2000年01月の就職日記&コラム

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 短い短い年末年始休暇が終わってしまいました。Y2K問題もなーんも起こりませんでした。ノストラダムスが来るからやけっぱちに人生選択したのに……世紀末で人類滅亡するから転職したのに……そんなふうに思っている方もいるかもしれません。でも、人生はつつがなく続くのです。──やっぱり自分の手で幸運を掴まないと、ヤバイみたいですよ……。
日記の小見出し一覧
◆注目の日記にはセルに水色を付けています◆日付を押すとジャンプ出来ます◆
 04(火) 初怒りの初詣  05(水) 触発の行方……  06(木) 哀しき席替え
 07(金) 健康体の秘密  11(火) 仕事なしなし  12(水) 寒い日
 13(木) 民族大移動  14(金) ゼブ島と温泉  17(月) 経験の伝達
 18(火) 「今後どうする?」  19(水) 兄、再びN.Y.へ  20(木) 灼熱の太陽
 21(金) 疲れきった1週間  24(月) 解決&未解決  25(火) 灼熱地獄
 26(水) ……そして、鎮火  27(木) 小休憩  28(金) 富豪たちの人生
 31(月) 疲れきった1ヶ月  −  −




 2000年1月4日(火) 初怒りの初詣  晴/残業 0:00 
 年末年始休暇には【日常エッセイ】の更新を……と思っていたら、のんびりすることに専念しちゃいました……。丸々5日、いや〜のんびりしたよ〜。裏を返せば何もしなかった、ってコトなんだけど……。私らしい幕開けになって、今年1年も先が思いやられます……。
 それにしても2000年問題、大したことはなかったねぇ。それよりも最近心配なのは地震の方だよ……。東京、最近やけに地震が多くないかい? 小さいけど、ほぼ毎日のように起きている気がする……。政府がアレだけ大袈裟に「備蓄を!」って訴えてたのって、2000年問題にかこつけて、本当は地震対策を促しているんじゃないかな〜とか深読みしてるんですけど……。本当はもう「近々に関東大震災が来る」って分かってるんじゃないのかなぁ……。私、本棚に囲まれて寝ているので、ちょっと心配……。

 さて、話を身近な現実に移して。
 今日の出社は本社に10時。新年の顔合わせと言えば聞こえは良いケド、実際に今日のスケジュールを追ってみると思い出すだけでも切れそうです……。ただでさえ年末年始の暴食で胃が痛いっちゅーに、私が勤めているらしい(←もう夢だと思いたいらしい)T社は、胃痛に頭痛を加えて辛い現実に拍車を掛けます。拍車の掛かった辛い現実とは如何なるモノか……。以下にまとめておきましょう。
【年明け就業スケジュール】
 10:00 本社に集合(しかし全員が集まったのは10:30)
 10:45 全員揃って近所の神社に初詣(←本日のポイント)
 11:20 本社に戻ってダラダラと雑談
 11:40 ペットボトルのジュースと缶ビールと雑菓子でエセ新年会の始まり
 12:30 エセ新年会、終了
 13:00 N**社に出向している社員以外は帰宅
 13:30 仕事もないのにN**社に出向
 18:30 仕事もないまま定時を迎える

 ……………………もうさぁ、何度も言うけど私こういうの大嫌いなのよ……っ! 良い年した大人が雁首揃えてダラダラダラダ行き着く先は初詣ぇっ?! ふざけんなっ!! そこまではまぁ新年会の延長ってコトで、許してやってもいいよ。怒りのボルテージにエンジン(いや、もうアクセルかも)掛かるのはその後さ! なんでN**社に出向している社員だけが、今日仕事しなくちゃあかんのじゃ! 他の会社に出向している奴らは全員お休みだっちゅーにっ!
 またこれが、N**社のプロジェクトが忙しい、ってんなら話も分かるさ! だけど仕事もないのに「ただいるだけで体面保てるから」って……。しかも定時は18時のはずなのに、「今日は10時始まりだったから、18時半が定時です」だって。仕事もないのに……。新年早々、T社にうんざりしていた現実を思い出しちゃったよ……。

 友達がN**社に勤めてて色々裏話を教えてもらったんだけど、N**社ってPG・SEの出向社員に最低でも時給4〜5000円払ってるんだってさ。設計とかに関わる人になれば時給7〜8000円。でもって、私たちの時給は1100円……ってことは、T社は社員を置いておくだけで1人当たり1時間3900円の利益を生み出すことが可能なんだよね。そりゃ社長も躍起になって「いるだけでいいから!」って言うよな……。
 今日なんかN**社としては休日らしいから、N**社からT社には休日出勤手当が支払われているけど、私たちの給料にその手当は反映されず。もうここまで来ると怒りも何もないような気がする……。ただどんよりとした疲労感だけが漂うよ……。

 こんなクソ会社にて唯一良かったというか、ストレスの発散になったのは、年末に入社したS藤さん! いや〜私の文句を余すことなく受け止めて、更に熟成させて返事をくれたよ〜。
S藤さん 「私、大人数で身のない行動する会社って、大嫌いなんだよね!」
 なんかねー、彼女の存在によってちょっと救われているのかもしれん。このS藤さんの良いところは、ただ文句を言うだけでなく、非常に前向きなんだな。
S藤さん 「こんなに暇なんだから会社で自習して、取り敢えず2種(※注:情報処理の国家資格)取って1年以内に転職するっ!」
 こういう姿勢の人がいると、触発されます。本当なら独りでもやるべきことはやった方が良いのだけど、だれた会社にいるとつい一緒になってダラ〜としてしまうので、身近に「やるぞー!」っていう人がいると、引き摺られてモチベーションも上がります。頑張りたいものです。


 2000年1月5日(水) 触発の行方……  晴/残業 0:00 
 いや〜、最近私の日記を騒がしているS藤姉さん(27)! なんだかねぇ、いいみたいだよ。彼女はもうかなりT社に頭に来ているようで、現在の口癖は「2種(情報処理の国家資格)取ってさっさと辞めてやる!」だもん。時間さえあればゴリゴリ自習しているよ……。眩しいね。触発されるね。
 S藤姉さん、私が出向しているN**社に来る前は、PG初心者ってことで自社で1ヶ月間ほど自習していたんだけど、その間に色々会社の嫌なところを見ちゃったみたいでね……。社長は自らN**社に出向してきてるから、本社に残っているのは取締役のY口氏と、一応経理のI井氏。この2名と社長をひっくるめて、私は3馬鹿トリオって呼んでるんだけどさ……。彼ら、会社を経営している自覚ないから。アイツらがしてるのは会社ゴッコなんだよ……。私が自社で研修という名の自習をしている最中に、この3馬鹿トリオの口論めいた会話を聞いちゃったことがあるんだけどさ……。
I井 「こんな難しい仕事できないですよっ!」
Y口 「マニュアルを作るだけで良いから」
I井 「『Enterキーを押して』って……そんなレベルからマニュアル作るなんて無理です!」
Y口 「そう言わずに……」
社長 「誰か人を雇おうか?」
 主題はなんなのかサッパリ分からなかったけど、とにかくこの会社に未来はないってコトだけがよーく分かった会話だった。口調とかも聞けば分かるけど、まるで子供の喧嘩……。

 私はこうした3馬鹿トリオの会話を仲良し同僚のH井君とかと一緒に聞いていて、その場その場で「……なんだよ、ありゃ。大人のやることか?」とか愚痴を零せたから良いケド、S藤姉さんはこんな感じの3馬鹿トリオの会話をたった独りで聞いていたんだよね……。今になって心情激白してる、って感じ……。そりゃ鬱憤も溜まるだろうって……。
 彼女が本社に1人しかいなかった時なんか、この取締役Y口氏は凄かったらしいよ。毎日のように遅刻するわ、定時前に直帰するわ、ミーティングと称して近くの喫茶店に行っちゃうわ、たまに覗くとゲームやってるわ、ふと目を離すと突っ伏して寝てるわ……。暴挙の限りを尽くしていたみたい……。社長もよくこんな奴を雇っているよなぁ……と思ったら、Y口氏と社長は古くからのお友達だとか。まぁそんな理由でもなきゃ説明つかないけどね。加えて言うなら、説明ついても何も解決しないけどね。

 怒りに燃えるS藤姉さん──彼女に取り残されないように、私も勉強してさっさと技術を身に付けようっと。


 2000年1月6日(木) 哀しき席替え  晴/残業 0:00 
 人間関係で会社を辞める人は多いと思いますが、更に言うなら、人間関係に重きを置いて会社に勤める人は男性より女性に多いと思います。私もそうです。──と、言うか、仕事的に魅力がなく、会社としてもガタピシ言っているような所にいるのだから、人間関係でプラスがないなら辛いだけ、というのがより正確な事情ですが……。

 とにかく。こんな私の会社生活に彩りを加えてくれていた人物が、仲良し同僚のH井君です。この人がね、かなり貴重な存在だったんですね……T社で唯一尊敬している人だし。10月18日参照) 向上心に溢れ、暇な時間は独自でプログラムを作ったりして勉強し、これがまた横で見ていて小気味良いほどちゃっちゃと作業するものだから、私なんぞは横から画面を覗かせてもらって、「ほほ〜う」ってな感心の溜め息を吐いてばかりいます。たとえばまったく興味ない分野でも、職人の技を見ているとそれだけで面白かったりするじゃないですか。それと同じ感情ですね。工芸品の竹細工を作ってる現場とか、畳職人の手さばきとか、花火職人の1日とか、ガラス細工を作る工程とか、何時間見ていても飽きないのですが、H井君のプログラミングも私の中では同じような位置付けなんです。

