日常エッセイ−19

「アヤシイ品々」

(1999年9月12日執筆/2000年1月19日加筆)



 別に私は通販マニアという訳ではないが、過去に3回ほど通販で痛い目を見ている。現在までに通販を利用したのが実に4回ということを考えれば、この失敗の確率はかなり高いと言えるかもしれない。

 初めての失敗は小学生の頃だった。
 購入したものは「驚異の速読術! トレーニングセット」。商品名通り、訓練を積むことによって速読を可能にするという、驚異のトレーニングセット一式である。
 冷静に考えれば、訓練をして速読が出来るようになるのは当然のことで、「驚異」でもなんでもない。現に商品名を吟味すれば、「驚異の」という形容詞は「速読術」に掛かっているのであって、トレーニング自体は驚異でもなんでもないと、相手側も最初から申告してくれているではないか。読み取れなかったのは私の国語的な力不足によるミスだ。

 とにもかくにも勘違いした私は、この速読術をマスターできるらしい商品が欲しくて欲しくて堪らなかった。しかし当時の私はしがない小学生である。確か価格は1〜2万円程度だったが、小学生がこれを一気に購入するのは無理だ。私は母に頼んで12回払いのローンを組んでもらい、この「驚異の速読術! トレーニングセット」を手に入れることになったのである。もちろん郵便局への支払いの手続きなどは、すべて母に任せることとなった。

 いよいよ商品が届き、逸る鼓動を抑えながら箱を開けて──……私は愕然とした。箱の中には無数のカセットテープと、それと同じだけの「いかにも教材」という本がギッチリと詰まっていたのである。
 幼いながらも私は思った。「何コレ……これだけ勉強しろってこと?」と……。
 よくよく考えれば「トレーニングセット」と言うくらいなのだから、トレーニングのための教材が送られてくるのは当たり前なのだが、小学生の私はもっとこう……浅はかに、自分の努力なしに速読術が身に付く魔法のような何かを手に入れた気でいたのである。だが、その期待を打ち砕くように、目の前に散在する教材の数々……。
 まだ何もしていない段階で、私は思った。

 ──話が違うじゃん……っ!

 もうお分かりだと思うが、私はこのトレーニングセットを販売している会社の誰とも話などしていない。しかし私は騙された……と強く思っていた。
 教材に目を通すどころか、包装してあるビニール袋を破くことすら億劫になるような現実を突きつけられ、私は何やら訳の分からぬ敗北感で胸を一杯にした。
 小学生に通販は荷が勝ち過ぎたのか……。私は成熟な子供だと己を勘違いしていたが、しょせん小学生は小学生に過ぎないということなのか……。
 私はもっと大きな問題が根底に巣食っていることには気付かず、トレーニングセットの箱を静かに閉じた。そして二度と再びその箱を開けることはなかったのである。(未使用の「驚異の速読術」は、今も押し入れの奥でひっそりと出番を待っているが、彼女の活躍の予定はまだない)

 その後、毎月数千円の支払請求だけが虚しく届き、その度に母から「そう言えばアナタ、速読術はどうしたのよ」と詰問されることになった。付随される説教は耳に痛く、その度ごとに新鮮に私をグッタリさせた。自業自得なのだが、事が間抜けすぎるために脱力感は強かった。こういうことが1年間12回繰り返され、ようやく「驚異の速読術」は我々母子の記憶から消え去っていったのである。

 小学生にして通販に手を出し、私は一つ学んだ。
 胡散臭い商品であればあるほど、分割払いはいけない。支払いはアッサリと済ませ、購入の記憶はスッパリと忘れる。コレに限る。
 ──さすが小学生が考えることだ。まるで解決になっていないというのがミソだろう。


 2度目の失敗は高校生の時だ。
 今度の商品は「キオークマン」という、記憶効率をアップさせるための、マイク付きヘッドホンである。期待通りと言うか、何と言うか、これまた思わず魂が抜けるような間抜けな商品名だ。今の私ならこの商品名を聞いただけで「ダメだ、こりゃ」と呆れているだろうが(←いや、次回を見る限りそうでもない)、分かり易い商品名は通販商品の宿命のような気がして、敢えて突っ込みもせずに購入を決意した。

