stay in IRELAND

愛蘭滞在記(5)〜Limerick編A


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 怒涛の幕開けから迎えたリムリックでの新生活。新環境に慣れ、ハウスメイトに慣れ、ゆったりとした幸福感に満ち満ちたと思ったらもうお別れです……。出会いと別れが頻繁に押し寄せて、感情を消化させるのが大変ですが、日本では全く使っていなかった部分の気持ちをフル活用して生きています。毎日が楽しいです。
2002年8月19日(月)〜9月14日(土)の小見出し一覧
 8/19(月) さよならサラ  8/20(火) 日本食でお礼  8/21(水) サラのいない日々
 8/22(木) Raksha Bandhan  8/23(金) ダンス・パーティ  8/24(土) 意外な理由
 8/25(日) 今更知るサラ効果  8/26(月) 千客万来  8/27(火) 同時期の不調
 8/28(水) 「嫌いな奴」のワケ  8/29(木)〜9/2(月) ゴルウェイ旅行記
 9/3(火) 贈り物の意義  9/4(水) アイリッシュとパブ  9/5(木) 尿素でチャレンジ
 9/6(金) 冬の到来  9/7(土) コリアン・フレンド  9/8(日) 空間の癒し効果
 9/9(月) 久し振りの学校  9/10(火) ゴタゴタの予感  9/11(水) やはりゴタゴタの予感
 9/12(木) 太ったカモ  9/13(金) 器用なインド人  9/14(土) 戦い論議と vs ナズ


2002年8月19日(月) さよならサラ
 本日いよいよサラが新天地に旅立ちます。彼にとっては喜ばしいことですが、私にとっては寂しい旅立ちです。まぁ会おうと思えば2時間で会いに行ける距離ですし、彼の新しい勤め先は自然の景観に恵まれた美しい観光地でもあります。コレはイイ。
 サラは私のドイツ旅行の時、シティセンターの中央バスステーションまで見送りに来てくれたのです。他のハウスメイトは全員働いているため見送りができないのは当然ですが、無職の私がどうして玄関でのサヨナラで済ませることが出来ましょう。

 朝、皆にお別れをして、9時半には家を発ちます。私とサラの間は言葉少ない状況ではありましたが、めちゃめちゃ寂しそうなサラに比べて私は内心落ち着いたものでした。だって2時間の距離です。生き別れという訳でもあるまいし、私がアイルランドに来る前に友達と会って別れた時でさえ、「しばらく会えないのかー」とは思いましたが、「悲しい」「寂しい」とは思いませんでしたし。
 最後のお別れをして彼が乗り込んだバスが出発しても、勿論寂しいことは寂しいのですが、そんなに深刻な感情は沸き起こってきませんでした。

 サラの乗ったバスが完全に見えなくなり、「買い物でもして帰るかー」と街をぶらついて、家に帰ったのは昼過ぎでした。
 私が帰ったときにはアミットとルシが居間にいて、何となくその場で雑談するのですが、どうにも気持ちが盛り上がらない。何でかなぁ、何となくつまらないなぁ……と、もやもやした感じでぼーっとしていると、弟2人が口数少ない私を心配し始めます。
アミット 「Hey, To-ko! What's wrong?」
ルシ 「Why do you look so sad?」
 ………………そうかー、そんなに悲しそうに見えるのかー……。ただ調子が出ないだけなんですけどね……。

 どうやら私ときたら、サラが完全にこの家からいなくなって初めて彼の存在の大きさに気付いたようです。実際彼はムードメーカーでしたから。
 インドでは家族の1人が異国の地に旅立とうものなら、3日3晩どころか1週間以上も延々と泣き暮らすそうですが、私も徐々に精神的に染められているのかもしれません。
 これで9月末にルシが旅立ち、10月末にアミットが帰国してしまったら、もうどこまで落ち込むか分かりませんが、誰かがいなくなって寂しいというのもなかなかなかったことなので、この状況を存分に味わうとしましょう。


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2002年8月20日(火) 日本食でお礼
 サラが不在のためキャルの調子が出ません。サラとキャルの掛け合い漫才のような言い合いの場に参加するのが好きだった私は、調子の出ないキャルの横でやはり調子が出ません。
 今まではキャルの癖のある英語をサラが説明を加えて噛み砕いて私に伝えてくれていたのですが、サラがいなくなって初めて、自分がサラのお陰でかなり快適に過ごしていたのだと気付かされました。

 たとえ私の調子が出なくても、私はまだ皆に誕生日パーティのお礼をしておらず、日本食でお礼を……なんていう真似事が出来ればなぁ……と思っておりました。こちらで揃えられる材料の都合と私の料理スキルの都合で、メニューはちらしと海苔巻と卵焼き――材料は昨日揃えておいたものの、菜食主義者のアミットは魚と卵も食べないと言うことを知り、更には仕事の関係上、全員が夕食時に集まることは難しく、「どうしようかなぁ……」と迷っていましたが、本日ナズの方から「何か作ってくれ(原文:「Can you make something for me?」)」との(何となく癇に障る)リクエストがあったため、「よし」と思い立ちました。

 正直言って、ナズのことは余り好きではありませんが、感謝と好意は別物です。丁度その時間に食卓にいたのがナズとキャルとアミットで、アミットからも「僕はいいからナズに作ってあげなよ」と後押しが入ります。どうして断れましょう。実際キャルには一度手料理を食べて貰いたかったので、「じゃあ、キャルとナズの分を作るね」ということで腕捲りをします。
 料理に取り掛かる前に、しかしこれだけは念押ししておかなければなりません。
鷹瀬 「……何度も言っていると思うけど、私は料理上手くないのね。それでもいい?」
ナズ 「もちろん」
 よし、では作ってみましょう。

 さて、手際悪くもたもたと料理していると、元から余り時間に余裕のなかったキャルが、仕事に赴かなければならない時間になってしまいました。彼女が仕事から戻るのは深夜で、「食卓に置いておくね」と約束し、引き続き(計らずも)ナズのために料理を続けます。…………正直、ちょっと不本意。しかし感謝と好意は別物です。

 何だかんだとこなして行く内に一応それらしいものが出来上がり、本人的には満足の行く仕上がりでした。キャルの分を別に除け、私とナズの2人分を1枚の皿に盛り付けて、さぁどうぞとナズに声を掛けます。
鷹瀬 「ナズ、ご飯できたよ」
ナズ 「後で食べるから、そこに置いておいて」
 ……………………何コイツ感じ悪ぅ……。普通、他人が自分のためにご飯を作ってくれたら、何を差し置いても一緒に食べると思うのですが……。サラだったらお皿を並べる時点から手伝ってくれるのになぁ……とサラの不在をまた思い出してしまったり。
 まぁイイです。冷めても良いものしか作ってないので。下手に好きではない人と食卓を囲むより、独りで食べた方がよほど気楽ってなもんですから。
 ドイツ旅行の際に落ち合った友人に持って来てもらった海苔をふんだんに使った海苔巻とちらし……。まぁ言ってしまえばこんなの「料理」ではありませんが、それでもなかなかイケまして、本人的には「うわーい! 結構美味しいじゃん!」ってなモンです。食べている内に「……もっと食べたい」と思い、ナズに残しておいた分を少々削ってしまおうか、どうしようか……と真剣に悩みましたが、そもそも量的にそれほど多くないので、私:キャル:ナズ=2:4:4の割合で分配した皿を当初のまま残しておきました。
 私がゆっくり食べていると言うのにナズはなかなか現れません。別に彼と一緒に食べたい訳ではありませんが、ただ「この海苔巻には醤油をつけて食べてね」と言いたいがために、なかなか現れないナズを食卓で待ちます。
 ――くっそ〜、何かいちいち腹立つなぁ……。