 プログラムに関しては自分で何かを作ろうと思うほどパッションがない私にとって、こうやって隣の席でガツガツ勉強している人がいると、とても助かります。まぁこれは私が興味津々でH井君の画面を覗き込んでいることや、彼自身の性格にもよるんだと思いますが、H井君がプログラム作る上で難所にぶつかったりすると「ちょっと今暇? これさ、どうやったら効率良いかな」とか聞いてきて、一緒に考えることを促し勉強に巻き込んでくれるんですね。それがありがたい。自分独りではとても勉強しようとは思わないし、「こんなプログラムが作りたい」という具体的要望もない。──が、H井君がプログラミングしているのを手伝うのは楽しいし、面白いのです。

 こんなこともあって、私が今現在結構プログラミングを理解してきた土台には、「隣の席がH井君」という要因が大きく関わっていた訳です。それなのに、来週から席替えとなりました……。はぁ……。もう私の会社に行く楽しみの5分の3はなくなりました……。また私のことだから新たな楽しみを見付けるのでしょうが、それでも今は沈んでいます……。

 そうそう。余談ですが、S藤さんが教材を取りに本社に戻ったところ、会社経営3馬鹿トリオの一角を担う、取締役Y口氏とこんな会話をしたそうです。

Y口 「どう? N**の人とは仲良くなった?」
S藤 「あ、はい。まだ全員という訳じゃないですけど、1人仲良くなった人がいます」
Y口 「もしかして、背の高いハッキリしたお姉ちゃんじゃない? あの人、元N社にいたんだよ」
S藤 「あ、鷹瀬さんのコトですよね。N社にいたんですか? 彼女、サバサバしてて良いですよ〜」
Y口 「サバサバもなにも、ありゃサバサバこんちきだよ」

 ……………………サバサバこんちき……。初めて聞く単語ですね……。「こんちき」ってのはきっと「こんちきしょー」の略なのでしょう。するってーと、「サバサバ」は辛うじてプラスの意味の言葉であると思うのですが、それを全面否定……もしくは(も何も)後半重要説により前半の好意的な単語を後半のえらくマイナスな意味合いの単語と組み合わせるコトにより、深みのある嫌味に熟成させたという……。
 はっはぁっ! 大抵世の中は相思相嫌なのです。痛くも痒くもねーぞっ!!


 2000年1月7日(金) 健康体の秘密  曇/残業 0:10 
 インフルエンザが猛威を振るっていますね……。周囲は風邪を引いたり体調を崩したりと調子が悪い様子。私も胃を痛めていましたが、これは純然たる暴飲の結果……病気と言うのとはちょっと違います。こうして見ると、結構私は健康体のようです。昔は決して丈夫な方ではなかったと思うのですが(※注:しかし丈夫そうには見えていたらしい)、社会人になってからと言うもの、比較対象の結果「私ってもしかして健康体なんじゃ……」と思うようになりました……。
 だってなぁ、周囲に座っている人だけでも、M平さん(24)は膀胱炎になりやすい体質だって言うし、H井君(24)は風邪引くと1ヶ月くらい咳止まらないし、H山さん(28)は扁桃腺が弱くて風邪引くと高熱が出るって言うし、S藤さん(27)は胃と腸とすい臓が弱いって言うし……。
 私は最近になって余り風邪も引かないし、引いても1週間以内には確実に治るし、内臓系も今のところ丈夫……。特に運動をしている訳でもないし、生活は……そうか、生活は皆に比べて規則正しいかも。しかも睡眠時間も多いや。1日最低6時間は寝てるわ。酒も煙草もやらないし、なんだ、健康の原因はコレか? アタシャまたストレスの無さが原因かと思っとったよ。

 話はちょっと脇道にそれますが、ウチの父(73)がね、恐ろしいほど健康なんですよ。あの人は酒は1滴も呑まないけど煙草は1日120本(←マジです)吸うし、生活は明け方4時頃まで起きていたり昼間にとろとろ寝たりと不規則。食事も不摂生な上に、好き嫌いが多い。加えて嫌いなもの(ほぼ野菜)は一切食べない。甘いもの大好き。運動はしないどころか、1日の大半をベッドの上で過ごしていると言う王様ぶり。なのに、すこぶる健康! なんなんでしょう……なんか納得が行かないんですけど……。
 まぁ年が年なもので、いつお迎えが来てもおかしくはないんですけど……。っつーより今の健康ぶりの方がオカシイっちゃーオカシイ訳だし……。

 ──で、本題です。彼の健康の原因には心当たりがあります。彼は本当にストレスのない生活を……いや、人生を送っているのです。これはもう確実です。好き勝手なコトをしています。毎日が絶好調です。他人の迷惑を余り考えません。他人からの評判もまったく気にしていません。「少しは痛い目みやがれ」と実の娘に念を送られるほど、骨髄液から自由気ままな人です……。大抵、そのしっぺ返しは家族に降り掛かりますが、介護の必要も無く、元気でいてくれる方がなんぼかありがたいということで、最近妥協するようになりました……。(※注:父の概要についてご興味ある方は、【日常エッセイ】No.14「失業中の娘を持つ親」参照)

 嬉しくもなんとも無いことですが、私は父親似だと言われます……。確かにベクトル(方向性)は近しいものを感じますが、スカラー(大きさ・パワー)は遠く及びません。っちゅーか、及んで堪るか!って感じです……。尊敬はしているし、ごくタマ〜に羨ましいとも思いますが、「ああなりたい」とは死んでも思わない我が父……。彼こそ、「ストレスこそが万病の原因である」ということを実証する生き証のような気がします……。本当に……恐ろしいほど健康な父……。

 で、私が比較的健康なのは、もしかしてストレスの少ない生活を送っているからなのかなー……なんて思っちゃった訳です。でも私の場合は違うわ。まぁ人に比べてストレスは少ないと思うけど(すぐ吐き出すから)、それ以前に良く寝て良く食べて……生活の基本がしっかりしているだけだわ。

 ま、それにしたって何にしたって、ストレスはいけない。ストレスのない生活を送れば、きっと今抱えている身体的問題も、半分くらいは解決するんじゃないでしょうかね。ふと、そう思ったのでした。


 2000年1月11日(火) 仕事なしなし  晴/残業 0:25 
 う〜ん……いいんだろうか、っちゅーくらい、仕事なしなしです……。私だけでなく、全社をあげて仕事がない状態……。N**社から撤退するのも、時間の問題かもね。

 さて、日記もそろそろ連載が進み、途中から読んで下さっている方には登場人物がよく判らないこともあるのではないかと思い、3連休を利用して人物紹介ページを作りました。まだ未完成ですが、ご興味ある方は覗いてやって下さい。


 2000年1月12日(水) 寒い日  曇後小雪後雨/残業 0:00 
 今日は物理的にも精神的にも寒い日……。そうです。本日、延期に延期を重ねていた引越し(席替え)が行われました。会社生活って座席配置一つでこんなにもつまんなくなるもんなんですね。会社に仕事だけしに行くってのは、仕事自体がムチャムチャ楽しい場合を除いて、かなり虚しいモンですね。だってなぁ……1日の内の8時間を過ごす場所だよ〜? やっぱ話せる人が近くにいた方が良いに決まってるよ〜。
 寒くなった心は温泉で暖めます……。っちゅーことで、今週末は更新が滞りそうです。


 2000年1月13日(木) 民族大移動  小雨/残業 0:00 
 N**社では引越しがブームなのでしょうか……。私たちがいるのは7階なのですが、8階の多くの人達(80人前後)が7階に降りて来て、その分溢れ出る7階の人達が別のビルに移動しました。今日の午後からこの民族大移動は始まり、私が帰る頃にはまるで治まる気配を見せていませんでしたが……。別ビルに移るのも、この雨じゃ大変だろうなぁ……。

 私たちは今まで通り7階に居残れる数少ない幸運な社員なのですが、今回の民族大移動で主に設計者の方々が別ビルに引越ししてしまうので、今後、プログラム設計の仕様上、疑問・質問があった場合は、膨大な資料(かなりの量……)を持って、隣のビルまで行かなくてはならないのです……。
 ──マジっすか? もしかして、これってN**社の新手の(っつーか遠回しな)嫌がらせ? 仕事ないから追い出したい訳? なら正々堂々と追い出しやがれ!


 2000年1月14日(金) ゼブ島と温泉  晴/残業 0:00 
 今日から会社の連中の大半が有給を使ってゼブ島へ社員旅行……。本日我が社でN**社に来ているのは、私と社長とH山さんとH井君とS藤さんとM浦さんの6名。社員旅行組は会社から4万円の補助金を貰い、残り4万円を自腹でゼブ島に向かった訳ですが、この会社からの4万円の補助……旅行に行かない人にはくれないんですよね……。半分でいいから商品券とかでくれればいいのに……。そのくらいしたって罰は当たんねーぞ。ボーナス2万円なんだし……。(詳細は12月24日参照)

 ゼブ島には行ってみたかったけど、行くなら友達と行きたいよ。「青い海、白い砂浜、青い空」っちゅう夢物語ちっくな非日常を、なんで現実の権化である会社の同僚と行かにゃあかんのじゃ。そんなん絶対に嫌。いいんだ。私は会社が終わってから2泊3日で温泉へ行くもん……。


 2000年1月17日(月) 経験の伝達  小雨/残業 1:00 
 去年末に入社したS藤姉さん……現在大変苦しんでおります。「プログラムがサッパリ分からない」──そう言って、溜め息ばかり吐いています。なんだか3ヶ月前の私を見ているようです……。いくら私が横から「焦らなくても、いずれ分かるようになるよ」と言っても、かつての私が周囲の慰めにまったく耳を貸さなかったように、余り通じていない様子。こればっかりは時が解決してくれるまで周囲が何を言っても無駄だと、私自身経験者なのでよーく知っています。
 っちゅーことで、現在黙々と勉強する彼女を遠くから見守っています。

 人の経験と言うのは、文字や言葉で伝えることが出来る割に、最終的には「なんだかんだ言っても、実際に経験するまで、当事者の気持ちは理解できない」というのが真実な気がします。勿論、同じ経験をしても感じ方は人それぞれで、他人の感情を完全に理解するのは不可能ですが、それでも「経験している」と「経験していない」の両者には、深くて暗い溝があるのではないでしょうか。
 経験というのはどんなものであれ、それだけ凄いことなんだと思います。確かにある程度は想像力をもって他人の身になったり、他者が経験した様々な状況を自分に置き換えてシミュレーションしたりも出来ますが、経験者は多分、未経験者とは桁外れの感情を抱き、そして処理してゆくのでしょう。

