日常エッセイ−05

「CM論議」

(1996年12月執筆)



 最近、腹が立って腹が立って仕方ないCMがある。「嫌いなCM」とか「観たくないCM」とは微妙にニュアンスが異なるが、今回のテーマ(?)は「腹の立つCM」である。

 ちなみに「嫌いなCM」は目下のところ【ジャックス・カード】の「私のコト、好き?」というアレである。東幹久に怨みはないが、東幹久が絡んでいるCMは、どれもこれも好きではない。なぜだ。
 ジャックスのCMは歴大好きなものが多かったので、今回のアレには本当に悔しい思いをしている(←こんなことで悔しい思いをしている私って……)

 しかし、冷静に「好き」「嫌い」の評価を挟まずに判断するなら、やはりジャックスのCMはセンスが良いと思うのだ。「印象に残ったか」と聞かれれば、文句なしに頷くことが出来るのだし。あのCMが不愉快なのは、私の価値観とあのCMの価値観がズレているからで、「あれは今の世相を皮肉っているのだ」という深い意味があるのなら、それはそれで納得が行くのだが。

 ただ、あのCMを観ていつも思うことは、私が男ならあんな馬鹿そうな女は、鼻の穴に人差し指と中指を突っ込んで頭を固定し、動かなくなった顔に往復ビンタを食らわせて「バーカ、テメーなんざ好きじゃねーよッ!」と唾を吐き掛けるだろうな、ということなのだが、それは脇に置いておく。

 話はズレたが、今回のテーマはしつこいようだが「腹の立つCM」である。全国ネットのCMなのか確証がないため、知っている方がどれだけいるのか分からないが、私が今腹を立てているCMとは、「パラマウント・ベッド」のCMである。
 パラマウント・ベッドとは介護用の医療ベッドで、石坂浩二が「新開発のキューマライン……キューマとは波のこと……云々」とナレーションを入れているCMなのだが、ご存じだろうか。

 ──知らなくても話を進めさせてもらう。

 石坂浩二は好きだ。ナレーションにおかしな所はなく、かと言って優れた所もなく、極々普通の解説付きCMと言える。……前半は。問題はCMの後半にある。
 CMの後半は実際に商品であるベッドを使用している風景がファミリードラマ風に放送される。登場人物は3人。ベッドに身を横たえた白髪の老女。その老女の傍らに5歳程度の幼女(孫)、そしてその孫の母親に当たるであろう30代前半の女性。この女性が主役の老女と親子の関係なのか、嫁姑の関係なのか、ここは私の個人的な興味の問題として、本当に重大なポイントはこの時間にして5秒程度のドラマ中で繰り広げられる壮絶な会話にある。
 ドラマの概要及びの会話を忠実に再現してみよう。腰を抜かさないように。

老女、パラマウント・ベッドに身を横たえている。
ベッドは上半身45度ほどの傾斜を持ち、老女は上半身を起こしている。
幼女、老女の枕元に近寄って一言。
「おばあちゃん。パラマ・ウンとキレイになったネ

 …………………………え? ナニ? なんて言ったの? 「パラマ・ウンとキレイになったネ」って言ったのか? ………………何だソレ。どーゆー意味? ギャグ? 駄洒落? それとも掛詞っ?! ちょっと待ってくれ、製作者ァ。別にアンタ走ってないだろうけどさァ。しかし、それはないんじゃない? アンタ仮にもプロだろう? 「パラマウント」の6文字中、「うんと」の後半3文字しか掛詞になってねーぞっ! 半々の割合でイッパシに掛詞を気取るのは反則だろう。掛詞というのは8割以上の重複があって初めて成立するの。そう法律で定められてるのだよ、知らないのォ!?

 コホン。冷静になろう。だがしかし、言いたい。
 どうしようもない会社ならこんな壊滅的に面白くないギャグ(と言うか何と言うか……)を飛ばしても許してやろうという気分になるが、この会社、石坂浩二を出演させているのだ。金がないとは言わせない。それとも何か。会社の社長と石坂浩二、小学校の時の親友か何かなのか? 友情出演、ノーギャラってヤツなのか?! いや、そんなことが問題ではない。(結構問題視しているが……)

 世の中にはCMプランナーとかになりたくてもなれない人が大勢いるのだ。その中の多くの人たちが「自分には才能が無いから……」という哀しい理由で自分を抑えているのだ。それがどうだ。こんなCM作られた日には、諦められるものも諦められなくなるではないかっ! 今時、小学生だってこんなつまらない駄洒落は飛ばさんだろう。

 大体、おばあちゃんもおばあちゃんだ。「ありがとう」なんて微笑み返している場合じゃないぞ! 私がおばあちゃんの立場なら真っ青になって孫のセンスを慮(おもんばか)るよ……。
 そもそも百歩譲って「5歳の子供が仕出かしたことですから……」と怒りを抑えようとも。実際私は当初そうやって自分を宥めたのだ。が、しかし! しかししかししかーしっ!! このCMには世にもお寒い続編(?)があったのだ。詳しく再現するが、腰を抜かさないように。

基本的な状況は前作と同様。
老女の傍に近寄る幼女。
すると今度は老女が幼女に向って一言。
「おばあちゃんね、パラマ・ウンと元気になったわ

 …………………………ッッ!! そりゃないゼ、チッチョリーナッッ!!(←どうしようもなく理不尽なことを目の当たりにした時に叫ぶ台詞。この言葉を口にすることで、愕然とした気持ちに拍車が掛かること請け合い。重要なポイントとして「チッチョリーナ」を省かないこと。これを省くとこの台詞には意味が無くなる。加えて言うならこの台詞を使うこと自体に意味が無い)
「パラマ・ウンと元気になったわ」だぁ?! もはやこのCMに免罪の余地はない……っ! もうこうなると、気になるのはこの台詞が台本ではどのように書かれていたのかということだ。

 上に表記した「パラマ・ウンと〜」のひらがな、カタカナはすべて私の気を利かせた想像なのだが、もしかしたら「パラマ・うんと」かもしれないし、下手をすると「ぱらま・うんと」かもしれない。最悪の場合、「パラマ(ここで一度言葉を切る)うんと」なんてト書き付きかもしれん。そのことを考えると、気になって気になって、夜もオチオチ眠れない。

 大体なぁ、この台本が配られた時点でスタッフ一同で台本変更の緊急会議を開くくらいのことはしないと。CMが何人掛かりで作られるものなのか知らないが、一人、二人ってコトはないだろう。現場で一人くらい冷静な奴はいなかったのだろうか。お願いだからスタッフ及び製作者、このCMを作ったことを死ぬほど恥じていてくれないだろうか……。でないと私、この製作者に天罰が下るよう、神様にお祈りしてしまいそうだ……。

 1年前の私ならこんなCMにも大人の態度で「あらあら、こりゃまたゴッツつまんないCM作っちゃったわねー」で余裕シャクシャクだったと思うのだが、最近追い詰められているもので……。

 このパラマウント・ベッドのCMも確かに凄いが、本当にスゴイのは実は私だと思う……。このCMを目撃する度に椅子から飛び上がって「フザケルなぁッ!」とか「いい加減にしろッ!!」とか「そんな下らんシャレで世の中渡れると思うなよッ!」とか「日本の笑いの文化を地に貶めやがって!」とか、真剣に毎回違う突っ込み入れているもんな……。時折、私って本当にスゴイ人なんじゃないかなーと思うコトがある。「スゴイ」の凄いはあくまでもカタカナなので、誤解しないように。

 今の所、このCMに対する不満を誰にぶつけても相手にしてくれる人はいない。真剣にふざけてくれる友達が欲しい……。



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