日常エッセイ−26
「性別論議」
(2000年5月7日執筆)
私は昔から身長が高かった。昔から態度がデカかった。昔から声が低めだった。ちなみに声に正比例して胸も低かった。(……自虐オチ)
だが私は正真正銘女であり、しかもそれを素直に良かったと思っており、女の子の大半が一度は抱くらしい「男になりたい」という願望の欠片を持ったことすらないのである。本人的には女まっしぐらGoGo!という感じなのに(←ここら辺に問題があるのだろうか……)、周囲からはそれを否定されることがしばしばある。
病院の受付で男に間違えられたとか、道を歩いていて「お兄さん」と声を掛けられたとか、ヌードショーの呼び込みに手招きをされたとか、単発でこのようなことはあるが、それは私の人生の時間配分の中で圧倒的に低い%(パーセンテージ)でしかない。
だが、異例中の異例、今でも鮮明に覚えている出来事として、短期間に3度も男と間違えられた友人Zとのトルコツアー旅行がある。幼少の頃ならいざ知らず、この時の私は23歳……。ナゼだ……と思う気持ちはいまだに強い。
ミステイク・ツアーの詳細は以下の通りである。
1度目のミステイクは出発前だった。空港で「飛行機乗る前にトイレに行っておこうか」と友人Zと女子トイレに入ろうとすると、同じツアーメンバーのおばさんが後ろから慌てたようにこう言ったのである。
「ちょっと、旦那サン! 男子トイレは反対側よ!」…………男と間違えられたばかりか、私と友人Zは夫婦だと思われていたらしい。ダブルパンチである。
まさか自分のこととは気付かず、私がそのままトイレに入ろうとすると、腕を掴まれて女子トイレへの侵入を妨害された。女子トイレに入る正当な権利を持っている私が驚いて振り向くと、おばさんはようやく私の性別に気付いたらしく、「あらヤダ、背が高いから間違えちゃった。ごめんなさいね〜。おほほほほほほー」と曖昧に笑いながら逃げて行った。
──友人Zは横で大笑いしていた……。
2度目のミステイクはトルコに到着した初日、夕食の時である。友人Zと2人でお喋りしながら並んで食事をしていると、前に座っていたツアーメンバーである老夫婦の旦那サンが、こう話し掛けて来たのである。
「私たちもよく旅行をするんだけどね。新婚旅行で来る若い人たちはすぐに喧嘩しちゃうカップルが多いのに、君たちは仲が良いねぇ」………………新婚カップルと友達同士を比べられても……。
私たちは返事に困った。「そ、そうですか……」とかなんとか歯切れの悪い返答をしていると、隣に座っている老婦人が「あなた……」と意味深に旦那サンの腕を引っ張った。すると旦那サンはハッとしたような顔をして、慌ててこう言ったのである。
「ああ、そうか。そうだ、そうだ。そうだった。お友達同士だもんなぁ。はっは!」……………………何が「そうだった」んだ? 深くは追求しないが、何やら良からぬ誤解があったらしい……。
──友人Zはやはり横で笑いを噛み殺していた。
3度目のミステイクは露骨だった。
丁度旅行も後半に差し掛かり、ツアーメンバーとも気心が知れてきた頃のことである。その日宿泊することになったホテルは敷地の広いゴージャスなホテルで、私と友人Zは沈む夕日を背景に記念写真を撮ろうと、ホテル自慢のビーチで踊り出た。
写真を撮り終え、ご満悦の私たちは「いや〜いいね〜」とかなんとか言いながら上機嫌でビーチから庭に向かって歩いていた。すると、背後から優雅な雰囲気をぶち壊す聞き覚えのある声が掛かる。
「やぁやぁやぁやぁ! 君たちか!」
声の主は、私たちが密かに「ボスカップル」と呼んでいるツアーメンバーの中で一番濃い中年夫婦の旦那サンだった。私たちが「あ、どうも」とお辞儀をすると、旦那サンは奥さんと目配せをするように笑いながらこう言ったのである。
「いやね、さっきから良い雰囲気で寄り添って歩くカップルが前方にいるから、『今にチューするんじゃないか』って女房と言ってたら、よく見たら君たちだったよ。あっはっはっ!」──友人Zは案の定、腹を抱えて笑っていた……。
「……………………」
ここで一言言っておきたいのは、私が男と間違えられるのは後姿や遠目からであって、正面から間違えられたことはない!と言うことだ。私がたまに(←意地)男と間違えられるのは、体格が良いからってだけなのだ、多分。このトルコツアーで3度も男に間違えられたのは、相手が目の悪い老人だったからだ、きっと。
それに、これも充分過ぎるほど立派な要因だと思うが、友人Zは背が低い。(Z……私の名誉のためなの……読んでいても怒らないでね……) 私と友人Zの身長差が約20センチほどあったことや、私の髪が短かったことなどがこの時の原因と見て、傷付くのは延期させてもらう。(なんだか私……一生懸命……)