 神戸大震災から早くも5年が経ち、毎年この時期になると、例年夏に組まれる第2次世界大戦特集と同じ匂いをもって、ニュースや新聞で「被災地のその後」が報じられます。私もその度ごとに新鮮に、「災害の恐怖」と「災害が見せた日本社会の杜撰さ」に驚きます。怯えて、驚いて、憤って、そしてまた日々の日常に追われ、こういったことを忘れてしまうのです。
 今日のニュースステーションで、自身も被害に遭い、震災後から今でもボランティアを続けている男性が言っていました。
「93歳のじいさんが、入院する時に私に通帳を渡してね。『死んだら葬式をしてくれ』ってさ。でもね、30数万円じゃ葬式すら出来ないよ。この人達が昔頑張って、そんで年取ったら葬式も出せないなんて……。経済大国日本って……一体この国のどこが豊かなんだよ

 他にも、震災の3年前にマンションを購入した43歳の男性も紹介されていました。この男性は、震災により購入したマンションが全壊。ローン3000万円を残し、更に建て直しのための借金も加わり、計5000万円、35年のローンを抱えて生活しています。この男性が言っていました。
地震国でありながら、地震による建物崩壊の対策を、この国は一切行っていない。こういうことは法律で決めておくべきではないか。これはあくまで私の意見だが、債務者だけに負担が掛かるのはおかしいと思う」
 この国が私たちにとって良いものか悪いものか、それは一概に言えないことだと充分承知しています。政治・経済・文化などの様々な項目において、上を見たらキリがなく、下を見たら上を見る以上にキリがないのが現実だとも思います。ただ、「経済大国」というイメージが強い割に、その中身は驚くほどに貧しいというのが、日本の特徴であることは確かではないでしょうか。
「年寄りや困っている人がいたら、助けるのは普通のことだろ? アンタら、そんなことも出来ないほど忙しいのかよ」
 誰の言葉か聞き逃してしまいましたが、ニュースの最後を締め括っていた言葉です。この言葉を本当に理解できるのは、同じ体験をした後でないと無理なのでしょうか。
 「百聞は一見にしかず」と言いますが、一見(=経験すること)が無理ならば、百聞してでも理解に近付けるよう努力が必要です。そしてこの経験の伝達には、経験者の情報発信が必要不可欠です。
 神戸の震災に限った話でなく、どんなことでも未経験者に伝える必要があることは、100%の理解を得ることは不可能でも0%よりは絶対に良いと信じて、どんどん発信して欲しいと思います。今は比較的個人の情報発信が簡単な時代ですしね。勿論、発信を期待するだけでなく、受信する側の努力も必要であることは言うまでもありませんけれど。


 2000年1月18日(火) 「今後どうする?」  晴/残業 1:00 
 同僚たちがゼブ島から帰ってきました。お土産はチョコレートとマンゴーのドライフルーツ。チョコレートの箱の裏を見ると、原産国が「スイス」で輸入元は「六甲バター株式会社」と日本語で書いてあります……。一体どこの土産なんでしょう……。
 なんにしてもどちらも大好物なもので、「ありがとう! ありがとうっ!!」と喜んでいたら、「未だかつてこんなに嬉しそうな鷹瀬さんは見たことがない……」と言われました。私の態度にも問題は多々あるようです。

 さて、S藤姉さんは端で見ていてハラハラするほど煮詰まっています……。
「募集欄の『研修制度完備』って何よっ! この状況のどこが研修?! 野放しじゃん。こんな詐欺ってある?!」
「社長は未経験者の素人雇って、そこまでしておいて育てるつもりも無い訳?」
「こんな最低な会社、見たことない! 絶対に2種とって辞めてやるッ!!」

 今日1日でこれだけの台詞が発生しています……。うう……。本当に、来月辺りにでも辞めそうな勢いです。

 話は変わるようでいて繋がっているのですが、同期入社のH井君(24)が現在ブルーです。多分S藤さんの研修(?)風景を見て色々思うところがあったのでしょう。今日、私が残業せずに帰ろうとしていたら、私の隣の席に座り込み、「急いでる?」と聞いてくるので、こりゃ話したいことがあるんだろうと思い、「いや、別に。調子はどうよ?」ってな感じで切り返してみたら、堰を切ったように心情を吐露し始めました……。
「この会社にいてもさ……先が見えないんだよ。もしかしたらこの業界全体に言えることなのかもしれないけど……それでもウチの会社は酷すぎるじゃん? この仕事もさ……なんかカスみたいなことばっかだし、皆は仕事してないし。仕事量だって俺とか鷹瀬さんは何だかんだ言って皆の倍以上やってると思うよ。 『仕事くれくれ』って言いすぎなのかもしれないね……」

「俺なんかは遅くまで残って勉強とかして、それを残業に付けちゃってるから給料もプラス6〜7万とか行くけど、鷹瀬さんなんか俺と同じ仕事量でほとんど基本給でしょ? なんかそういうの、嫌なんだよね……。『能力給がいずれ付く』って社長言ってたけど、あの人、何で能力を見極めるんだよ。長時間残ってるかどうかだけじゃん。社長の判断基準で言ったら、鷹瀬さんなんか下手したらずっと基本給だよ」

「S藤さんへの教育の仕方だって、酷いもんだろ。見てて可哀想だよ。あんなんだったら俺か鷹瀬さんが教えた方がまだマシって気がしない? 本人もしょっちゅう『辞める』って言ってるし、本当に半年しない内に辞めちゃうかもね……」

「そう言えばボーナスっていくらか聞いてる? 俺さぁ……今度のボーナスが2ヶ月分なかったら、マジで転職すると思うんだ……。鷹瀬さんは今後どうする?

 思惑は違えど、皆それぞれに「今後どうしよう……」と思っているのでしょう。H井君も、条件をつけて「転職すると思う」まで言っておきながら、私の動向を気にするところを見ると、やはり色々不安だったり考えたりしているのでしょう。それでも、彼の場合は奥さん子供がいるので転職もそう簡単には出来ないだろうという事実があるにも関わらず「転職すると思う」と言ったのは、相当追い詰められているからとも考えられます……。

 仕事をして行く上で一番気になるのは、「この仕事をして行って、20年後どうなっているかのビジョンや目標が持てるかどうか」と言うことではないでしょうか。勤めれば勤めただけその道のエキスパートになれる職は少なくないと思いますが、本人が「定年までずっとこの道を貫き、エキスパートになりたい」と思える職に出会えるかどうかは別問題だと思っています。
 実際、SEという職は天井が限りなく高く、会社人生を賭けてエキスパートを目指すには打って付けの職ですし、「この道で一生頑張ろう」と思っている人には、勉強の機会も多く遣り甲斐のある仕事だと思います。SEに限らず、職人系の仕事はどれもそうなのでしょう。

 H井君の場合、「PG(SEは嫌らしい)の道を貫きたい」という気持ちがあり、今の不安は会社に対して抱いているものなので、環境にさえ恵まれれば心血を注いで仕事に集中できるのだろうと思います。それゆえに、今の会社にいることは運が悪かったとしか言いようがありません。会社にさえ恵まれれば、H井君なんかはかなり優秀なPGになると思うのですが……。
 一方私はPG・SEでエキスパートを目指そうとは思わないと言うか、思えないと言うか、単に無理と言うべきか……。とにかく、私が頑張る道はこれではないな、と、そういう違和感だけはハッキリしているのです。それがまぁ悲劇の始まりなのですが……。

 一生賭けて携わりたいと思える仕事に就ければどんなに幸せか。しかしそういう幸運を掴める人間は決して多くないでしょう。こればかりは努力だけでなく、環境や運やタイミングなども重要なキーポイントとなります。しかし、生涯追い求める何かが仕事でなければ、そこには努力の余地が生まれます。
 生涯続けて行きたいと思える何かがあれば、それはとても幸せなことだと思います。そして運良く、もしくは努力の結果、自分のしたいことで収入を得ることが出来、生きて行けるようになれば、最高に幸せなのでしょう。


 2000年1月19日(水) 兄、再びN.Y.へ  曇/残業 1:00 
 20日の早朝に兄が再びN.Y.に帰るってんで、19日は最後の家族団欒の夕食……の筈でした。語尾辺りに不穏な空気を感じている方、勘が鋭いですよ……。これを書いているのは比較的気分が落ち着いている20(木)なのですが、昨日はもう散々でした。タイミングってのは本当に大事なものですね……。

 昨日、会社で急に24時間対応の話が持ち上がり、男性の一部は本日から夜勤体制に入らなければならないような、そんな慌しい状態でした。夜勤が発生するような状況で、女性はさすがに夜勤からは外されるものの、休日出勤をもって穴を補わなくてはなりません。「5月までは土日出勤が続きます。覚悟しておいて下さい」という社長の言葉に、私の心中はそれはそれは荒んでいました。
 当然昨日はそんなこんなで帰りが遅くなり、それでも自分的には急いで帰ったつもりでした。仕事を猛烈な勢いで済ませてきたため、精神的にも物理的にもかなり疲労困憊していました。そんな私がようやく家に着いて、玄関を開けると、既に両親+兄で家族団欒の夕食会が始まっていました。そして間髪入れずに私に気付いた母が、頭ごなしに責めるような口調でこう言ったのです。
母 「遅いじゃない! 何してたのよっ!」
 ──キレそうになりました……。人間あんまり頭に来ると、言葉が出ないものですね……。「仕事してたんだよ!」という一言も出てきませんでした……。もう怒りよりも疲労の方が勝っていたため、返事もせずに着替えのため自室に直行しました。ここが私の悪かった第1点目です……。

