日常エッセイ−25
「魅惑の銀座コージーコーナー」
(2000年2月20日執筆)
創業50年を迎え(注:2年前の話)、ますます老舗に磨きがかかった「銀座コージーコーナー」──横浜にあろうが、浅草にあろうが、高級地の地名を冠に呈することにより、有無を言わさず一等地の高級感を醸し出してくれる素晴らしき店名である。
私はまず、コージー(注:愛称)のこの押しつけがましい自己申告な姿勢が好きだ。
そしてこんな高級感を主張したいらしいコージーの目玉商品は、多分なんと言っても1985年以来の大ヒットロングラン商品=ジャンボシュークリーム(100円)なのだろう。とにかく他を圧倒するほどドでかいシュークリームを、3桁の数字の中で最も腰が低い100円という破格値で世にご奉仕するコージー。
店名で高級感に拘っておきながら、商品でそれを自ら覆す……こういうパラドキシカルなコージーの姿勢も好きだ。
更には、こんな激安商品で「ウチは庶民の味方でっせぇ〜」という態度をチラつかせておきながら、実はよく見ると他の商品はデカイことはデカイが、安くもなければ大して美味しくもないという、アンバランスでありながらも商人(あきんど)感覚に優れたコージーの経営方針が大好きだ。
「銀座コージーコーナー」──ここには商売というものの真髄があるような気がしてならない。
安っぽいんだか高級なんだか、コージーの存在そのものの胡散臭さは私を惹きつけて止まない。「美味しいの?」と聞かれると素直には頷けない。むしろ「失敗したの?」と聞かれれば素直に頷くことが出来るほど、コージーでの苦い記憶は多々ある上に鮮明だ。
「コージーにしなきゃ良かった……」と思うことは何度もあれど、「コージーにして良かった!」と思うことはほぼ皆無である。
食に拘るグルマンな私は「失敗した」と思う店に二度足を運ぶほどお人好しではない。誰だってそうだと思うが、私は多分普通以上に合格点に満たなかった店に対する見限りがシビアな人間である。
だがしかし、「なんかこれから甘いもの食べたいよね〜」という事態に陥った時、何となく足が向いてしまうのが、前回「二度と行くまい」と心に誓ったはずのコージーなのである。
非常に興味深いことだが、コージーに寄せる複雑な心境は私の中だけに在るものではないらしい。私の愛用する「ぴあランキン’グルメまめ版 20万人が選んだ食べるランキング/銀座」のカフェ・ケーキ・デザート部門でも、「銀座コージーコーナー」は当然のようにランクインしている。それもかなり高い順位で、である。
参考のためにこのグルメ本から銀座の有名喫茶店とその評価をいくつか紹介しておこう。
| 銀座/カフェ&喫茶 | コージー コーナー |
ぶどうの木 | マキシム ・ド・パリ |
千疋屋 | ウエスト | アンジェ リーナ |
| おいしかった | ★★★ | ★★★★ | ★★★★★ | ★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ |
| ボリューム充分 | ★★★★★ | ★★★ | ★★★ | ★★★★ | ★★★ | ★★★★★ |
| 居心地いいよね | ★★★ | ★★★★★ | ★★★★ | ★★★ | ★★★★ | ★★ |
| サービスに満足 | ★★ | ★★★★★ | ★★★★ | ★★★ | ★★★★ | ★★★ |
| この値段ならOK | ★★★★★ | ★★★ | ★★ | ★★★★ | ★★★★ | ★★★ |
| 銀座・喫茶総合 | 5位 | 2位 | 4位 | 8位 | 11位 | 23位 |
上記の表を見ても分かるように、読者採点表によればコージーの評価は「味=3点、量=5点、居心地=3点、サービス=2点、価格=5点」と決して高くない。特に「味」においては、紹介されている33店の喫茶店のうち、最低点に当たる3点である。(詳しい内訳は、5点=18店、4点=10店、3点=5店)
居心地もさほど良くなく、サービスにはちっとも満足していない。なのに、総合評価とも言える「この値段ならOK」では他の店がなかなか得ることの出来ない満点を獲得しているという不思議さ!
