「この牛乳、ヤバイっすよ」と警鐘を鳴らしています。
いやもう分かってるってば……。
精神的にも物理的にもかなりのダメージを受けた私が、ボロボロになりながら空になった牛乳パックを洗っていると、ふと注ぎ口に記載された賞味期限が目に入りました。
……………………5月14日か……。最近牛乳飲まなかったしなぁ……。っつーか、根性ない牛乳だよ……ったく。私も勿論悪いが、死亡宣告から20日間くらい頑張れ。
飲み込んでしまったひと口目の牛乳は、かなり強烈な存在感をもって私の胃に収まったままです。30分経った今になっても、まだ私のお腹はウネウネしています……。明日大丈夫かな……。
コップを洗う水が勿体無い──そんな健気な節約魂が大きな災害を招いてしまった、というのが、この出来事の教訓なのでしょうか……。急がば回れ? くるくる回れ??
なんか違う気もしますが、皆さんも食品の進化……もとい、腐敗酸敗にはくれぐれも気を付けて下さい。