 母の気持ちも分かります。明日でN.Y.へ戻ってしまう兄の、最後のお別れ夕食会。家族団欒が希薄な我が家で、母だけがこういうことに一生懸命なのです。しかし、頭では分かっていても、残業して疲れて帰ってきて、のっけから「何してたのよっ!」なんて言われれば、普通の会話をしようという気もなくします……。
 着替えを済ませて食卓に着く頃には、兄は既に食事を終えて荷造りを始めていました。黙々と食事を始めた私に向かって、事情を知らない母は延々と説教を始めました……。
母 「明日お兄さんが帰っちゃうって言うのに……あなたのその態度は何なのよ。今日が遅くなるならそう言えばいいじゃない」
鷹瀬 「……今日が遅くなるなんて知らなかったんだよっ」
母 「帰ってきても『ただいま』の挨拶もしないし。お兄さんに謝りもしないで。『遅れてごめん』くらい言ったらどうなの?」
鷹瀬 「……………………」(←怒りのため言葉も出ない)
母 「あなた、まさかわざと遅く帰ってきたんじゃないでしょうね
 ──キレました。でもやっぱり、人間あんまり頭に来ると、言葉が出ないものですね……。私に言えたのは「残業してたんだよっ」の一言でした……。説明が足りない事態から巻き起こる悪循環は、怒涛の勢いで回転し始めます。
母 「なら電話の一本でも入れればいいでしょ」
 明日から急に夜勤を命じられている人の横で、「1時間残業するから家に連絡を入れなくちゃ」という考え自体が私には浮かびませんでした。たとえ兄が明日N.Y.に戻るという状態でも、です。
 家に密接している母にとっては夕食会がどんなに重要な位置を占めるものか、それは想像できます。が、実際に会社にいて慌しく仕事をしていれば、ついついそんなことは忘れてしまうのです。これが私の悪かった第2点目かもしれません……。
 しかし、私はもともとこういうイベント関係に対して盛り上がり難い性質であり、それはもう昔からで、「兄の夕食会だからわざと遅く帰ってきた」などと思われるのは、心外もいいところなのです。まぁこの台詞は母もカッとして言ってしまったのだと思いますが……。
 とにかく、この後もしばらく壮絶な家庭内争いの会話が続きますが、それは省略させていただきます……。

 結局その日の夕食は「お母さんにはガッカリした」という私の捨て台詞をもって幕を閉じました……。これが私の悪かった第3点目です……。母は(私もだけど……)最後まで謝りゃしないし、私もなんだかもう悲しいのと悔しいので会話をする元気も無く、さっさと自室に引っ込んで夜な夜な泣いていましたが……。今でも思い出すだけで涙が……くっ……。
 なんにしても間に挟まれた主役である筈の兄が一番気の毒でした……。兄は今日の朝早くに旅立ちました……。

 さて、今回の日記は、こんな家庭内の恥をさらすことが目的ではないのです。今までの前半部は単なる私のための記録です。主題はこれからなのです。

 とあるサラリーマンが会社で色々あって苛々していて、ようやくリラックス出来る筈の我が家に帰ると、奥さんが待ってましたとばかりに
「遅かったじゃない! 何してたのよっ!!」
 ──こんなケース、世の中には結構あるんじゃないかな……ふとそう思ったのです……。
 多分、奥さんには奥さんの言い分がある。私の件で見ても、母から書かせればまるで違う話になるかもしれません。上記の状況説明はあくまで私のフィルター越しに書かれたもので、一応冷静に書いているつもりでも、絶対に100%の事実を書いているということはないでしょう。それは仕方が無いことです。状況も立場も視点も主観も違うのですから。

 旦那さんは言いたい事は山ほどあるのですが、上手く言葉に出来ず、奥さんは言い訳もしない旦那さんに苛付き、「何よ! 私が家でご飯を作って待ってるのに、アナタは外でフラフラ遊び歩いて!」と思うかもしれません。旦那さんはそんな理解のない奥さんにだんだん嫌気が挿して来るかもしれません。会社でも家庭でも苛々して、心の拠り所もなく、自ら荒んで行ってしまうかもしれません。一度狂った歯車は、どんどん大きくズレ始め、数年後には修復不可能なところまで来てしまう……。親子ならどうにかなる(ならないかもね……)ことでも、夫婦となれば元は他人……。会話の無くなった他人同志の終着点は、1枚の薄っぺらな紙……。

 ──哀しい! 哀しすぎますっ!! 旦那さんは奥さんのために働いているのにっ! 奥さんは旦那さんのために食事を用意していたのにっ!! お互いの状況が解かっていないと言うことは、こんな悲劇を生み出してしまう恐れがあることなのですっ!!
 ドラマの見過ぎかもしれませんが、ごくごく日常にあっても不思議ではない展開じゃないかな……と、そう思いました……。私も疲れているのかもしれません……。だってだって……めそめそ……。

 とにかく話し合いましょう。(←誰に向かって言ってるの?) 話すことから始めないと……。話せば解かる……。完全には無理かもしれませんが、黙ってお互いに悶々としているよりは、きっと事態は好転する筈!

 ちなみに、昨日の一件以来現在(21日0:30)まで、私は母と一言も口を利いていません……。あまりの子供っぽさに我ながら辟易しますが、哀しいことに理性と感情はなかなか一致しないのです……。


 2000年1月20日(木) 灼熱の太陽  晴/残業 0:30 
 会社が大変なことになっちょります。ただでさえ昨日の家でのことで精神的に参っている私に、追い討ちを掛けるように、非常に疲れる事件がこの日勃発しました……。

 ──S藤姉さん【登場人物】T社No.7参照)がキレました。事件の詳しい顛末を話しましょう。

 T社の募集要項の「教育制度完備」の文字に騙されていたことに気付いたS藤さん。私が知る限り、毎日が文句の連続でした。この文句をお昼休みの1時間に聞くのであれば、私も余裕を持って聞くことが出来ました。彼女の言い分は、この1時間に聞く限りでは尤もですし、文句も疑問もなく働く人達よりよほど好意が持てます。──が、先日12日の引越しでS藤さんと私はお隣同士になったのです……。
 最初のうちは「わーい! H井君の隣じゃなくて寂しいけど、S藤さんの隣なら良いや」とか単純に喜んでいた私ですが、1日約8時間、延々とユーモアの混じらない純然たる文句を言い続ける人の隣で仕事をするというのは、結構大変なものですね……。

 H井君も私も結構文句を言う方でしたが、H井君は私が過激な文句を言い始めればそれを即座に止めたし、彼自身は一通り文句を言った後は「さーて、勉強するぞー!」と前向きに気持ちを切り替える人でした。彼の方が煮詰まっている時には、私が話をお笑い系に持って行き、一通り鬱憤を晴らしてからH井君に勉強を促して、彼が勉強を始めるとそれに巻き込まれて私も勉強を始め、最終的には二人でガリガリ勉強するか、仕事をするかのどちらかに落ち着いていたのです。

 私たちの場合、同期入社で一番不安な時期に同じ立場の同僚が隣にいたので、それがかなり精神的な救いになっていたのかもしれません。S藤姉さんはたった1人で未経験者として現場に放り込まれ、周りが業務をしている中で、自分だけが研修を受けなければならないのです。
 会社的にガタピシ言っている状態であることは普通の社会人であれば直ぐに判るでしょうし、加えてこの研修も、何事にもトンチンカンなH山さん(28)が教育係……。端で見ていても気の毒ってなモンです。

 今の席の並び順は、「M平・H山・S藤・私」の横並びで、基本的にはH山さんがS藤さんを教えていますが、それも付きっきりではなくほぼ放任状態。H山さんはH山さんなりに「自分で考えてもらう」ということをモットーに教育を進めているつもりですが、S藤さんから見れば、無責任な研修としか思えないでしょう。
 第一、プログラミングは人から教わるものではないと言いますが、本当にずぶの初心者の場合は、本を与えられても訳が解からないのは当然です。さすがに教科書を前に固まっているS藤さんを見て、途中でH山さんも教育方針を変えたのですが、そう言った曖昧な態度さえ、S藤さんの癇に障っているようです。

 ただこの状況、S藤さんにも問題があって、彼女は「VBは初心者ですが、COBOLはやりました。COBOLなら解かります」と言って入社してきたのです。「COBOLはやりました」──この真相は、失業中に3ヶ月間スクールに通ってそこで習った、ということで、業務で経験した訳でもなく、学問として習得した訳でもなく、要するに「ハッタリ入社」だったのです……。こんな事実を知っているのは私だけで、社長もH山さんも知りません。ですから、「COBOLが出来るなら、VBも本を読めば解かるだろう」と思ってしまうのは、まぁ仕方の無いこととも言えます。

 タイミングが悪いと言うこともありますが、今回の場合はもう何もかもが悪いとしか言いようがありません。
 まず、H山さんの教え方が悪い。ようやくVBを理解するようになってきた私が端で聞いていて、それでもよく解からない解説を延々としています。あれではS藤さんが混乱するのも無理がありません。彼はピント外れの回答を返す名人なのです
 席が近いので業務のことで時折H山さんに質問したりしますが、そんなちょこっとのチャンスの中でも、彼がトンチンカンな答えを返す達人だと判ります。余りに見当違いな返事ばかり返すので、最近ではこちらで答えを限定し、二者択一で回答を迫るのですが、それさえも外してくれるのです。例えるならば、「これはですか? ですか?」と聞いているのに、「これは63だから、24なんだよ」などと言う返事が返ってきてしまうような方なのです。「求めてる答えはアルファベットであって、数字でもイロハでもないんだよっ!」と何度キレそうになったことか……。
 私なんかは「あ、判りました」と言って話を切り上げ、他の人に回答を求めに行けますが、S藤さんは入社も間もないし、誰に何を聞いていいかも判らないでしょう。S藤さんの苛々に拍車を掛けているのは、間違いなくH山さんの教え方です。