 私が完全に食べ終わり、食器を洗う段になって漸くナズが現れました。
 彼が「どれだ?」と言うように食卓を見たので、「コレとコレね。コレにはこの醤油をつけてね」と説明すると、彼は礼を言う素振りも見せず、私には分からない言語で何か言いました。彼の英語力はかなり低く、時々何を言っているのか分からないのは日常茶飯事なので、取り立てて気にせず食器洗いを続けます。
 すると彼が食器棚から新しい皿を取り出し、彼が昨日作ったカレーを盛って電子レンジに入れているではありませんか。
 以下、私とナズの遣り取りを原文そのままご紹介しましょう。
鷹瀬 「What are you doing? Don't you eat it?」
ナズ 「Ha-ha! No ram. No chicken. I don't want to eat it.」(※注:私の用意した料理を指差して鼻で笑っていた)
 はぁっ?! 何コイツっ!?! 今、何て言った?! 「羊肉もない、鶏肉もない。こんなもん食えるか」ってコト?!
 そりゃアンタが毎日肉食ってるのは知ってるよ。でも何その態度っ! 私は初めに「料理得意じゃないよ。それでもいい?」って聞いただろっ! なら最初から「何か作ってくれ」なんて言うンじゃねぇよっ!! 引っ叩いてやりたいくらいマジ腹立つッ!!

 とにかくもう腹が立って腹が立って……。この家に来て以来、怯えたり困ったり不安になったりしたことは散々ありましたが、怒ったのは今日が初めてです。――と言うか、アイルランドに来て以来、ここまで怒ったのは初めてです。――と言うか、日本にいたときでもここまで怒ることは滅多になかった……というほどの怒りっぷりでした。
 食器を洗う手を止め、しばらく無言でナズが電子レンジから取り出した皿を食卓に運ぶ様を目で追っていました。彼が席に着き、自分で作ったカレーを食べている様子を見ている内に怒りが心頭に達し、私ときたら真っ白になった頭で何も考えずにナズを指差してこう言い放っていました。
鷹瀬 「I'll never cook for you!」
 こんなにも無心な状態で何かを言ったのは久し振り、というくらい無心な状態でした。「無心」と言うか、もしかしたら「怒り一色」だったのかもしれませんが、何かこう……透明感のある感情だったことは確かです。
 声を荒げた訳ではありませんが、単語ひとつひとつにかなり強めのアクセントをつけて、ほぼ睨み付ける眼力と共に腹の底から言い放ったためか、ナズはビビって私の用意した皿に手を伸ばします。しかしそれを遮るように私は素早く皿を自分の方に引き寄せ、ナズが見ている前で黙々と彼が「I don't want to eat it.」と拒絶した料理を食べ始めました。
 そうさ、私は食べたかったのさ。そもそもアタシャ貴様なんかにやりたかねぇんだよ!! お前なんか大っ嫌いだっ!
ナズ 「I try! Give it!」
鷹瀬 「No. You don't need to eat it.」
ナズ 「I try! Give it! Give it!」
鷹瀬 「Noooooooo!!!!!」
 大人気ないと思いますが、相手だって大人です。どう思われたって構いません。――くっそ、まだ怒りが治まりません。
 私がナズと視線を合わせず黙々と食べている間も、ナズは「Give it!」としつこく繰り返します。いっそ机に拳を打ち付けて「Shut up!」と怒鳴り付けてやりたい気持ちも沸き起こりましたが、さすがにそれはせず、ついには彼独特のしつこさに根負けし、皿を差し出しました。すると彼は最も小さいひとつを摘んで味わいもしないうちから「Good!」とか言っています。
 ――ウソこけ。お前、2種類あるのに1種類にしか手ぇ出さないし、決して「One more.」って言わないじゃないか。
 別に私の作ったものが彼の口に合わないこと自体は構わないのですが(そもそも口に合わないのでは……って思っていたし)、自分から「作ってくれ」とまで言っておいてこの態度、という点に許せないものを感じます。
 既に「余り好きではない」という位置付けだった彼は、この出来事を切っ掛けに「大嫌い」に降格です。

 その後、ナズが「それじゃ足りないだろう。カレー食え」などと言って来ましたが、「No.」以外の返事は一切せずに台所を離れたのであります。

 夜、キャルがなかなか帰って来なかったので、「醤油をちょっとたらして食べてね」のメモを残して彼女の分を机の上に置いておくと、真夜中に彼女がわざわざ私の部屋まで来て「コレ、とっても美味しいわ! 取っておいてくれてありがとう!」と言ってくれました。ナズの1件があったために感動もひとしお……。
キャル 「今全部食べちゃうのは勿体無いから、残りは明日の朝に食べるわね。冷蔵庫に入れておくけど、食べちゃ駄目よ! 全部私が食べるんだから!」
 ……………………なんかねぇ……泣きそうになりました……。人のためにご飯を作るのって、相手さえ間違えなければ本来はこんなに嬉しいことの筈なんですよね……。

 翌朝、キャルが残りの海苔巻を美味しそうに食べてくれていて、再びほんのりと心温まります。
鷹瀬 「いやさぁ……昨日、ナズから『羊肉もない、鶏肉もない。こんなもん食えるか』って言われちゃってさー」
キャル 「は? あの人は肉を食べすぎなのよ。気にすることないわ。本当に、これってばとっても美味しいもの」
鷹瀬 「ありがとう……」
キャル 「でもどうしてサラがいる間に作ってあげなかったの? 彼、いつも『日本食が食べたい』って言ってたじゃない」
鷹瀬 「いや、私、本当に料理下手でさ。自分の料理の腕を恥じているんだよね」
キャル 「何言ってるのよ! これ、物凄く美味しいわよ!」
 ありがとう、キャル。嘘だとしても、そう言ってくれる気持ちが嬉しいのです。

 サラか……そうっすね……次の機会には努力してみます……。本当に、「こんなもん食えるか」と言うような人に作ってる場合じゃないですよね。
 そう言えば、サラは私がパスタを作った時に「美味しい」と食べてくれたものです。後で他の人から「サラはパスタが嫌いなんだよ」と教えてもらい、ああなんて良い奴なんだと感動したこともありました……。ホテルマンをしているだけあって、他人に対する気遣いに長けた出来た人なのです。
 「親孝行、したい時には親はなし」な心境です。ああ、本当に惜しい人をなくしました……。――いや、生きているんですが。