さて、最近では髪を伸ばし、後ろからでも男に間違われることはほとんどなくなった。(←まだ完全ではないらしい) 前からでは以前と変わらず、間違えられたことはない。そう、私は別に顔が男っぽい訳ではないのだ。
しかしそんなささやかな最後の一線も、つい数ヶ月前に難なく越えられてしまった。真正面から向き合った人に、髪が長かったにも関わらず、一瞬とは言え男に間違えられたのである。
アレは忘れもしない2000年2月5日(土)──インフルエンザで近所の病院へ行った時のことである。当時の就職日記にもあの時のコトを一部だけ書いたが、男に間違えられたことは省略して書かなかった……。あの当時は物理的に弱っていたし、ショックがなかなかに大きくて書けなかったものと思われる……。
真相は、病院に着いてから看護婦さんと一言二言交した時に、看護婦さんが私をまじまじと見て、「あら、やだ。男の子かと思っちゃったわ〜」と言ったことから、彼らの失礼は既に始まっていたのである……。
このことを友人Zに話すと、「えー? この髪の長さでなんで?」とやはり不思議に思われた。髪の長さを決め手にされてしまう辺りちょっと切ないモノがあるが、それはこの際良しとしようじゃないか。
一応第三者の友人Zも「なんで?」と疑問に思うのだ。私だって不思議だった。その時の服装はこげ茶のロングコートにマフラー。デザインはどう見たって女物だ。マフラーで隠れていたとは言え、髪だって肩につくほど長いぞ。確かに化粧はしていなかった。それは敗因(?)だと思う。しかし、化粧をしていなくても男と間違えられるほど今の私は男ではない(←混乱気味)
──そんな感じのことを訴えていると、友人Zがふと、「ちょっと待って。その時の様子とか、タカセが言った台詞とか、詳しく再現してみて」と言うので、言われるままに身振り手振り口振りすべてを忠実にリプレイしてみた。
一通り私がその時の状況を再現し終わると、友人Zは深く溜め息を吐き、呆れたようにこう言ったのである。
「……アンタ、そりゃ間違えられるよ」ななななななんでっ!!?
男言葉を使っている訳でもないのに……。私は自分のことを「俺」や「僕」などと称すようなティーンエィジャーの女の子にありがちなオイタは、ただの一度だってしたことがないのに……。一人称は昔っから「私」一本だ! なのに、何故っ?!?!(まぁ社会人の男性の一人称も「私」だけどね……)
友人Zはご丁寧に第三者的解説を続けてくれた。
「だって、口調と所作が男だもん」く……口調……しょ……所作……が……男……? 振るまいが男っぽいってコト……? ど、どこが……? どの辺が……??
動揺する私に、友人Zは考え込みながらも冷静に続ける。
「うーん、なんだろう……。どこがどうって訳じゃないんだけど、何となく男なんだよね……」──ガーン……。一番嫌なパターンじゃないか……。他人にも明確な原因が分からない私の中の男を、どうやって治して行けば良いの……?
途方に暮れる性別論議はこれだけに留まらない。
このHPを立ち上げてから、私はそれまで全く頓着せずに生きてきた「文章上の性別」というものまでも意識せざるを得なくなった。なぜならこのHPを見た人が結構な確率で、「え? これ書いてる人って男じゃないの?」と思っているらしいことが判明したからだ……。
友人Zの友達の上司(……遠い)がこのHPを見て、暫くの間私のことを男だと思っていたという。母の友人の娘の男友達(……やはり遠い)がこのHPを見て、「え? この人男でしょ?」と言ったという……。
何故だ。今度は私を見たこともない人にまで男に間違えられているというのか。事態がエスカレートしている気がする……。
なぜ顔も口調も体格も所作も窺えない文章からでさえ、男だと思い込まれてしまうのか……。
私は日常生活でも文章上でも一人称は「私」としているし、女であることを隠したことは一度もない。このHPに限って言えば、プロフィールには「性別:女」と堂々と掲げているし、入口ページには「一人の女性の生態記録が、」というように性別の自己申告までしている。このHPを見て私のことを男だと思っている人は、そういう細かいところを見ていないからなのだろうが、逆に言えばこの事実からは「文章をぱっと見て男」という、より恐ろしい結論が導き出されてしまう。
言葉が乱暴だからか? 語尾を「かしら」とか「のよ」とか「だわ」とか「なのね」とかにしてみればいいのカシラ?
──どうだ? ちょっとは染色体XXに近付いたかっ?! はぁはぁ。
何がイケナイの? どこがマズイのかしら。くねくね。(←パニック状態)
しなを作って誤魔化そうにも文章上で意味もなくシナるのは難しい……。第一、日常生活で意味がある時でさえ上手くシナれない私が、文章でシナを作るなんて高等技術を持ち合わせている筈がない。どうする私。どうなる私。
──女らしさを求めて、今日も私は彷徨うのであった……。