 H山さんの教え方が悪いのはまず第1点として、次に、S藤さんの態度が悪い……。VBの習得や目前に迫る資格試験など、アレもやらなきゃコレもやらなきゃと、一応は目標がたくさんあるようなのですが、その目標を昇華しきれない苛立ちを、「すべて今の会社が悪いせいだ」という結論に持って行きがちなのです……。これはちょっと……。今の会社が悪いのは事実としても、それと「やる気が出ない」のを混同するのは違うだろうと、思うのですが……。
 「教育制度完備って言うんだから、教えてくれないならやらないよっ!」と言って、解からないと延々黙り込み、自分から人に聞こうとしないのです。H山さんはそういう彼女の態度を「お! 自分で考えようとしているな」と誤解して声を掛けないし、2人の相性の悪さは素晴らしいほどの悪循環を生んでいます。

 取り敢えず、H山さんがいる前で私が教えようとすると、H山さんはいい気がしないようなので、H山さんが席を立っていなくなる度に、「どう? 今は順調? それとも詰まってる?」と声を掛け、解からないと言われれば私に出来る範囲で教えているのですが……この中途半端なやり方も、彼女的には気に入らないようです。
 煮詰まったS藤さんは持っているペンを力一杯机に叩き付けたり、ハンカチをモニターに投げ付けたり、イライラのボディランゲージを始めます。まぁこれも、最初から態度が悪かった訳ではなく、分からない苛立ちや不安が多分に加味された結果だと思いますが……それでも隣に座っている私としては、正直恐いし疲れます……。

 そして何よりも、本当に会社(制度や社長も含む)が悪い……。うう……。これは哀しいけれど大前提の事実なのです。

 さて、これだけの素地があった上で、この日の事件は勃発します。事の起こりは、S藤さんが今週末に放送大学のテストがあるということで、「明日の金曜日は休みたい」と言った事から始まります。
 このテストはなんでも情報処理2種にも通じるテストで、きちんと勉強したいと言うのが彼女の言い分です。そもそも彼女はまだ試用期間中で有給を取れる立場ではないのですが、「勉強のために休むんだから文句はないはずだ」と言って、社長に直談判しに行きました。私的には、「まだ試用期間なのに、勉強するから休みますって言うのも凄いな……」とは思いましたが、本人が直接頼みに行くのだから、それをどうこう言うつもりはありません。それに、社長に直接言えば通るだろうな、とも思っていました。社長は経営能力や統率能力はない人ですが、なんでも「あ、いいよいいよ」と言ってしまう気の良いおじさんなのです。

 そして数分後、怒りのオーラを湛えた彼女が帰ってきました。おや?と思い、「有給、駄目だった?」と聞くと、「取れた。明日は休む」と不機嫌そうに言います。じゃあこの態度は一体……と、聞くべきかそっとしておくべきか迷っていると、彼女の方から激白しました……。怒涛の会話、忠実に再現いたしましょう……。
S藤 「私っ、資格取るのに不賛成な会社なんて初めて見たよっ! 『勉強するな』って言われた! なんなの、この会社っ!!」
鷹瀬 「ええっ?! 社長が『勉強するな』って言ったの?」
S藤 「言った。『2種取るためにCOBOLの勉強したいから、会社でCOBOLの教科書買って下さい』って言ったら、『COBOLなんて古いから、勉強するならC言語にしろ』って言われたっ!」
鷹瀬 「……別に『勉強するな』なんて言ってないじゃん」
S藤 「同じコトでしょっ! 今からC言語なんてやってたら、今年中に2種なんか取れる訳ないじゃんっ! 駄目だって言われても絶対隠れて勉強して、2種取って辞めてやるっ!!」
鷹瀬 「……いや、別に隠れなくても『勉強するな』とは言わないでしょ。社長はただ単に『どうせやるならCOBOLよりC言語の方が今後有利だよ』って言いたかったんじゃないの?」
S藤 「違うもんっ! するなって言ったもん。だから『ああそうですか。この会社は勉強を禁止するんですね。解かりました。ここでは業務のことだけやります。勉強もプライベートでは一切しません』って言ってやったんだ! そしたら『話を中断するな。12時半から話し合いだ』とか言ってるの。バッカみたい! 私は隠れて勉強するもんね!」
鷹瀬 「……………………いや……あのさ、ちょっと話が飛躍しすぎだと思うんだけど……。別に勉強なんて自分で勝手にするもんなんだから、『言われたからやる』とか『言われないからやらない』ってなもんじゃないよね? 社長だってS藤さんの家に乗り込んできて『COBOLはやるな!』なんて絶対に言わないし、そんなことで『隠れてやるもんね』なんて言うのはちょっと話がズレてるんじゃ……」
S藤 「だって『やるな』って邪魔するんだもん。仕方ないじゃん! あーあ。辞めようかな、こんな会社」
鷹瀬 「……辞めるのは最初から言ってるし、それで構わないと思うけど、今回のことで辞めるのはちょっと大人気ないと思うよ……。S藤さんも自分で言ってたよね? 『半年はいないと経歴が汚れる』って。今辞めたらVBをマスターした訳でもないし、何もスキルが身に付いていないまま辞めることになって、それって自分のためにならないよね? 社長が何を言おうと、自分で『2種取ったら辞める』って目標を決めたんだから、最低線その目標を達成してから辞めた方が良いんじゃないの?」
S藤 「………………」
鷹瀬 「取り敢えず12時半からの話し合いで、その場の勢いで辞めるとか言わずに、落ち着いてよく話した方がいいと思うよ。そうじゃないとS藤さんが損しちゃうからね。あ、そろそろ時間だよ」
S藤 「いいよ。話し合いなんか行かないよ」
鷹瀬 「……そ、それはマズイでしょ。行かないなら社長が『話し合いだ』って言った時に『行きません』って言わなきゃ。社長、待ってるんじゃないの?」
S藤 「待たせておけばいいよ」
鷹瀬 「ちょっ……。会社が悪いとか社長が悪いとか、S藤さんの言い分は解かるけど、そのことと約束破るのは別問題だよ。それは人として良くないでしょ」
 と、そんなこんなしていると、社長自らが「あの〜そろそろ話し合いしたいんだけど……」と、いつもの腰の低ぅい感じで登場しました……。この社長がS藤さんの言うように「勉強するな!」なんて頭ごなしに言う筈がないと思うのですが……。
 結局S藤さんはぶすったれたまま、H山さんと社長と3人でビル外の喫茶店に行きました。私は社長がS藤さんの態度を見ても怒っていないことの方がよほど驚きでした……。社長はS藤さんの「待たせておけばいいよ」という台詞を聞いていた筈です。なのにむしろ申し訳なさそうに肩を窄めてさえいるのです。「アンタ、とんだお人好しなんじゃ……」と、社長に対して否定的な私がつい思ってしまったほどです……。

 ハッキリ言ってS藤さんとの会話はかなり疲れました……。嵐が去った後で私がグッタリしていると、周囲の別会社の人が「宥め役、大変ですねぇ……。ご苦労様です。あの方、お辞めになるんですか?」と好奇心一杯に話し掛けてきます……。「いや、まだそうと決まった訳じゃ……」と言いつつも、心の中ではそうなるかもな……と思っていました。

 そして2時間後……まず、H山さんが帰ってきました。H山さんは私を見付けると「あ、鷹瀬さん、ちょっとS藤さんのことで話があります」と呼びました。我慢しきれずに私から「結局話し合いはどうなったんですか?」と聞くと、H山さんからはやはりピントの外れた答えが返ってきました。
H山 「いや、ホラ、S藤さんは今まで自分から反応を返さなかったじゃないですか。だから俺もね、教え方とかに困っていたんですよ。COBOLが出来ると思っていたから俺はそのつもりで教えていたんだけどね、どうやらCOBOLもそんなに出来る訳じゃないみたいなんだよね。それでね……」
 延々続きそうな訳の分からん話は、途中でもなんでも止める必要があります。
鷹瀬 「あの、お話し中スミマセン。結論から言って、S藤さんはどうなるんですか? 辞めるんですか? 続けるんですか?」
H山 「あ、ああ。辞めません」
 ふぅ……。ちょっと一安心です。
鷹瀬 「話し合いはどうでした? 彼女も納得したようですか?」
H山 「ええ。〜〜略(ここに訳の分からない話が挟まる)〜〜 今後は解からないことがあったら聞いて下さいということで、納得してもらいました」
鷹瀬 「あ、じゃあ一応落ち着いた話し合いになったんですね?」
H山 「いや……鷹瀬さんも見てて分かったと思うけど、ギスギスしてたのはS藤さんだけだったんだよね。俺も社長も普通に話してたんだけど……」

 おいおい……本当に納得したのかよ……。心配していると、ぶすったれた顔をしたS藤さんが帰ってきました。とても納得して話し合った人間の顔とは思えません……。私は席に戻り、不機嫌そうなS藤さんに聞きました。
鷹瀬 「……ど……どうだった?」
S藤 「別にぃ〜。『はい。はい。業務中は業務のことだけやってます。VBやります。C言語やります。COBOLは捨てます。言う通りにします。はい。はい』って言っておいた。あっちはそれで満足なんでしょ」
 ──全っ然納得してませんっ!! H山さんは何を見ていたのでしょうっ?!
 私はちょっと疲れていたために、「そうなんだ……あの〜……分からないことあったら聞いてね」の一言を残し、自分の業務に戻りました……。
 その後、彼女はずっと腕を組んで画面を見据えてはいますが、手が全然動いていません。「分からなかったら聞いてね」と言った手前、あまりしつこく「どう?」とか様子を伺っても彼女の癇に障るかもしれないと思い、とにかく私は自分の業務に没頭しました。H山さんも何も言わないので、廊下でH山さんとすれ違った時に呼び止めて、「S藤さん、ちょっと行き詰まってるみたいなので、様子を伺ってあげてください」と言うと、やはり事情を分かっていないようなお返事。
H山 「いや、さっきの話し合いで分からないことがあったら聞くと言っていたので、大丈夫でしょう。きっと自分で考えたいんですよ」
 ……S藤さんの態度も悪いとは思いますが、周囲がそれを非難しない代わりに理解もしていないようです……。それが良いことなのか悪いことなのか、もうなんだかよく分かりません……。