【追記】
 一通り怒ってスッキリした後に「やはり大人気なかったカモ……」と反省していると、コーク在住の友人から電話が掛かってきたので、その際に最後の鬱憤晴らしとばかりに今回の一連の話を怒涛の勢いで吐き出してみました。すると「……私ってば心が狭いなぁ」と反省しかけた殊勝マインドを打ち砕くこんなコメントが……。
「――ってか、それは殺してイイでしょう」
 ……大爆笑してしまいました。でもそーか、やっぱり「殺してイイ」レベルの「酷いコト」だよなー。


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2002年8月21日(水) サラのいない日々
 もちろんサラの引越しの話を聞いた時から、「彼がいなくなったらこの家の雰囲気も変わるんだろうなぁ……」と覚悟はしていましたが、まさかここまで変わるとは思っていませんでした。
 特にサラの不在を寂しく思っているのがキャルで、彼女はいつも「サラがいないと退屈だわ」と溜息を吐いています。サラとキャルは四六時中軽い口喧嘩をしているようなコンビで、私は彼らが(冗談で)言い合いをしているのを聞くのが好きだったのですが、今ではそれもなくなり、確かに居間にいても退屈です。
 また、サラはキャルと共に一番の綺麗好きだったため、掃除戦士双璧の片翼をなくしたこの家は、確実に汚れてきています。私も毎朝出かける前に掃除をするのですが、それでも帰って来ると既に汚れていて、サラがいた時にはこのようなことはなかったので、「ああ、いつもは彼が掃除していたんだ……」と改めて知るのでした。

 サラは「おいでおいで」という気質が強い人だったので、彼がいたときは皆が食卓で一緒にご飯を食べるのが当たり前だったのですが、今は大勢が食卓に集まることもなくなりました。いなくなって分かる、彼の凄さと言いましょうか、パワーと言いましょうか……。

 不在をこんなに偲ばれる人間というのは凄いなぁ……と、そういう意味でも改めて彼に敬意を抱くのでした。


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2002年8月22日(木) Raksha Bandhan
 本日はインドのお祭、「Raksha Bandhan」です。これは兄弟と姉妹間のお祭りで、具体的には「姉妹が兄弟にバンドを贈り、兄弟が姉妹にお金や何か特別な贈り物をを贈る」という年間行事だそうです。
 数日前にインドからアミットに郵便物が届き、実の姉妹がいないアミットは従妹から可愛らしい水色のバンドを贈られていました。同様に、現在アミットの部屋に居候しているアミットの親友ルシは4人の姉がいるため4本のバンドを贈られており、本日それぞれ贈られたバンドを右手首につけていました。
 「そのバンドは今日1日中つけておくの?」と何気なく聞いたら、これまたインド。想像を越えた半端ではない答えが返って来て、またも私を喜ばせます。
ルシ 「まさか。このバンドが壊れるまでだよ」
鷹瀬 「え……『壊れるまで』って言うのは……普通はどのくらいの期間を指すの?」
ルシ 「うーん……6〜7ヶ月くらいかなぁ……」
鷹瀬 「え……じゃあ年の半分以上はこのバンドをしていることになるの?」
ルシ 「うん」
鷹瀬 「じゃあ半年くらい前は去年のバンドをしてたの?」
ルシ 「もちろん。アミットはこっちで仕事してるから明日には外さなきゃならないけどね」
 うお〜〜〜なんでこんなになんでも「too much!」なのでしょう!! 本当に興味深い国ですっ!

姉妹がいないアミットは従妹から1本のバンド(上)
4人の姉いるルシ(アミットの親友)は4本のバンド(下)

 サラがいなくなって、更には昨日のナズの1件があったため、私も大概自分のご飯は自分で作るようになりましたが(……今更)、いくら「今後ナズからは一切の食べ物を受け取るもんか!」と息巻いていても、他のメンツから「トーコ、これ食べる?」と聞かれれば、どんなものでも試食してみたいという好奇心が強いため、私はまず断りません。
アミット 「ヘイ、トーコ。マサラ・ポップコーン作るけど食べる?」
鷹瀬 「うん」
ルシ 「トーコ、スペシャル・チャイ作るけど飲む?」
鷹瀬 「うん」
アミット 「インド式レモネード作るけど飲む?」
鷹瀬 「え? その手に持ってるのはコショウ? レモネードにコショウ入れるの?」
アミット 「砂糖と塩と胡椒で味付けするんだよ」
ルシ 「いや、コレは多分トーコは嫌いだよ」
アミット 「大丈夫だよ、トーコはトライするよ」
鷹瀬 「うん、飲んでみたい」
アミット 「な? トーコは絶対『No』って言わないんだよ」
 ………………ええ、基本的には言わないんです。
 しかし日常生活の会話を改めて字面に起こすと、もしかすると私は「愛されている」と言うよりも、単に少々頭の弱い貧しい子供のように思われているのかもしれません……。
 サラがいなくなって主食系の振る舞いは減りましたが、依然として細々と恵んで貰っています……。私はインド料理を片っ端から試食してみたいという気持ちがあるので、「食べる?」と聞かれれば絶対に断りませんが、申し訳ないのは彼らが私の作るものに一切興味がないので、「食べる?」と聞いても「要らない」とアッサリ断られてしまうことでしょうか……。私の作ったものを「美味しい」と言って食べてくれるのはキャルとサラくらいです……。うう……。


アミット作 マサラ・ポップコーン (製作時間3分)

 しかしスパイシーな食べ物が好きなので、彼らの作るものは何を食べても美味しいです。キャルは辛いものは苦手らしく、彼らの作ったものを振舞われても断っています。余り辛いものを食べると胃がおかしくなるそうなのですが、私は取り敢えず今のところは大丈夫なようです。
アミット 「トーコは辛いの大丈夫なんだね。前のフラットメイトのヨーロッパ人たちは僕らが作ったものは絶対に食べなかったよ」
 インドの食文化は私に合っているのかもしれません。やっぱ好きだなぁ……インド……。いつか暮らしてみたい……。