 小学生の時の私とは違う。製品の特徴だってしっかり理解した。今度こそ、役に立つものを購入しているに違いない。
 結果的に小学生の頃から精神的に成長していないらしい高校生の私は、当時強くそう思った。唯一成長点を挙げるとすれば、支払いを一括で早々に済ませておいたことくらいだろう。

 キオークマンの仕組みはこうだ。勉強(記憶)の効率を良くするためには、目で見て、耳で聴き、発声し、手で書く、という行為を並行して行うのが良いという。キオークマンを装着して勉強すれば、発した声をマイクが拾い、そのままヘッドホンを通して自分の声が耳元で直に響いて脳を刺激し、効率の良い記憶が可能になると言うのだ!!
 ──よくよく考えれば、わざわざキオークマンに頼らずとも自分の声は耳に届いている訳だし、頭が良くなる(成績が上がる)かどうかは、キオークマンの存在にかかわらず、どれだけ勉強をしたかに掛かってくるのだが、当時の私はこのキオークマンの使用によって、劇的な成績アップが謀れることを信じて疑わなかった。平たく言えば、馬鹿である。

 キオークマンが届き、今度こそ私は箱を開け、ビニール袋を破り、説明書を片手に商品を装着してみた。ここまでコマを進めたのは私にしてみれば画期的なことだった。
 スイッチを入れ、マイクの位置を調節し、声を発してみる。すると自分の声がヘッドホンを通じて直に耳元で聞こえる。
 なんだろう、イイ感じだ。発した言葉がすべて耳に染み入る。脳みそに染み入る。なるほど、こういう仕組みで記憶力がアップするのか。さすがキオークマン!

 私は結果も出していない内からキオークマンへの信頼感を高めていった。

 目前に控えていた期末テストの勉強に、キオークマンは必須だった。私は毎日、とは言えないが、いつも以上に勉強に力を注ぎ、教科書や参考書の文章を黙読せずに声を出して読み上げるように心掛けた。そうでないとキオークマンの出番がなくなるからだ。キオークマンを装着しながら黙々と勉強すれば、キオークマンは高価な耳栓に成り下がってしまう。それは何としても避けたい事態だった。

 結果、成績は上がった。だが私は2週間ほどキオークマンと密に付き合ったお陰で、彼(「マン」と言うのだから男だろう)の真意を見抜いてしまった。今回のテストの点数が上がったのは、私がいつも以上に勉強したからではないか。彼はそこにいただけだ。彼がいなくとも、同じように勉強すれば成績は上がる。

 ──騙された……っ!

 いや、だから高校生の私よ。元々キオークマンはそれだけのモノで、騙すも騙さないもないのでは……。
 今でこそそう思うが、当時の私は自己嫌悪も相俟って、キオークマンを許さなかった。第一、彼を装着している私の姿は、かなり間抜けなのだ。父からも母からも失笑を買い、私は深く傷付いていた。
 私はキオークマンを、届けられた状態──つまり箱詰めにし、押し入れの奥にしまった。あれ以来、我が家でキオークマンの姿を見掛けたことはない。


 3度目の失敗は先月である。10歳、16歳と来て、今度は26歳か……。この調子で行くと、次は30代後半辺りに試練の時が来るのだろうか。私もいい加減にしないといけない。
 いや、まだ「失敗」と決まった訳ではないが、何となく失敗に落ち着きそうな雰囲気なので、ここに記録することにより、失敗ではない方向に持って行きたいと願っているのである。

 今回購入した商品は「メガトレ」──視力回復マシンだ。多分、「メガネが取れる」が商品名の語源だろう。そんなことはどうでもいいが。
 視力が両目とも0.1以下の私にとって、視力回復というキーワードは無視できないのである。目が悪い人なら私の気持ちが分かってもらえると思う……。「メガトレ」のチラシを見れば、(実際に購入するかどうかは別にして)きっと心がグラつくに違いない。私だってこの「メガトレ」を、見た瞬間から購入しようと決意した訳ではないのだ。ずっと以前からこの商品のチラシを見掛けては「うーん……本当なんだろうか……」と購入を考えていたのである。それが今回割引期間ということや(……もしかして私、完全に引っ掛かってる?)、次の仕事がSEということもあり、目を大事にしないといけない!という強迫観念から思わず購入してしまったのだった。

 誰に言い募っているのか知らないが、だんだん言い訳臭くなってきた……。気を取り直して、実際にこの「メガトレ」の広告を是非紹介しておきたい。

あの視力回復マシン「メガトレ」特別割引販売月間により8,200円もお得
数週間で視力が0.1以下から1.0以上に!
老眼や乱視、数十年の近視もみるみる視力アップ!!
最新眼科医学を結集した視力回復マシン!
世界各国で視力回復増進器として実用新案登録取得済!!
1回8分のラクラクトレーニング!
50万人を超える高実績が効果を保証!!
今なら僅か44,800円で確実な視力効果が手に入ります!