 定時間際になると、S藤さんが何やら文章をベタ打ちで書いていました。それをプリントアウトし、H山さんに渡して帰ろうとします。帰り際に「鷹瀬さん、帰らない?」と言われたのですが、私は業務が残っていたこともあったし、正直な話1人で帰りたいということもあり、「あ、ごめん、今日はまだ仕事があるから」と言って断りました。それでも何となく隣に立っているので、「今日はどうだった? 進んだ?」と聞くと、S藤さんは力強く「ううん。全然分からなかった」と言いました……。
鷹瀬 「ならH山さんに聞けば良かったのに……」
S藤 「だって忙しそうだったんだもん。席にいなかったじゃん」
鷹瀬 「じゃあ私に聞いてくれれば良かったのに。私はほとんど席にいたよね」
S藤 「だって、鷹瀬さんだって仕事してたじゃん。聞きにくくって」
鷹瀬 「……とりあえず仕事するためにここに来てるんだから、そんなことで『聞きにくい』って言ってたら、いつまで経っても聞けないよ?」
S藤 「だから聞かなかったんじゃん。いいんだもん。私、人の邪魔したくないし、今までもそうやって来たんだし」
鷹瀬 「これから業務に入ったって人に聞く場面はたくさん出てくるんだよ。その度に『聞きにくい』で独りで考えてても仕事ははかどらないし、それは『人の邪魔したくない』とかいう問題じゃないでしょ? 人に聞くのも仕事の内なんだよ?」
S藤 「別にいいよ。考えてたらちょっと分かったし」
鷹瀬 「……ならいいけど……」
 私も大概この一歩も進まないS藤さんの態度に、ちょっと腹が立ちました……。でも、やっぱり独りきりで研修を受ければこんなふうに苛付いちゃうのかな……とも思いました……。S藤さんは仏頂面のまま帰って行きました……。
 S藤さんが帰ると、H山さんが先ほどS藤さんから手渡されたプリントを読んでいました。「何です?」と聞くと、H山さんがそのプリントを私に見せてくれました。そのプリントにはこう書かれていました。
「今日の進み具合。何が分からないのか分からないので、自分がどの程度進んでいるのか分かりません。聞きたくてもH山さんは席にほとんどいないし、鷹瀬さんはお仕事で忙しそうなので聞けません。とても辛いです」
 ……………………あのぉ〜……これはかなり子供っぽいと思うんですけど……。27歳で既に2社経験している社会人のすることだろうかと、思わず絶句してH山さんの反応を窺うと、彼は私が読み終わったことを確認して、こう言ったのです。
H山 「いや〜、俺はコレを読んで感動しましたよ
 私はパニック寸前でした……。アンタ一体ナニ言い出すねんっ?!?!って感じでした……。もしかして捻りの効いた皮肉?!と思い直し、動悸を鎮めてからH山さんに聞きました。
鷹瀬 「あの……何に感動したんですか?」
H山 「だって、あの何も反応を返さなかったS藤さんが、こんな報告書を書くようになってくれたなんて……。大進歩じゃないですか!」
 コレ、報告書かぁ?! 大進歩なのかっ?! 横でこのホウコクショを覗いていたM平さんも深く頷きながらこう言いました。
M平 「聞けないって辛いもんねぇ……」
 叫び出しそうになりました……。私たちがS藤さんのホウコクショを囲んでいると、渦中の社長が現れました。H山さんは社長に「あ、社長! コレ、S藤さんの今日の報告書です」と、紙切れを渡しました。もうこうなると社長の反応に釘付けです。一通り読み終えた社長の反応は期待以上でした。
社長 「そっかそっか。聞けなかったのか。可哀想なコトしちゃったね。今度からH山さんと鷹瀬さんでちょくちょく様子を窺ってあげてね。きっとS藤さんも喜ぶよ
 漢字1文字で端的に気持ちを表すならば、ってトコロでしょうか……。気絶しそうになりました……。S藤さんは認めたくないかもしれませんが、彼女はこの会社だからクビにならずに済んでるんじゃ……とも思います……。

 T社は物凄くイイヒト達の集団です。心の汚い私にはちょっとついて行けないものがありますが、とても良い……いえ、貴重な経験をさせてもらっていると、そう思うように努力します……。なんにしても太陽は遠くにあれば輝かしいけど、近付けば放射能と灼熱でこっちがヤられます……。


 2000年1月21日(金) 疲れきった1週間  晴/残業 0:30 
 19日と20日の日記を読んでいただければ分かると思いますが、今週はもうくたくたです。会社に行っても疲れるし、家に帰ってもリラックス出来ず、楽しくありません……。現在23日1:00ですが、家庭の荒み具合は改善されていません。友達とも話していましたが、親っちゅーのは絶対に謝りませんね……。6人の友達に聞いて、6人の両親全員が「今までに私(子供)に謝ったことは一度もない」っていうのは新しい発見です。どっかに親たちの法律でもあるんでしょうかね。この気持ちも親にならんと分からんのでしょうか。

 なんにしても、今のところは友達と会っている19時〜23時の約4時間弱だけが心の支えです。最近になってようやく、家に寄り付かないで会社帰りにぐだぐだ呑み歩いているサラリーマンの気持ちが理解できるようになりました。きっと皆それぞれ辛い事情を抱えているのね……。(単に飲み歩いているだけかもしれんが)

 そういや、今さっきS藤さんからメールが来てました。最初の書き出しだけ紹介します……。
「ちゃお! 貧血っす。一つ目のテストが終わったー。ヽ(^o^)丿」
 ……………………もしかして私が物事を深刻に捉え過ぎているだけなのかもしれません……。ちなみにS藤さんはB型です。本当に、良い経験させてもらってます……。


 2000年1月24日(月) 解決&未解決  晴/残業 0:10 
 我が家の母子間の冷戦は23日の昼に解決いたしました……。19日20時〜23日13時……約90時間を経ての終戦です。母子間の戦争としては最長ではないでしょうか。結局謝罪の言葉は一切なし。しかしもうこれはいつものことですし、謝罪もなく仲直りが出来るのが血の繋がりってヤツかもしれません。血の繋がりって素晴らしい!
 ──私がこういう考えになっていること自体、かなり気持ちは落ち着いていると判断できます。仲良きコトは美しきかな……。喧嘩していると自分も疲れるので、出来るものならさっさと仲直りした方が、自分のためにも良いんですよね……分かってるんだ……。それが思い通りに出来ないのが人情なんだよねぇ……。

 さて、我が家の冷戦は幕を閉じましたが、休日を挟んでも一向に幕を閉じる気配さえ見せないのが「S藤 vs 社長+H山」の寒い闘いです……。まぁ闘っているのはS藤姉さんだけですが……。金曜日に有給までとって3日も会社から離れていたのだから、少しは落ち着いたかと期待していたのですが、そう簡単にはコトは運ばないようです。
 勿論バトル当日20(木)よりは随分落ち着いていましたが(っちゅーか、3日開けてあのテンション保たれたらマジで襲い掛かるよ、アタシャ……)、やはり口を開けば「こんな会社もうヤダ。この会社のせいでやる気が削がれた。勉強する気が起きない。辞めてやる」と念仏のように唱えています……。週末に届いた能天気なメールはなんだったのでしょう……。

 H山さんはH山さんで、そんな燃え滾る彼女に油を注ぎまくってます。トンチンカンな指導はとどまるトコロを知りません。端で聞いていても頭が痛いっちゅーねん……。いっそあの指導風景をホームビデオかなんかに収めて、コントとしてS藤さんに見せた方が彼女の心も和むんじゃ……そう思うほど、天然ボケ炸裂コントを繰り返しています。
 誠心誠意の指導コントを繰り広げられて、S藤さんも困っているのかもしれません。それゆえに念仏を唱えるほど苛々してしまうのかも……。

 まぁ私も入社当初数ヶ月間はプログラミングがまるで解からず悶え苦しんでいたので、ちょっとは気持ちも分かるのですが……でも少なくとも「会社のせいだ」とは思わなかったよなぁ……。未だに自分から人に聞こうとしないし……あ、今過去の日記を読み直してみたら、ドンピシャな部分があったので引用しておきましょう。
仕事上で人に聞かないと仕事が進まなくて、あまり聞いてばかりいると段々嫌がられて、果てには『ふぅ……今度は何が分からないんですか?』って言われるのって、キツイもんだね……。10月22日の「『辛さ』の分析」より)
 お〜、私も過去の経験をまるで活かしていないらしい! ビバ、忘却!! ……じゃなくって! そうかー、やっぱ渦中にいると辛いんだったね……。私の場合は「キツイ」と言っていても結局聞いてましたが、やっぱ辛いもんは辛いんだね……。あとは落ち零れていても、それは自分の出来の悪さのせいで会社のせいだとはまったく思っていなかったけど……この辛さも気持ちくらいは分かってあげないといかんよなぁ……。まぁこれも本人にやる気があればの話だけど。
 なんにしても今週も長そうだ……。


 2000年1月25日(火) 灼熱地獄  晴/残業 1:50 
 灼熱の太陽、こと、S藤姉さん……もう駄目かもしれません……。「駄目」と言うのは、彼女的にも、会社的にも、という意味です。彼女自身、分からない辛さで苛々しているのは分かります。しかし、余りの態度の悪さに周囲から孤立しつつあります。あの滅多に怒らないH山さんさえもがキレ、今日の午後には匙を投げてしまいました。私も半分は可哀想だと思いますが、ちょっといくらなんでも余りに態度が酷いので、ハッキリ言って呆れるし疲れます。