【追記】
 姉妹のいないアミットに比べ、4人の姉がいるルシは料理が上手くありません。インドでは家事は「絶対に」女性がすることで、ルシは家では自分のことは何ひとつしないそうです。
鷹瀬 「え……それってどうよ。男の人も家事を手伝うべきだと思うよ、私は」
アミット 「トーコ、もしインドで夫が家事なんか手伝ったら、妻は悲しむよ。女性は家のことだけして、子供の面倒を見て、それを誇りにしているし、それがすべてなんだよ。ルシの家は姉が4人だから彼は家では何もしないで王様のように扱われているよ。今日だって、きっと今頃彼の家族はルシを想って泣いているよ。たった1人の息子、たった1人の弟だからね」
鷹瀬 「でも例えば5人の兄弟の中で女の子が1人だったら男兄弟は手伝うの?」
アミット 「いいや、彼女1人で他の兄弟の食事の支度とか全部するんだよ」
鷹瀬 「ええ〜それはちょっと許せないものを感じるんだけど……」
アミット 「でも逆に男兄弟に女の子が1人だったら、彼女はお姫様みたいに扱われるんだよ。もしも彼女にちょっかいを出すような男がいたら、兄弟はその男を殺すだろうね」
鷹瀬 「またそれは過激な……。でもなぁ……たった1人で全員の面倒ってなぁ……」
ルシ 「女性は家のことと子供の面倒を見るだけだし、ほとんどの女性は毎日映画を観たり、お喋りしたりして1日の大半を過ごしているし、全然大変じゃないよ。僕の母親は50歳ちょっとだけれども、子供が全員成人したから今では毎日、何もしないで1日中祈っているよ。彼女はそれで幸せなんだ」
鷹瀬 「ひえぇぇ〜。それってどうなの? すっごく退屈な人生じゃないの?」
ルシ 「でも母はそれで幸せなんだよ」
アミット 「親は子供の面倒を見るべきだしね。アメリカとか見てみろよ。小さい内から放り出して。全然面倒を見ていないから、あんなふうに国が荒むんだよ」
ルシ 「最近ではインドでも女性が働くようになったから、徐々に変わってきてはいるけどね。でも、たとえ女性が仕事をしていたとしても、家事は第一に優先されるべきことで、彼女たちもそう考えているよ。もちろん良い点もあり、悪い点もあるけどね」
 インド人の女の子と是非お友達になり、女性側からの意見も聞いてみたいものです。男女双方共に幸せならばOKでしょう。今の私には考えられない人生像ですが……。
 少なくともアミットの婚約者は「アミットと妹以外とはほとんど口を利かない」らしいので、お友達候補にはなれませんが……。
 アイルランドでも充分に「時の流れがゆっくりしているなぁ……」と感じますが、インドでの時の流れは更にゆっくりしているのでしょう。面白いなぁ……。


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2002年8月23日(金) ダンス・パーティ
 サラがいなくなってからというもの、入れ替わるように(私の大嫌いな)ナズが居間や食卓に居座るようになり、私的に共有空間が非常に居心地悪くなりました。ナズはサラのことが好きではなかったため、サラが居間や食卓にいる時には決して場に参加しなかったのですが、今ではサラがいなくなったため、ナズと居間や食卓で鉢合わせる機会が増え、ハッキリ言って不愉快です。
 不愉快ではありますが、ここは私だけの家ではありません。彼が居間で寛ぐのを阻む権利などなく、ならば私が部屋に行くさ……と自室に篭るのですが、サラという最大の話し相手を失ったキャルが半ば強制的に私を共有空間に呼ぶので、ここに来た当初を彷彿とさせる状況に陥っています……。
 そう、つまり「自分の時間が持てない」……。キャルの話し相手という意味でも、サラの存在は大きかったようです。

 そして今日です。金曜日です。どこの国でも金曜日に対する期待感と言いますか、熱い思いは一緒なのでしょうか……?
キャル 「今日の夜に妹2人が来るの。今夜はダンス・パーティだから、寝ちゃ駄目よ」
 ……………………それ、私も強制参加なんですか……?

 ……………………強制参加でした。
 まぁ自分が踊れたら楽しいのでしょうが、キャルを筆頭に南アフリカ勢の踊りの上手さを見ていると、一緒に踊りたいなどとどうして思えましょう……という感じで、つい見る側に徹してしまいます。根本的にダンスが上手い南アフリカ勢と、根本的に踊るのが好きなインド勢(※注:両者には大きな違いあり)居間で踊り狂っているのに対し、バングラディッシュと日本はそれを眺めているだけ……という興味深い事態になってしまっていました。
 しかし踊りと音楽(楽器)と歌と料理は、言うなれば世界語です。言葉が通じない国、文化の著しく違う国に赴く場合に、これらの世界語のスキルがあると強みになるだろうなぁ……としみじみ思います。歌以外すべて駄目な私は、正攻法で英語力を伸ばすのが最も近道なのカモ……と勉強の必要性を再確認するのでした。


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2002年8月24日(土) 意外な理由
 ハウスメイトほぼ全員を紹介するのに丁度良かったこともあり、友人に先日の私の誕生日パーティでの全員の集合写真を送ったのですが、それに対するコメントが秀逸だったので、ご紹介しましょう。
 写真をどうも有難う!! すごくいい写真だねぇ。皆楽しそうだし、鷹瀬もホント幸せそう。
 でもさー、一つ重大なことに気が付いたんだけど……。
 濃い〜いインド系の顔に囲まれても、鷹瀬が全然アッサリ系に見えないのは何故……。というか、「アッサリ」周囲に溶け込んでいるんですけど……。

 以前私がサイパンに遊びに行った時の話だけど、何かこう……現地のコンダクターの人達が妙に私に優しかったのさ。何かあると「***サン!」「***サン!」って話し掛けられて。その優しさが「ニホンジンの女だからうっしっしっ」ていう優しさじゃなくて、何となく親愛の情的な優しさだったんだよね……。一緒に行った純和風顔の友人や、他の日本人達にはかなりクールな扱いだっただけに、自分でちょっと気になってさ……。
 その話を帰ってから友達に話したら言われた言葉。
 「同系統の顔だから、親しみ持たれやすかったんじゃないの?」

 まぁそんな理由で親しみ持たれるワケでも無いと思うけど、ぱっと見て警戒心は抱かれないかもなぁ。動物行動学的にも、それぞれの固体は自分と共通項のある固体とつがいになりやすいんだそうな。
 鷹瀬良かったね、インド系の人たちがシェアメイトで♪

 ……………………いや、コレ核心突いているのカモ。「そんな理由で親しみ持たれ」ているのカモ……。
 私の顔は別にインド系というワケではありませんが、造作がハッキリしているということは確かで、ルシの目のデカさを見ていると、自分の目のデカさは日本人よりはルシ側に近い気がするのも確かなワケで……。

 こういうコト以外に「インド文化好き」「インド映画好き」「インドに興味がある」「インド料理を食べられる」「ヒンディ語で歌が唄える」ということも好意の要因になっているのかもしれません。精神的なものを超越して、何かこう……とても動物的に愛されていると言いましょうか……。
 でもまぁ南アフリカのキャルとも仲良くやっていますし、素直な好意にはやはり素直な好意が返って来るのだと思いますが。

 ま、楽しいし幸せだから理由は何でも構いませんけどね。


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2002年8月25日(日) 今更知るサラ効果
 サラがいなくなって早1週間……ムードメーカーだった彼がいなくなってから徐々にではありますが、我が家は精神的にも物理的にも私にとって少々居心地の悪いものになっています。居心地が悪いと言っても依然としてレベルが高い「愛すべき我が家」なのですが、「話し相手がいなくなった」「嫌いなナズが共有空間に居座るようになった」「キャルからのお呼びが頻繁に掛かるようになった」「台所や洗面所などの共有空間の汚れが目立つようになった」などが具体的な理由として挙げられます。……まぁ要するに、太字が95%の理由なのでしょうが。