では、客に「この値段ならOK」と思わせる要素はなんなのだろう……。
それはもう、この表から分析する限り答えは明白である。「ボリューム充分」──コレしかない。「質より量」という庶民的にポピュラーなモットーで私たちを誘惑するコージー。どこまでも侮れない。
ボリューム充分──コージーを利用されたことのある方なら分かるだろうが、確かにコージーは注文するもの注文するもの結構な確率でデカイ。店頭売りしているケーキは、下手をすれば1個が2人分ある。店内で出されるものに関しては、食べ残しを考慮に入れてデカクないものも用意されている。が、デカクないものはインパクトで勝負を挑んでくるから安心していられない。
ここで具体的な例を挙げて話をしようではないか。
去年末、私は友人とコージーを訪れ、インパクト商品の代表格のようなパフェを注文した。「紫芋のヨーグルトパフェ」(800円)──そもそも商品名からして間違っているような雰囲気が立ちこめていた。素人目に見ても、バターにマッチする芋系の味は、ヨーグルトの酸味の利いた味には合わないような気がする。芋に合う菓子食材はバターや生クリームがメジャーであり、ヨーグルトに合うのは柑橘系やベリー系の果物がメジャーではなかろうか。
しかし、こんな考えは所詮素人の枠に捕われた貧相な発想なのかもしれない……。堂々と季節限定の一押しメニューとして写真入で紹介されている「紫芋のヨーグルトパフェ」を見ていると、弱気になってくる。
私は悩んだ。常日頃から素早く注文を決められるタイプではないが、コージーではその傾向が顕著になる。この迷いこそが実は楽しいのであり、コージーに再来する要因の一つであることは間違い無いだろう。
話を戻すが、写真から推測する「紫芋のヨーグルトパフェ」は、下層部に紫の何かが混じったヨーグルトと思われるベースがあり、上層部にはメインである紫芋を使って、モンブランの栗を紫芋に代えて作ったようなごく一般的なペースト状のものが小高く盛られている。そして舌休めのつもりなのだろう、クレープの皮が紫芋のペーストの下に飾られている。
このパフェの上層部の味は想像ができる。多分、私の好きな味だと思う。問題は、よく分からない下層部だ。ヨーグルトに混じっている紫は、紫芋をどう調理したものなのだろうか。紫芋とヨーグルトの組み合わせは、どう想像しても合わないような気がするが、天下のコージーコーナーがそんなにメチャメチャなモノをメニューに加える訳がないだろう。
そう信じて注文する覚悟を決めた。
同じ頃、友人も「かぼちゃのプリンアラモード」(850円)という、メニューの写真から判断するに、「かぼちゃプリン」と「バニラアイス」と「粒あん」を盛り合わせた、和風なんだか洋風なんだかよく分からない、しかし挑発的であることだけは確かなパフェを注文することに覚悟を決めたらしい。こちらは味の想像はつくものの、なんだか味がどうこうとかいうレベルにないような気がしたが、チャレンジャーは多い方が楽しいので、止めるどころか勧めてしまった。
この時点で、二人とも自分を誤魔化しにかかっている自覚はあったが、敢えてそのことには触れなかった。心持ち緊張しながら注文を済ませ、各々受け持ちの……いや、期待のパフェを待った。
そして運命の時が来た。パフェの到来は、「………………またしてもやられた」という気持ちの到来でもあった。いつもいつもいつもいつも、コージーで何か新製品にチャレンジすると沸き起こる感情が、この時も類に漏れずに私を襲った。
まず私が注文した「紫芋のヨーグルトパフェ」だが、下層部のヨーグルトに混ぜられた紫の正体は、紫芋ではなく、なんとブルーベリージャムだったのだ! 素人考え宜しく、やっぱりヨーグルトに合うのはベリー系の果物だと、コージーも認めているのである!
では、このヨーグルト主体の下層部とメインの紫芋主体の上層部との兼ね合いはどうなっているのか? これがなんと驚くべきことに、私が舌休めのお飾りだと思っていたクレープ生地が下層部と上層部の敷居の役目を果たしていたのであるっ!!
つまり、我らがコージーは素人の私が抱えていた「芋とヨーグルトって合わないんじゃないの?」という疑惑を最初から抱いており、それを承知の上で敢えて相性の良くない2つの食材を組み合わせ、インパクトを与えるだけ与えておきながら、たった1枚のクレープ生地で仕切ることにより、融合されることのない味を上段下段に分けながらもひとつのグラスに収めただけだったのである!! こんな禁じ手って許されるだろうかっ?!