 今日などは、我が社の親会社に当たる会社の人から「あの方は……大丈夫なんですか? あの人がいることで業務に支障が出るようなら、それ相当の手配をしなければならないので、何かお困りのことがありましたら遠慮なさらずにご相談下さい」と言われました……。これはかなりマズイ展開です。私は「いえ、特には困っていませんので」と言っていますが、他の人が「S藤さんがいると業務に支障が出る」と言えば、あの調子で行けば即クビでしょう。

 他の会社の人にまでこんなことを言われるようになるとは……そのくらい、業務上無関係な周囲からも「あちゃ〜」と思われているようです。かなりの勢いで「分からないものは分からないんですっ!」と大きな声で言い放ったり、逆ギレしたり、H山さんからキツイことを言われると泣き出したりしているので、さすがに目立っているのでしょう。ウチの会社の人だけでなく、他の会社の人も噂するほど、S藤さんの存在は注目を集め始めています。

 当のS藤さんですが……。どこまで周囲の状況を理解しているか知りませんが、やっぱり当然のように苛々しています。T社憎し、社長憎し、H山さん憎しの思いは日々刻々と熟成され、現在ではもう箸が転がっても「T社が悪いんだ」と言わんばかりの勢いです……。
 例えば、S藤さんと社長がバトルした日(20日)以来、S藤さんは日報を提出させられています。毎日の勉強の進み具合の報告書ですね。「IF文をマスターした」とか「変数の概念を理解した」とか、その程度の報告書です。しかし、この日報提出は当然S藤さんのお気には召さなかったようです。
S藤 「……ねぇ、鷹瀬さんは研修中こんな日報とか提出してた?」
鷹瀬 「いや、私たちはしなかったけど……」
S藤 「……私だけ? ………………やっぱり嫌がらせか……」
鷹瀬 「ええっ?! ち、違うよ。単に進捗が気になるから提出してもらおうってだけでしょ」
S藤 「嫌がらせだね。精神的に追い詰めて、辞めさせようって魂胆なんだよ。もういいんだ。日本語通じない人には何言っても無駄だからね。あーあ。提出するの止めようかなー」
鷹瀬 「……………………」
 「いい加減その被害妄想癖、直せよ」とか、「こんな日報ごときで精神的に追い詰まんなよ」とか、「アナタの日本語もよく分からんぞ」とか、色んな言葉が頭の片隅を駆け抜けましたが、黙っていました。物事を一番簡単に解決する(←不正解。正解は「受け流す」)方法は沈黙だと、この頃深く思うようになりました……。

 この日報も大したモノで、今日だけでこの日報にまつわる揉め事が2件も起きています……。まずは今日の朝っぱらからの揉め事を紹介しましょう。
H山 「あ、S藤さん。昨日、社長が『S藤さんから日報が提出されてない』って言ってましたよ」
S藤 「え?! 私っ、H山さんに提出したじゃないですかっ!」(←話し方が既に喧嘩腰)
H山 「見せてはもらいましたけど、受け取ってませんよ。俺、見た後にS藤さんに返しましたよね? アレは俺に提出するもんじゃないですよ。社長に提出しないと……」
S藤 「返してもらったから提出しないでいいんだと思ってたんですっ。そんなこと、言われなきゃ分からないですよっ!」
H山 「いや……あの……。今度から日報は俺じゃなくて社長に出して下さいね……」
S藤 「アレ、毎日出すんですかっ?!」
H山 「ええ、毎日です」
S藤 「……………………」
(S藤、持っていたハンカチをモニターに投げ付ける。H山、固まる)
 会社に来る早々、このイベントです……。S藤さんも毎日ストレスで胃が痛いと訴えていましたが、思わず「奇遇だね。私も痛いよ……」と訴え返してしまいました……。聞いていてくれたか甚だ疑問ですが。
 そしてもう1件の揉め事は午後一番。食後の消化に悪いでしょ、とか、そんな私の意見は誰も聞いちゃーくれません。揉め事といっても、揉めているのはS藤さんだけなような気もしますが、とにもかくにも今度は社長の出番です。

社長 「あ、S藤さん。今日は日報をちゃんと出して下さいね」
S藤 「あれって毎日出さないと駄目ですかっ?」
社長 「毎日出して下さい」
S藤 「あれ書かなきゃと思うと、勉強に身が入らないんですけどっ」
社長 「それは勉強と両立させて下さい。そのくらいはしてもらわないと……」
S藤 「器用じゃないんでっ、『日報提出しろ』とか言われると、凄く気が散るんですけどっ」
社長 「あれは大事な報告書なので、毎日出して下さい」
(社長、言うだけ言うと即座にその場から立ち去る。S藤、社長がまだ3メートル以内にいる時点で、机の囲い板を思い切り蹴り付ける。ゴワゥゥン……という鈍い金属音が鳴り響き、周囲の人間が固まる)
 はぁ……いい加減、モノに当たるのは止めてくれ……。もちろん人間にも当たらんで欲しいが……。

 さすがにこのような行動を繰り返していると、当初S藤さんに同情的だった人達ですら「ありゃ、どっちもどっちだよ」という意見に傾き、今日の午後には「ありゃS藤さんが悪いよ」になってしまいました。
 H山さんというのは筋金入りのトンチンカンだけあって、我が社の社員たちは当初みんな「S藤さんも可哀想だよね……。あれじゃ分かるものも分からなくなるよ……」と彼女に同情的だったのですが、最近では「H山さんも苦労してるよね……。日に日に溜め息の回数が多くなってるよ……」とまで言われています。

 H山さんはH山さんで、かなり長い間S藤さんの態度に怒り出さずに(トンチンカンな、しかし彼なりに一生懸命な)指導を続けていたのですが、S藤さんが社長に送った社内メールを見てしまい、ついには匙を投げました。私はそのメールを見ていないのですが、直接見てしまったH山さんによると、こう書かれていたそうです。
「H山さんの教え方では、分かるものも分かりません。このままH山さんに教わるのは非常に不安です」
 ──こ、これは……H山さんもショックだっただろうな……と思います……。「俺、もう自信なくしたよ……」と項垂れるH山さんに、さすがに同情せずにはいられませんでした……。
 さて、教育係のH山さんに匙を投げられ、S藤さんは今後どうするのか──今日の定時過ぎ、S藤さんが帰ってから社員の一部が集まって緊急会議が開かれました。経緯が経緯なだけに、誰も教育係を買って出る人はいません。血迷った先輩達は「鷹瀬さんが一番好かれてるんだから、鷹瀬さんが教えるってのは……」などと言い出します……。あのなぁ……私も教育係が欲しいくらいじゃ! このような感情はその通りに伝えられ、こんなヤケクソ案は即却下となりました。

 さてさて、こんな怒涛の展開の中、日記上では初登場となる杉J(スギジェイと読みます。本名イニシャルがSでS藤さんと被るので、あだ名でのご紹介)が現れます。ちょっと頼りないくらい穏やかなO型の杉J! 実力はあるのに遅刻が多いため、今回の業務担当者のランクでは「B」とされている杉J。この杉Jが明日からS藤さんに挑みます。いや、挑むんじゃなくて、S藤さんの指導者となります。

 どうなる杉Jっ? どうするS藤さんっ?! もうこうなると、会社に行くのが別の意味で楽しみです。


 2000年1月26日(水) ……そして、鎮火  晴/残業 0:00 
 4日ほど前から日記を賑わしていたS藤姉さん問題ですが、恐ろしいほど急激な解決が襲ってきました。これは、教育係が杉Jに代わったことが切っ掛けではありますが、すべてのタイミングが良かったというのが根本の理由のようです。
 まず、(1)S藤さん自身が、さすがにこのままではマズイと反省していた。そして(2)教育係がトンチンカンH山さんから、ヒートアップしようがない穏やかテイスト杉Jに代わった。加えて(3)基本に戻って勉強したため、S藤さんが習っていることをよく理解でき、そのため苛々せずに研修に臨めた。
 ──これら3つの要素が絡み合い、本日は非常に和やかに過ごしていました。

 S藤さんの昨日からの余りの変貌振りに、周囲の物見遊山の連中は再び「やっぱりH山さんの教え方が悪かったんだね」などと言い始めています。こうなるとちょっとH山さんが気の毒です。私はH山さんのことは好きではありませんし、H山さんの教え方が悪いとはずっと以前から思っていますが、それでもここ数日間のことは、それだけの話ではないと思っています。表面だけを追ってコロコロと変わる周囲の意見には、なんだか納得できないし、ついて行けません……。

 今回の一連のことで、杉Jに教育係を頼んだり、H山さんとS藤さんの間に立って二人の言い分を通訳したりしたこともあって、「なんだかん言って、鷹瀬さんって面倒見良いよね」などと感心したように言われましたが、きっと一番わだかまりを抱いているのは私ではないかと思います。私は別に面倒見が良い訳ではなく、単に「聞いちゃいられん」とか「見ちゃいられん」といった気持ちから行動を起こしているにすぎないのですが、周りの皆の主な意見は「放っておけば?」という大変クールなものなので、いちいち相手にしていること自体、「面倒見が良い」と受け止められるようです。要するに、本音の話をすれば皆は「S藤さんがどうなろうと、H山さんがどうなろうと、どうでもいい」と思っているのでしょう。

 つい前日には「あの人は駄目だね……」などと言っておきながら、翌日にはにこやかに本人に接している人達を見ていると、「これが大人(社会人)ってモノなのか……」と思う反面、「やっぱこの人達を心から信頼することは出来ないなぁ……」とも思ってしまいます。そう言う意味では、S藤さんなんか非常に正直だし、裏は無い人だと思います。
 今話している目の前の相手に裏が無いと信じられるということが、いかに難しいか。会社という場がそもそも友達を作る場ではないのだから、仕事上での信頼関係以上の信頼を求める方が間違っているとは思いますが、こうした事実を目の当たりにする度に、信頼できる友人の有り難味を再確認しますねぇ……。ホント、社会人になってから友達なんか増えやしないんだから、数少ない持ち駒を大切にしないとね。