 我が家の綺麗好きランキングは、サラとキャルが同率1位、1位に迫る勢いで私が2位、かなり差があってザックが3位、そして続く4位は……該当者ナシという状況です。
 アミットとルシに関しては、食べ物を恵んで貰っているから……というより恐らく私の個人的好意の問題で、気分はもう「愛すべき子供たち」がチャパティを作った後に粉を完全に拭き取らなかったり、食器の洗い方が甘かったりしても、「……ったく、仕方ないなぁ」という感じでせっせと後片付けをするのですが、ナズが汚した台所や洗いの足りない食器などを見ると純粋に「殺すぞっ!」とか思ってまーす(はぁと)
 でも人間ってそんなものですよね……。

 さて、台所の話から居間の話に移りますが……。
 今まで居間にはテレビがなく、ナズだけが自室にテレビを設置し、独りもしくは時々アミットやルシが加わって、とにかくナズの部屋内で楽しんでいたのですが、サラがいなくなって共有空間に居座るようになったナズは、テレビを居間に運び込み、他人の迷惑を顧みないほどの大音量で映画を観るようになりました。しかも見ている映画は私が貸してやっているDVD。奴だけが観ているなら速攻で「返して」と押し迫るのですが、アミットやルシも楽しんで観ているので奴からDVDを取り上げる訳にも行かず……。
 また、この家で煙草を吸うのも奴だけで、奴が居間や食卓に居座るようになってから時々煙草の灰が落ちており、一度引っ叩いてやりたい……という思いは健在です。ったく、どこまでもどこまでも……。

 そんな訳で、毎日確実に汚れてしまう台所を、朝、図書館に行く前に、皆が寝ている間に掃除するのが私の日課になりつつあります……。そんな我が家の写真集はこちら


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2002年8月26日(月) 千客万来
 本日、コークから日本人の友人、愛しのカオリが泊まりに来ました。以前コークで同じ学校に通っていた、若年寄の私に気質が似ている同じく若年寄の23歳。(詳細は2002年6月21日参照) これは1週間以上前から決まっていたことですが、偶然と言いましょうか、千客万来と言いましょうか、昼過ぎにいきなり電話があって、サラが本日初めてのオフ日ということで急遽我が家に遊びに来ることになりました。
 カオリが来るので夕食に日本食を作ろうかと思っていたので丁度良い。キャルはオフ日だし、サラが来る前に用意が出来そうです。
 問題は「何を作るか」ということですが、こちらで揃えられる食材で作る日本食、しかも「with 私の料理スキル」という厳しい制約が付けば、レパートリーは自ずと絞られてしまいます。自慢にはなりませんが、悩むほどのことでもありません。以前ナズに作って「I don't want to eat it.」とまで言われた(詳細は20日参照)曰く付きのメニュー再来です。これに昨日作ってまぁまぁイケたミニ親子丼を加えます。

 カオリと共に台所に立ったことで「何だ、料理出来ない奴なんてゴロゴロいるんじゃーん。私ってばそんなに酷くない方カモ」という心地良い安心感を得て(……だってなぁ……)、お互いに手際が悪いがゆえに存分に楽しんで食事の用意をします。
 久し振りに日本語でマシンガン・トークができ、嬉々として食事の用意をしていると、食卓で待っていたキャルから注意が飛びました。
キャル 「日本語を使うなら自分の部屋に行ってからにしなさい。共有の場所では英語を使いなさい。トーコ、あなたは英語を勉強しにここに来ているんでしょう?」
 こういう注意をして貰えると言うのは本当にありがたいことです。なかなかいません。我ながら良いフラットメイトに巡り会ったものです。

 そんなこんなを経て、手際の悪さ100%で1時間以上かけて作った(恐らく中途半端な)日本の味!


太巻きと鮭ちらしと卵焼き(とサラダ)
これに加え、撮り忘れたミニ親子丼

 サラとキャルはともかく、日本の味を知るカオリが「美味しい! 完璧っ!」と言って食べてくれたことが何よりも嬉しかった夕食会。そして同時に印象に残ったのはサラがキャルに言ったこんな一言です。
サラ 「Her decoration is always beautiful.」
 ………………どこの国にもポイントをずらしてでも誉めるべき点を探してくれる人格者っているんですね……。
 「はは……飾り付けだけかぁ……」とカオリと苦笑している私に、「いや、美味しいよっ! 美味しいけど特に飾り付けが綺麗だって言ってるんじゃないか!」とオチオチ思ったことも言えないサラ……。オフ日を利用してせっかく帰ってきたと言うのに、早速私に絡まれて可哀想に……。

 恐らく私の料理スキルゆえではなく彼らの優しさゆえに、当然と言うか何と言うか、キャルとサラから「美味しかった!」と大絶賛を頂きましたが、真相の分からない賛辞はさて置き、私もカオリも大満足した日本食の夕食となりました。
 しかしこの日以後、何かにつけてキャルが「トーコ、あの黒いヤツは……」と海苔を求めるようになったので、少なくとも海苔に関しては本当に彼女の口に合ったようです。

 ちなみにアイルランドで海苔を手に入れようと思うと、シティセンターにある健康食品店で17g(半畳?)5.2ユーロ(約620円)ほどで売っているのですが、余りにも高価なため手が出ません。海苔、椎茸、鰹節、煮干、味噌、酢、みりん、酒などが安く手に入ればもうちょっと色々な日本食が作れるのですが、まぁこればかりは仕方ないので、私の料理スキルに似合ったどことなくオカシイなんちゃって日本食を作り続けるのでした。

【追記】
 そうそう、印象的だった会話を記録として残しておきましょう。
 何かの話のついでに先日20日のナズの件に話が及び、その時に私が「私、ナズって嫌い」とサラに言うと、こんな返事が返ってきました。
サラ 「トーコ、どんな時でも、どんな相手でも、『嫌い』なんて思っちゃいけないよ。人生はとても短いんだから、人を嫌いになるなんて馬鹿馬鹿しいことだろ」
 たとえサラから言われたとしても、恐らく一生涯、私は人を大好きにもなりますし大嫌いにもなるのでしょうが、彼のこういう考え方は好きですし尊敬しています。「……何気に子供っぽいなぁ」と思う面も持ち合わせている彼ですが、痛烈に尊敬できる面を備えている人というのは貴重です。本当に、良い人と知り合えたものです。


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2002年8月27日(火) 同時期の不調
 サラのお母さんの調子が悪いそうで、昨日そのことを知ったサラが沈んでいます。キャルの妹が深刻な病気なようで、本日そのことを知ったキャルが沈んでいます。ザックのお母さんが本日手術だそうで、何だか皆沈んでいます。
 国を離れて何が一番心配かと言うと、やはり両親の健康でしょう。私の父は現在76歳、母は65歳……ただでさえ心配なお年頃なので、色々考えてしまった昼下がり。
 依然としてホームシックに掛かっていない私の目下の心配事は、関東大震災と両親の健康状態です。