 ──ねっ!? どうだろ? 思わず欲しくなるでしょっ?! やっぱし目ぇ良くなりたいもんねえっ!! 私が馬鹿、ってだけじゃないよねっっ?!?!

 コホン……。ちょっと落ち着こう。

 最後の1行でバレたと思うが、私はこのマシンに消費税込みで47,040円も注ぎ込んだのである。チラシの煽り文句の締めがすべて「!」なところが思わずQ社の社長を彷彿とさせるが、これくらいの勢いで暗示を掛けてもらわないと、使用者に迷いが生じてしまう。そんなことでは良い結果が生まれないのだろう。これは致し方のないことだ。うん。そうに違いない。

 さて、この視力回復マシン「メガトレ」。なんでも申し込みが殺到したため、製造が間に合わず、申し込んだのは7月だったが、納品されたのは9月1日だった。説明書を読むのが面倒で、実際に使い始めたのは就職する前日(9月5日)からである。とりあえず現時点で1週間は毎日欠かさずトレーニングを行っているが、視力が回復した兆しはない。まぁ私の近視は強固なので、トレーニングは半年くらい続けないと効果が出ないのだろう。……もうそう思い込むことにしている。

 このメガトレで実際に視力が回復したなら、私は声を大にしてメガトレを宣伝しようじゃないか。中央視力機能回復臨床研究センターの回し者と思われたって構わない! 目さえ良くなってくれればっ!

 何にしても、最低でも半年間は毎日、1日2回約15分間のトレーニングを続けることが大事だ。半年か……。私が会社を辞めるのと、トレーニングを止めるのと、どちらが早いのだろう……。スリリングになってきた。


 と、まぁ、このように私の通販遍歴は地味に間違ったまま、未だ修正が施されていない。唯一確実に後悔していない通販商品は、キャリアボックス(4,800円)だけだ。成功した通販商品が一番低価格、という事実が涙を誘うが、今度のメガトレが成功すれば、価格的には成功が失敗を大きく上回る。
 こうなったら意地でも視力を回復したいものだ。





【2000年1月19日の追記】
 さて、最近「メガトレのその後は……?」というメールをちょくちょく頂いておりますので、ここで約4ヶ月間メガトレを使用した経過報告をしておこうと思います。

 ………………なんと言いましょうか……ぶっちゃけた話、未だに怪しいと思ってます……。使っててこんなこと言うのもなんですけど……。
 効果については……もう「ない」と言い切ってしまっても良いような気がしますが、「コレを使っているから、この程度の視力低下で済んでいるんだ!」と言われてしまうと、「そうなのかな……」と言う感じです……。

 しかし、視力は確実に落ちています。良くなったという事実は一切ないです。ただ、今は実際にかなり目を使う仕事をしているので、メガトレで治る力よりも、悪くなる勢いの方が強いのかもしれない、という言い訳の逃げ道はあります……。
 そのことを加味してもなお、ほとんど気休め程度の効果だと思います……私の場合。実際に効果があったという人には出会ったことがないので、あの広告上に登場する「効果があった人たち」は、実在するのかどうか、それだけでも知りたいです……。もしも身近に「メガトレで視力回復した」と言う方がいらっしゃいましたら、宜しければメールにてご報告下さい。メガトレについては気になっている方も多いようなので、このHP上で報告して行きたいです。

 5万円で一生目が良くなるなら安いものだと思っていたのですが、まぁ世の中そんなに甘くないですよね……。現在の私の視力は0.04なのですが、このメガトレで0.3くらいにまで回復したらなぁ……と思って始めたんですけどね……。今のところは駄目です。一応広告には「半年で効果が現れた人もいる」とありますけど……。
 ──以上、メガトレ4ヶ月目の報告でした。


【2000年6月1日の追記】
 ………………………………他の人に譲りました。この事実から各自結果を推測して下さい……。



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