私は妙な具合に盛り上がった。そして敷居の役目を果たしているクレープを破かないように、上層部の紫芋のペーストを掬うように食べながら思った。何故、「紫芋のヨーグルトパフェ」を開発したのか。横で友人が「ちゃんと上と下を混ぜて食べなよ〜」と、このパフェの根本的なミステイクを指摘する茶々を入れたが、当然のようにその台詞を無視して、まず上層部だけをそっと食べながら尚も考えた。
何故だ。何故、ヨーグルトパフェ仕立てにしたのだろう……。
比較的美味しかった上層部、つまり「紫芋のパフェ」の部分を食べ終わり、敷居のクレープを剥がす。新しく現れたのは、下層部の「ヨーグルトパフェ」だった……。ひとつのパフェで、ふたつの味。まるで別世界を味わえる。これぞコージーの魔術!
──騙されるな、私。冷静になれ。
目下に広がるブルーベリーヨーグルトパフェは、普通のブルーベリーヨーグルトだった。不味くはない。しかしこれはストロベリーヨーグルトでもキウイヨーグルトでも、上の紫芋と味の統一が取れていない以上、何でも良いような気がする。何故、ブルーベリーが選ばれたのか……。
私の疑問とは別に、友人は私が想像した通りの「かぼちゃプリン」と「バニラアイス」と「粒あん」の盛り合わせを食べている。バラバラの食材をひとつのグラスなり皿なりに盛ることがコージーのモットーなのか……? まぁあっちは何となく茶系統で統一が取れていると言えないことも無いけどね……と、そこまで思ってハタと気付いた。
何故、ストロベリーでもキウイでもなく、ブルーベリーなのか。理由はこんなにも簡単ではないか! 紫だからだ! このグラスに紫芋とブルーベリーが同席している理由は、どちらも紫だからなのではなかろうか?! 味の統一なんて、色の統一を前にすれば些細なことでしかない。味はクレープ1枚で分断できるが、色はそういう訳にはいかない。味はミスマッチなものが2種類あれば楽しいが(そうか?)、色はミスマッチな2色が目に映れば食欲だって萎えるだろう。
そうかー。色かー。これは参った。してやられた。さすがコージー。食欲ではない何かが満たされた気がする。こんな喫茶店はなかなかない。
間違っていることは重々承知している。しかし私は満足なのであった。
なぜコージーに再び足を向けるのか。
立地条件や営業時間などは勿論選択の要因ではあるが、決め手ではない。「コージーに行こう!」と決心する時の心境は、強いていうなら「競馬に行こう!」とか「競輪に行こう!」とか「競艇に行こう!」とか、そういう「一山当ててやる」的なものに近い気がする。
コージーは人をギャンブラーにさせる。外したって構わない。コージーで何か得体の知れない新メニューにチャレンジする時、自分がギャンブラーになった満足感と、ちょっとした冒険心が満たされるのだ。きっとコージーもその辺りの人間心理を研究し尽くして、「紫芋のヨーグルトパフェ」のような斬新な季節限定メニューを頻繁に用意してくれるのだろう。
このような遊び心(コージーとしては遊んでいるつもりは無いだろうが)が、私たちを惹きつけて止まない大きな理由ではないだろうか。
魅惑の「銀座コージーコーナー」──何度失敗したと感じても、新たなるチャレンジと冒険を求めて、いつの日か近い将来に再び足を運ぶのだろう。
余談だが、コージーにはデカイ上にインパクトを兼ね備えた完全無欠の目玉商品も用意されている。「話のネタに」とか「酔った勢いで」とか「宴会の延長で」とか、そんな特殊な理由が無ければ注文できないのでは……と思わせる苺パフェ「ストロベリーシャンテリー」(1000円)に至っては、ウィンドーに飾られた見本品に添えられている値札を見て、「……これは、何分か以内にコレを全部食べたら1000円の賞金が出る、ってコトなのかな?」と、かなり長い間疑っていたほどである。この「ストロベリーシャンテリー」、1店舗で1日に平均何個注文を受けるのか気になって気になって仕方がない。