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2002年8月28日(水) 「嫌いな奴」のワケ
 もう10年ほど前の話になりますが、友人がボソリと呟いた台詞が今でも鮮明に記憶に焼き付いています。
友人 「嫌いなヤツってのはさ、後からその理由を行動で示してくれるよね……」
 当時彼女のバイト先には「どうしても生理的に受け付けない」という同僚がいて、彼女は毎日のように彼を罵倒していたのですが、「初めて見た時からなんか嫌いだった」というその彼は、時を経れば経るほど「うわ、やっぱりコイツって嫌なヤツだ!」と思うようなことを度々仕出かし、もうどうあっても彼女が彼を好きになることは一生無いだろう……という段階にまで達した時、彼女は無表情でこの台詞をボソリと呟いたのであります。
友人 「直感ってのは案外信頼できるものだと思うよ。ぱっと見た瞬間に『あ、なんかコイツ嫌い』って思うってことは、何かこう表面上では確認できないワケがあって、それが後々明らかになって行くんだろうね……」
 とにかくこの台詞を聞いた時、何か治まりの良い格言を知ったような気になって私は色めき立ち、その後いちいちこの言葉に当てはまる状況を確認する度に「おお〜やっぱりか!」と感動したものです。

 さて、そんなワケで嫌いな奴=ナズが私に嫌われる理由ですが……。
 26(月)から本日の午前中まで「ナズの嫌いなサラ」が我が家に里帰り(?)していたお陰で、「私の嫌いなナズ」は友達の家に泊まりに行っていたらしいのですが、サラが帰ったことをどこで聞き付けたのか、入れ替わりのようなタイミングの良さで、今度はナズが友達を引き連れて夕方遅くに帰ってきました……。

 丁度洗濯の途中だった私は、それでもナズと同じ空間にいるのが嫌で、自室に戻って作業に取り掛かりますが、ナズと来たら部屋の扉を全開にしたまま大音量でDVDを見やがるし、その大音量のテレビをつけたまま台所で料理をして、引き連れてきた3人の友人たちと2階まで響き渡るほどの大声で喋っています。
 …………野郎……。
 奴の部屋は私の部屋の真正面のため音の公害をモロに浴びることになり、うるさくて作業に集中できやしません。耳栓をして音は遮断できるも怒りは治まらず、やっぱり集中できやしません。
 …………返す返すも、野郎……。

 気持ち的に音が云々という問題ではなくなったため、耳栓を外し、集中せずとも出来る作業に切り替え、逆にこうなると奴の立てる物音に注目して、早く出て行かないかとその時を待ちます。
 奴が自室の扉を開け放ったまま1階の台所に行く度に、その開け放たれた扉を閉める、ということを数回繰り返し、煮詰まった私が「この野郎、今度開けっ放しにしたら直接文句を言ってやるっ!」と効果的な台詞を吟味する段階に突入したと同時に、何をどう察知したのか、奴は友人たちと外に出て行ったのであります。勿論、テレビは付けっ放し、扉は開けっ放しで、です。
友人 「嫌いなヤツってのはさ、後からその理由を行動で示してくれるよね……」
 友人の台詞が頭の中で木霊し、うんうん、本当に……と頷きながら、もうとっくに洗い終わっているであろう洗濯物を引き取りに1階に降りて行くと……そこには見るも無残に汚された台所が残されていたのでありました。
友人 「嫌いなヤツってのはさ、後からその理由を行動で示してくれるよね……」
 うん……本当に、そうみたいよ。
 怒りを漲らせて台所を掃除していると、やはり怒りを漲らせたキャルが現れ、たった一言「Too much!」と吐き捨てて掃除に加わってくれたのであります。

 ナズさえいなくなればこの家もより快適なんだけどなー……。
 そんな私の思惑とは裏腹に、9月末に去ると思っていたルシが9月2日に去り、10月末にはアミットが帰国し、同時期にザックが3ヶ月間ほど実家に戻り……ナズだけはいつまでもいつまでもこの家にいるようです。悪い人ではないんですけどね、単に私が嫌いなだけで。ええ、本当に。


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2002年8月29日(木)〜9月2日(月) ゴルウェイ旅行記
 恐らくアイルランド一の観光地であり、伝統文化が色濃く残る街ゴルウェイに、この度3度目の訪問を果たしました。1度目は2001年9月に1日間だけ、2度目は今年の7月に3週間ほど、そして今回は日本から友人が遊びに来るのを切っ掛けに、5泊6日の旅行で訪れました。
 スケジュールは基本的にその日の気分で決めるつもりでしたが、取り敢えず宿を予約する関係上、アラン諸島イニュシュモア島を最初に観光することだけはあらかじめ決まっていました。イニュシュモア島――前回、嵐の中半ば強制的に観光した曰く付きの場所です。(詳細は2002年6月30日参照)

 アイルランドは今年、「いつもはこの時期もうちょっと天気が良いんだけどね……」とことある毎に言われるほど天気が悪く、今回の再訪も期待半分、諦め半分でしたが、今回の5泊6日の旅行はほぼ完璧と言って良いほどの天候に恵まれ、雨の多いアイルランドの1年の内たった1週間弱たまたま訪れた友人はめちゃめちゃラッキーだったと言えるでしょう。

 前回吹き荒ぶ雨風のため全貌がよく分からないまま観光を終えたイニュシュモア島最大の観光名所、古代遺跡ドン・エンガスを、今回は晴天の中観光し、他にも廃屋との違いが分からないまま観光を終えたアーキン城、余りメジャーでないドン・ドゥアエル、およびイニュシュモア島ほぼ全域を歩きのみでくまなく観て周ることができ、満足度の高い旅行の幕開けでした。(※注:後日改めて写真集をアップしますが、取り敢えずピックアップを掲載しておきます)


ドン・エンガス

アーキン城

ドン・ドゥアエル

恐らく墓

寝そべる牛

無風でもたなびく木

 曇りになっても雨にはならない、雨が降ってもすぐに止む、という微妙な天気を間に挟みつつ、それでも「……暑い」と感じるほど強い日差しを受けながら、イニュシュモア島観光1日半で歩いた距離はおおよそ20km。特に2日目の宿からドン・エンガスまで往復13km強の道のりは、雨が降っていたら断念していた行程でしょう。
 観光シーズンも終盤だからなのか、たまたま各観光場所を訪問した時間帯のせいなのか、全体的に人が少なく、イニュシュモア島の見渡す限りの広大な風景の中に友人と私の2人きりという状態を満喫でき、そういう意味でも贅沢な時間を持つことが出来ました。。

 さて、話の矛先を少々ずらしますが……。
 イニュシュモア島で1泊したB&Bは「パッと見キレイだけど、よく見るとホコリが……髪の毛が……。あ……ポットの中には虫が……」という典型的なアイリッシュB&Bでしたが、特記すべきは翌日から3連泊したゴルウェイ市街地のB&Bでしょう。
 1人当たり1泊27ユーロ(約3240円)のこのB&B、イニュシュモア島のB&B同様、少々手狭な室内に紅茶セットが用意されていて、紅茶好きの私には非常にありがたい心遣いなのですが、よくよく見ると剥き身で置かれたティーバックは薄っすらとホコリを被っており、当然ポット内も湯垢に塗れ……そして……そして……用意されていたペアのカップはトドメよろしく衝撃の汚さだったのであります。