 話を戻しますが、今回のことでさすがに私も学びました……。今度こんなことが起こった場合は、「我関せず」で攻めてみます。


 2000年1月27日(木) 小休憩  晴/残業 0:50 
 取り敢えず会社の方は(正確には「S藤さんの方は」)すべてが何となく落ち着いたってトコロでしょうか……。

 周囲が落ち着くとやはり目が向く先は自分のことです。落ち着き払ってる場合じゃないのです。この会社に入社して約5ヶ月……。仕事に慣れ、会社に慣れてくると気持ちまで落ち着き払ってしまって、つい腰が重くなります。今日は昨日の続き……別に劇的な変化もなく、血の滲むような努力も無く、毎日をただ何となく遣り過ごす──これじゃイカンのですッ! はぁはぁっ! なりつつある……なりつつあるよ〜っ!
 でも逆説的に考えると、ひとつの会社に落ち着きながら様々なことにチャレンジしている人というのは、本当に凄い強靭な精神力を持っているのだなぁ……ってコトです。転職して人生考えるのは、まぁ当たり前っちゅーか、「考えなきゃヤバイでしょ」って感じもあるし……。一番物理的にも動いている時だし、気持ちがそれに引き摺られて活発に動くのは当然と言えば当然で、行動力の本領が発揮されるのは、むしろ落ち着いた環境に身を置いている時なんだろうなぁ、と思います。
 落ち着いていて自分のことに時間を割ける時にこそ努力しなくてはならんのです。


 2000年1月28日(金) 富豪たちの人生  晴/残業 0:30 
 先日、億万長者になった人達の人生を紹介したバラエティ番組をやっていて、色々と感銘を受けました。……ちょっと頭の弱い感動やさんなんですね……私……。ま、それは置いておいて。

 TVを付けた時点で紹介されていたのが、宝くじが当たったがゆえに何もしない自堕落な生活を送っていたら、自分の力だけでは立ち上がることも出来ないほどの巨漢になってしまった人でした。アレを観て、「う〜ん、宝くじに当たるってのも考えモンだね。私だったら1割手元に残してあとは……」などと真剣に考えていること自体、私も人生を見直す必要がありそうです……。

 次に、日光猿軍団の校長(設立者)が紹介されてました。9年前に日光猿軍団を設立してから、7年連続長者番付に載っているんだって。昭和48年には所持金6000円だった彼が、その後37回転職を繰り返し、ある時TVで猿の「反省!」芸を見て、「これなら俺にもできる!」と思い立ち、即20万円で猿を3匹購入……それが日光猿軍団の始まりだったとか……。
 これ聞いて、「37回転職」辺りで勇気を貰って、「ある時TVで猿の『反省!』芸を見て」辺りで「思いっきりパクリやんけ! いいのかっ?!」と動揺したんだけど……。ネタをオリジナルよりも上質なものに改良し、ビジネスにしてしまい、発案者より儲けてしまう……。小器用な日本人のお家芸がこんなに完全な形で成功するなんて……うう。最初に猿芸を披露した太郎と次郎(だっけ?)は今どうしているんだろう……。そっちの方が気になって気になって……。
 でもまぁこの人も大したもので、「今は何をやっても上手く行くもんで、悪いような気がする」とのたまっていました……。人に悪いと思うほど順調な人生ってどんなよ? いやはや凄いっス。

 あとは、「何でも宝石に変える女」として吉川幸枝さんという50代(40代だったかな?)の女性が紹介されてました。よくTVに出ている有名な人なんだって? 私は今回初めて知ったけど、まーとにかく凄いんだ……。
「私、派手なモノがだぁい好きなの。派手な英雄とかも好きなのよ〜。これはナポレオンが使っていたグラスセット(テロップで「推定1千万円」と紹介されていた)でねぇ、こっちは太閤秀吉が使っていた火鉢(同じく「推定1千万円」)で……」
という感じで、いかにも成金っ!と自ら演出している節があって「なんだかなぁ……」と思っていたら、畳み掛けるように「この指輪は数千万で、こっちは26カラットのダイヤ。もちろん億単位よぉ。私はねぇ、100億を身に付けて歩きたいの。それが私の理想よ」と微笑んで下さる……。

 どうやってもほとんどの人がこの女性に好感は抱けないだろう、コレ放送していいのか?!──と動揺していると、なんと彼女にも現在の彼女を肯定できてしまうほどの力強いルーツがあったのです。彼女は13人兄弟の末っ子として生まれ、母親とカツカツの生活からスタート。その後24歳の若さで会社を設立し女社長となり、現在では数多くの料理店のオーナーに……。
 店を紹介するためにちょっとした距離の移動も小走りしている彼女が、何気なく「私、歩くのって時間が勿体無くて嫌なの」と言った時、この台詞から彼女の生き様が垣間見えた気がして何となく感動しました。そして、この「何となく感動」を「ちゃんとした感動」に変えたのが、最後に紹介された彼女の台詞です。
「私にはねぇ、宝石よりも何よりも大好きなものがあるの。それは、こういう宝石を身に付けるために一生懸命努力している吉川幸枝さん(←自分で自分に「さん」付け!)の姿なの。私は私が大好き!
 ──ちょっとブッ飛びました……。「馬鹿言ってんじゃないよ!」とか、「貴様いくつだ!」とか、そんなチープな突っ込みは入れられません。っちゅーか、入れるべきではない。この人は本当にちゃんと自分の力で今の座を掴み取り、自分の望むものになろうと努力しているのですっ! これは本当に凄いことだと思います。ただ単にその表現形として現れたもの(100億の宝石を身に付けて歩きたいという願望)が、私の価値観に合っていなくても、そんなことはどうでも良いのですっ! 凄い……本当に凄いっ!
 私などは「そんなン十億の金を似合わん宝石に継ぎ込むくらいなら、食うに困ってる人達に寄付でもしたら?」などとつい思ってしまいますが、そう思うなら貴様が儲けて寄付しろよ、ってなもんです。彼女が彼女の努力によって稼いだ金をどう使おうと、私ごときの雑魚がとやかく言う筋合いなどこれっぽっちも無いのです。

 他にも色々と劇的に富豪になった人達が紹介されていましたが、皆に共通しているのは、とにかく並外れた行動力があるってことです。一口に行動力と言っても様々で、心から尊敬できるような行動力を持った人もいれば、それはもう周囲から見たら浅はかなんじゃ……と脱力してしまう類の行動力を持った人も紹介されていました。
 もちろんこの番組では成功者のみを紹介しているので、視聴者は「行動力のある人の幸運な人生」しか見ていないのですが、「金持ちになれるかどうか」という判断基準ではなく、「充実した人生を送っているかどうか」という判断基準で見れば、きっと行動力のある人は、貧乏だろうがなんだろうが、ほぼ全員が充実した毎日を過ごしているのでしょう。

 番組の大トリには、幸福なケースではない劇的な人生が紹介されていました。
 会社を起こして成功を治め、順風満帆に生きてきた男性が、会社の経理を預けていた知人に10億円を持ち逃げされ、一気に無一文に。一生掛かっても返せる額ではない負債に一度は自殺まで考えたところ、友人から「死ぬんだったら本当の地獄を見てからにしろ!」と諌められ、覚悟を決めて一路ラスベガスへ。彼が「本当の地獄」として選んだのはギャンブルの世界だったのです。
 彼は勝って勝って勝ちまくりました。そしてついには日本人初のプロのポーカー勝負師となり、今では1日に100万円稼ぐこともあるほどの腕前。カジノの専門誌に日本人で初めて紹介されるまでに至ったという……。

 この人が言っていたんですよね。
「借金を全額返済したら、今度は楽して稼いだ金を寄付したいです」
 うう……アタシャ感動のため泣きました。この人を最後に紹介する辺り、TV局側も最低線の倫理観を持って番組編成をしているっちゅーか……。
 でもちょっと疑問に思ったんだけど、ポーカーって運はもちろん必要だと思うけど、何よりも相手のカードを読んだりゲームの流れを読んだりする知能ゲームなんだよね。なのに、この人が「勝つために心掛けていること」を紹介した時に言ったことが、「死ぬ気で勝負に臨んでる」ってことだけだったんだよね……。いや……あの……それも充分大切な心構えかも知れないけど、ポーカーって気合だけじゃ勝てんだろうと思うんだけど……。
 そこで思ったのが、もし気合だけで勝っているとしたら、それはもう勝利の女神がニッコニコなのかなー……って。神様に普通以上に愛されてる人なのかもな……って。でもそこまで思って考えたのが、「なら最初から10億円の借金なんかさせなきゃいいのに……」ってことで、そんで更に考えを発展させた結果辿りついた答えが、彼の先ほどの言葉「借金を全額返済したら、今度は楽して稼いだ金を寄付したいです」なんだよねぇ……。
 神様はこの人にこういう精神の芽があることを知っていて、この芽を開花させるためにこういう状況に追い込んだのかもしれませんね……。
 ──何でもかんでも神様に理由を持って行くな、って感じですが、何となくそう思ったというだけですので。

 総括として、劇的な人生には想像を絶する精神力や努力が必要となってきます。自ら望んでそれを誘発する環境に身を置くケースもあれば、単なる流れで発揮されるケースもあり、しかし言えることは、結果を迎えるためにはいずれにせよ相当のエネルギーが必要となるってコトです。
 俗っぽくても高尚でも、結果を生み出す人達は、それだけでもう尊敬に値するだけの力を持っているのでしょう。そういう実例を見て、「なんだ、私にも出来そうじゃん」と気軽に思えるくらいの楽天思考は、ある意味必要かもしれないですね。


 2000年1月31日(月) 疲れきった1ヶ月  晴/残業 1:00 
 疲れたよ〜。疲れきったよ……。




2000年01月の勤務表
 出勤日数 19日(うち休出 0日)/勤務時間 151:25  欠勤日数 0  有給休暇 0
 月残業時間 8:55  日平均残業時間 0:28  今月最高残業時間 1:50/25(火)
 【一言】 結構疲れた1ヶ月だったのに残業は10時間以下。なんで? この疲れはS藤さんのせい?


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