日常エッセイ−15
「G.I.ジェーン」
(1998年1月6日執筆/1999年9月5日加筆)
私は、「映画好きには負けるが、普通の人よりは映画が好き」という消極的な映画好きだ。ここ2〜3年は年間約40本程度見ているので、月に3〜4本ほど観ている計算になるが、手当たり次第になんでも観るというのではなく、事前のリサーチを怠らず、内容的にハズレのなさそうな作品や、単館上映系の地味な作品を好んでよく観ている。
今でこそ滅多にハズレに出会わないような選択のコツを心得ているが、映画をよく観るようになった当初は、うっかり大ハズレの映画を観に行ってしまうことも多かった。今回は、その大ハズレの映画の中でも、変に印象に残っている映画のワンシーンを紹介したい。
1998年の新春に公開された映画にデミ・ムーア主演の「G.I.ジェーン」という作品がある。営団地下鉄が試写会の主催を行っていたため、公開前に電車の吊革広告などで盛んにCMされており、期待度は仄かに高かった。そして幸運なことに試写会に当たったので、私は勢い込んで試写会会場に赴いたのである。
映画に詳しい方を除いて、細かいことをグダグダ書いても仕方ないので、「G.I.ジェーン」の内容をアッサリ目に紹介して本題に移りたい。
「G.I.ジェーン」──それは、デミ・ムーアのスキンヘッドとマッスルボディ(だけ)が話題になったリドリー・スコット最新作。海軍特殊部隊の凄まじいスパルタ式訓練(映画中の言葉を借りれば「男ですら6割が脱落する過酷な訓練」)の中に、デミ・ムーア扮するオニール大尉が女性として初めて参加し、次々落伍してゆく大男たちを尻目に最後まで頑張り抜くという話。
この映画のキャッチ・コピーは「彼女は、そして、女性を超えた」である。
多分、オニール大尉やその他の登場人物の台詞を聞く限り、この映画は「女性差別」をテーマにしているのだと思う。頑張っても頑張っても周囲の男性隊員から仲間として認めてもらえず、孤立奮闘するオニール大尉。軍の思惑やオニール大尉を祭り上げて注目を集めようとする政治家など、オニール大尉の周りに味方は一人もいない。
なるほど、盛りだくさんな内容。面白そうな展開。
──が、どうしたことだろう。この映画、いつまで観ていてもまるで面白くならない。共感できる場面もまったくない。そもそも主人公の女性=オニール大尉が海軍の特訓に参加したいと思った時点で、彼女が何を考えているのか分からないという、物語として末恐ろしい幕開けとなってしまっている。
また、訓練中のオニール大尉の苦しみを見せられても、周りの男どもは彼女よりずっと苦しんでいるので、最終的に過酷な訓練をこなしてしまうオニール大尉は性差別の対象どころか、最初から遥かかなた上位に位置しているのである。テーマがテーマなだけに、この展開はマズくないか?
またこの映画、雑念を生む隙が多すぎる。多分映画のひとつの見せ場なのであろう、オニール大尉のトレーニング風景……。デカいスクリーン一杯に広がる、デミ・ムーアのマッチョなボディ。鉄板を入れているという真偽の定かでない噂を聞いたことがあるが、思わず納得してしまうほどである。
♪ きーんにくリューウリュウ、マッスルマッスル! 兄貴ッ!! ♪私の頭の中では即興で作った変な音楽が流れ始めてしまい、映画に集中するどころではなかった……。女だからって侮られるもんか!というオニール大尉の心意気は分かる。だが、あの筋肉はちょっとやり過ぎだろう……。
しかもオニール大尉を女性と判別する手段だった長い髪も、映画の途中で刈り取られ、彼女は丸坊主になってしまう。これも映画の見せ場だったようだが、私には「女を捨てた瞬間」としか受け止められなかった。
海軍特殊部隊に女性隊員はオニール大尉一人なので、シャワーも男性隊員と同じ場所で浴びなければならない。もちろん時間をズラして一人になれる時に入浴するのだが、そのタイミングを狙うかのように上司がシャワー室を訪れる。すると我らがオニール大尉は気丈にもタオルを取らず、全裸のまま上司の前に立つのである……っ!
観客からはオニール大尉の後ろ姿しか見えないように撮影されているが、スクリーンに広がる後ろ姿はこれまたどう見ても「兄貴」のモノなので、女優のヌードを見ているという桃色の感覚に浸れない。
そして極めつけが映画のクライマックス。
特訓の最終段階で地獄の合宿(……のようなモノ)があるが、そこで捕虜として捕らえられたオニール大尉は、殴る蹴るの拷問を受け、捕虜仲間たちの前に引きずり出される。
「くっくっく。女がこんなトコロにいたら、どういうことをされるか解かっているだろう」敵役に酔っている鬼教官(以前からオニールの存在に否定的な人)は、自分の欲望を滲ませつつ、ボロボロになったオニール大尉ににじり寄る。すると、さすがに長い間苦楽を共にした仲間たちは、金網の向こうから非難の声を挙げる。
「汚いぞ! 卑怯じゃねーかっ!」いつの間にこんなに友情(?)を育んだんだ?──と疑問に思う間もなく、窮地に追い詰められるオニール大尉! じりじりとオニールとの距離を詰める教官! 高まる緊張感! 昂ぶる欲望っ!! どうなるオニール?! どうする教官っ!!
「オニール、もういい! ギブアップしろ!!」
「オニール!! ギブアップするんたっ!」
教官がオニール大尉の腕を掴み、襟首に手を掛け、いよいよ強姦されそうになったその時である。
オニール大尉は奇跡的な瞬発力を見せ、敵役の教官に頭突きを食らわせ、よろめく彼が体勢を立て直す暇も与えずに蹴りを入れ、ボディアタックを食らわし、再び蹴りを入れ、蹴りを入れ、蹴りを入れ……。
教官を完膚なきまでにボコボコにしたオニール大尉は、うずくまる教官の前に仁王立ちになり、捨て台詞を一言!
「俺のチンポを舐めなっ!」(※注:字幕そのまま)……………………え? ちょ……ちょっと待て……。
私が動揺する間もなく、オニールの周囲から湧き起こる拍手喝采!
「よくやった、オニール!」結局これが仲間たちに完全に認められる切っ掛けとなった台詞となるのだが……。
「最高だぜ、オニールっ!」
「お前は俺たちの本当の仲間だっ!!」
コレ、どうだろう……。問題ないか? オニールって、女として入隊し、女である事の差別を無くそうと躍起になってなかったか? 彼女がそれを乗越えるには、女として皆から仲間と認められなければならなかった筈だ。なのに、この台詞で彼女は男になっている。これじゃあ、彼女が認められたからと言って、女性差別がなくなる切っ掛けにはまるでならないだろう。だって彼女、男だもん。
キャッチフレーズの「彼女は、そして、女性を超えた」ってのはこういう意味だったのかっ?! 超えるなよ。女でいろよ。
いや、それ以前に。何なの? この映画はっ?!
試写会で無料だったにもかかわらず、帰り道で思わず「金返せ……っ」と吐き捨ててしまったこの映画……。同じ思いをした人がいれば、是非語り合いたい……。