紅茶セット

※拡大できます

 正気っ?!と度肝を抜かれるこの汚さ……。大体、左のカップの底にこびり付いた小さな黒い点々は何? 何かの卵っ?! と悲鳴を挙げながらカップを洗うも汚れは落ちず、もう最後は手段を選ばず、隣の部屋が空いていたので勝手に進入して同様に用意されていたカップと取り替えてしまいました。しかし当然と言うか何と言うか、替えたカップも相当な汚さでしたが、取り敢えず卵は産みつけられていないようだったので、良しとしました……。
 先月のドイツ旅行の際にもほぼ同額のB&Bに宿泊しましたが、民家でありながら髪の毛1本落ちていない清潔な清潔なドイツのB&Bに比べ、ああ、ここはアイルランドなんだなぁ……とすべての要素からしみじみ感じることができ、非常に楽しかったです。ええ、ハイ。

【追記】
 旅程3日目に参加したコネマラ・ツアーで日本人の男性と知り合い、少々話した時に感じたことを記録しておきましょう。
 彼は仕事でアイルランドに来ていて、仕事を終えて残りの日程で各地を観光しているらしいのですが、「アイルランドはいいよね、のどかで……」という話から、こんな話になりました。
鷹瀬 「って言うか、日本が忙しすぎるんですよ。こうしてここに来るのなんて、勤めていたらたった1週間が関の山、それ以上長く海外旅行をしようと思ったら、貴方みたいに特殊な仕事をしている人を除いて、普通は私みたいに会社を辞めて来るしかないし」
彼 「日本は余裕が無さ過ぎておかしいよね」
鷹瀬 「あ、珍しいですね。そういうこと言えるってのは。しかも男性で」
彼 「基本的に外国に来ているような人では、そう思っている人は多いんじゃないのかな」
鷹瀬 「ああ、まぁそうかもしれませんね。でも本当に、日本社会に属していると外を見るには会社を辞めて、一度そういうレールから外れると戻る場所がなくて……みたいな。生き方の幅が狭くて悲しいですよ」
彼 「まぁね。でも仕方ないよ、日本はそういう社会なんだから
 いつも思うのですが、「日本はオカシイよね」とここまで言う人は少ないながらも結構いるのです。彼も言っているように、海外で出会うような日本人は、こういう考えを持った人の割合がかなり高まるのは事実です。しかし問題は「日本はオカシイ」と感じている人でさえ、最後には必ずと言っていいほど「でも仕方ないよ」で事態を締め括るという、かなり根深い諦めの基本姿勢なのです。
「日本はオカシイよね。だから俺たちの世代でそれを変えて行かないとね
という意見までを言う人は、偶然知り合った人の中では今のところ見たことがありません。もちろん「日本はオカシイ」と感じている人すべてと話をした訳ではないので、いるところにはいるのかもしれませんが、それでも極々少数派であることは想像に難くない事実でしょう。
「はぁ? 『社会を変える』ってどうやって? 馬鹿じゃないの? 貴様は世間知らずなんだよ」
と何もしない内から人を見下す人はゴロゴロいるのですが、こういう人はお互い平行線ですからもうイイとして、「日本はオカシイ」と感じている人がその先を特に考えていないなら、そこから1歩進んで「じゃあどうやったら変えられるのかなぁ……」と消極的にでも考えるようになるといいなぁ、と願うのでした。
 考えるだけでは何も変わりませんが、考えなければ何も始まりませんから。


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2002年9月3日(火) 贈り物の意義
 実は今回のゴルウェイ旅行、どういう訳か本気で勘違いしていて、家の連中には「2日に帰る」と言っていたのですが、帰るのは本日3日でした。皆が心配するといけないと思い、昨日2日の夕方にキャルに「明日の夕方に帰るから」と携帯メールを送ると、キャルからこんなお返事が。丁度携帯メールの略文字などの書き方の紹介もしたかったので、誤字も含む原文そのままを記します。
キャル 「To-ko it's not fare i did cook dinner 4 u. and i'm still waiting 4 u. now i'm going 2 sleep i'm alone at home. ok so c u 2mrow.」
 今回一緒に旅行した友人は、過去にオーストラリアで中国人とシェアフラットをした経験があるのですが、「えー、ご飯作ってくれるの? いいな〜。私の時はそんなことあり得なかったよ」としきりに羨ましがっていました。ふふふ……いいだろう。大概のことに関して斜に構えた私ですが、この件に関しては素直に自慢できます。

 さて、こんなことがあったからではなく、最初からキャルとサラとアミット(の妻)にはささやかなお土産を買っていたのですが、「もっと豪華なものにしようかなぁ……」と迷いつつも時間がなく、ささやかなお土産をささやかなまま家に持ち帰ったのであります。

 家に帰るとお馴染みになった熱い熱い歓待。
キャル 「Oh, I missed you! Too much!!」
鷹瀬 「Thank you. I'm sorry for dinner, last night...」
キャル 「Doesn't matter! But To-ko, you know, I thought you would come back yesterday, so I did the whole house cleaning!」
鷹瀬 「Oh... I'm so sorry...」
キャル 「No! It's O.K.! And you know, Naz always said "Where is To-ko?  I miss To-ko!".」
 ……ナズはイイ。キャルとアミットだけでイイ。しかしアミットは(いつも)こんなモンです。
アミット 「Hey, To-ko! We missed you!」
鷹瀬 「A-ha, I don't believe you. But thanks anyway.」
アミット 「You know, To-ko. I just say politely. I never miss anybody. I miss only my fiance.」
鷹瀬 「I know, I know.」
アミット 「Ohhhh my darling! I miss my love!!」 (←自分で自分を抱き締めている)
 あー、ハイハイ。始まっちゃったよ。独りでやっててくれ。
 そうは思いますが、やはりそこはカワイイ弟のすることです。台所にアミットしかいなかったので、丁度良いとばかりにアミットへの、正確にはアミットの婚約者へのささやかな贈り物、「これで彼女に手紙を書いてね」とゴルウェイで一目惚れしたケルト文様のカードを渡します。
 お土産は全員に買ってきた訳ではないので、次にキャルの部屋に行って「大したコトないものなんだけど……」と小さなショット・グラスを渡すと、もうめちゃくちゃ喜んでくれまして……。本当にたかだか2ユーロ程度の小さな小さな贈り物なのですが、私の方こそ嬉しくなってしまう喜び様でした。
キャル 「ありがとう! もう絶対に誰にも触らせないわ! サラにだって触らせるもんですか! ああ、本当に何て言っていいのか……言葉が見付からないわ……」
 基本的に贈り物というのは小さくても、ささやかなものでも、高価でなくても、他人が自分のために何かを考え、時間を割いてくれるという点に意義があるのですが、そうは言っても(相手によっては)つい「なんだ安物じゃん」とか「欲しくないよ、こんなもの」とか思ってしまうこともある訳で、それはやはりトドノツマリ「贈り主を好きかどうか」に掛かっているような気がします。
 そんな訳で、キャルが喜んでくれること自体、非常に嬉しいのでした。

 1年ほど前の話になりますが、友人がフランスに行った際にお土産にクッキーを買って来てくれた事がありました。このクッキー、結構大きめの缶に入っていて、どう考えても旅行中……しかも海外旅行の際に持ち歩くにはかさばる厄介な代物だと思うです。しかし彼女が言うのです。
友人 「このクッキーね、フランスに行くと必ず食べるお気に入りのクッキーなんだ。どうしても鷹瀬に食べさせてあげたくてさー。鷹瀬が好きかどうか分からないけど、コーヒーに浸して食べると美味しいよ。でも結構長いこと持ち歩いたから、もしかしたら割れちゃってるかもしれない。粉々になってたらごめんね」
 感動しました……。
 このクッキーが美味しいかどうかなんてことはもう問題ではないのです。(美味しかったのですが) 粉々かどうかなんてことも問題ではないのです。(少々割れていた程度でしたが) 旅行中に、しかもただでさえ荷物のかさばる海外旅行中に、美味しいクッキーを食べた時にそれを私に「食べさせてあげたい」と思ってくれるその気持ちが、そしてかなり大きい缶に入ったクッキーを本当に私のために買ってしまうその気持ちが、もう素晴らしいプレゼントなのです。

 ですから、例えば花屋などで「2000円程度で見栄えの良いヤツを適当に」という注文の仕方をたまに見掛けると、「つっまんない贈り物だなぁ……」と虚しくなってしまうのでした。「何かを贈る」という行為は、本来は贈る側も贈られる側も楽しめる行為な筈ですから。
 ま、私も旅行などで会社に「何かお土産を買って帰らなければならない」というムナシイ事態に陥る度に、「数が多くて見栄えが良くて、高そうに見えるものないかなー」という感じで探していましたが。
 逆に言うと、自分のお土産の選び方で、自分がその相手をどう思っているのか客観的に知ることが出来るのかもしれません。


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2002年9月4日(水) アイリッシュとパブ
 本日は深刻なことがありまして家中大変だったのですが、それは書けないことなので置いておいて。

 本日お馴染みになったキャルの妹(従妹?)2人が我が家にやって参りまして、その際の話が非常に面白かったので記録しておきます。
妹A 「もうアイリッシュってば馬鹿で嫌になっちゃうわ。今日××っていう住所を探していて、丁度家から出てきた地元民に聞いたんだけど、『分からない』って言うのよ。散々探し回って辿り着いた場所は、さっき私がその地元民に聞いた場所のすぐ裏手よ。自分の家のすぐ近くの住所も知らないなんて、どうかしてるわよ!」
妹B 「以前もそこの薬局で店のマネージャーに『××って薬はありますか?』って聞いたら『そんな薬は聞いたことがない』って言うのよ。そしたらたまたまそこに居合わせたお客さんが、『これでしょう』って教えてくれて……。マネージャーが店に置いてある商品を把握していないなんて、信じられる?」
妹A 「そうそう、それにアイリッシュって、店の場所とか聞くと絶対にパブの名前で答えるのよね。例えばこうよ。『××という店はどこにありますか?』って聞くじゃない? そうすると、『Barry's の3軒隣だよ』って。『Barry's』って言うのは小さなパブなの。『William Street にある』とか道の名前で教えてくれたらすぐに分かるのに、パブの名前なんか知らないわよ!」
妹B 「私もそういうコトあったわ。私が探していた店の真正面に遠くからでも見える大きな教会があったのに、彼らってばその教会のことは全く言わずに『××パブの隣』って教えてくれて……。行ってみたら看板もハッキリしないような小さなパブよ」
妹A 「彼らは道の名前なんか知らないのよ。外国人の方がよほど道の名前に詳しいくらいだし。アイリッシュは場所とか全部パブを基点に考えているのよね」
妹B 「アイリッシュの待ち合わせって、絶対に『××パブの前で』って感じだもんね」
妹A 「アイツら飲み過ぎなのよ。ホント、馬鹿で嫌になるわ」
 本当にこの国の人はパブを生活の基盤にしている節があります。それが良いか悪いかはさて置き、アイリッシュにとってのパブほど生活に深く結びついた何かを日本人は持っているかなぁ……と色々考えてみるのですが、なかなかこれと言ったものが思い浮かびません。それだけ生活が多様化しているということなのでしょう。


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2002年9月5日(木) 尿素でチャレンジ
 先日のゴルウェイ旅行で3連泊した少々不潔なB&B(詳細はこちら……実は泊まっている最中に手や首筋にみるみると増えた赤い痒点のことは敢えて書きませんでした……。でもね、家に帰っても引き続き延々と痒いとね……もうこれは記録しておくほどの出来事だろうと考え直したのであります。
 現在これを書いているのは9月8日(日)ですが、痒みは大分治まったものの、何かの切っ掛けで患部に触ってしまうと依然として痒みがぶり返します。B&Bのせいと決まった訳ではありませんが……でもやっぱりタイミングから言って……ええい、不潔なB&Bめ!

 右手の甲に4ヶ所、右手首に2ヶ所、左手の甲に3ヶ所、鎖骨から肩から首筋にかけて12ヶ所、頬に2ヶ所――現在私の身体には合計23ヶ所の赤い痒点が確認できています……。
 刺されている大半の場所は2ヶ所ずつセットで刺されており、以前友人から聞いた話がフラッシュバックします。
「ダニって1回刺してしばらく歩いてからまた刺すんだって。だから、ちょっと離れている場所を2ヶ所刺されている場合、ダニの可能性が高いんだよ」
 ……うわ〜……これって完璧ダニの刺し方じゃん……。

   
(左から) 右手の甲、右手首、左手の甲
それぞれ2ヶ所ずつ刺されている図

 とにかく痒いのなんのって痒い! しかし当然ここにはキンカンのような虫刺されの薬などなく、今回のためだけに高い薬を買うのも勿体無い……。しかし痒い。
 今でこそ痒みは治まっていますが、3〜5日辺りは痒くて痒くて、痒みのために目が覚めたほどでした。

 そしてこの日、5日の朝……ベッドの中で、患部をぎゅうぎゅうと押しながら(いや、掻くと良くないと思って……)、以前本で読んだこんな話を思い出しました。記憶が曖昧なため、詳細は違っているかもしれません。取り敢えず、参考文献は「インドな日々」(著者:流水りんこ、発行:朝日ソノラマ)です。
 インドのユースホステルで南京虫に足中刺されて酷い目に遭った男性が、何をどうしても腫れと痒みが引かず、かなり長い間苦しんでいたが、地元の知恵者に「朝一番のオシッコをかけると良い」と聞き、早速試してみたところ、腫れと痒みは徐々に引いて行き、今では完治に向かっている。
 以来、その男性はオシッコの威力に感動し、健康のために朝一番のオシッコを飲むようになった。

 ……………………確か蜂に刺された時も、尿が効果的だと聞いたことがあります。
 ここには日本が誇る偉大な虫刺され特効薬キンカンがない。今回のためだけに虫刺されの薬を購入するのもお金の無駄遣いなので嫌。でも毎朝トイレには行く。しかも尿はタダ。
 ――私の取るべき道はひとつ、って気がしても仕方ないですよねぇ?

 既にトイレに行きたい気配が濃厚だった私は、ベッドの中でひたすら考えました。
 「インドな日々」で紹介されている彼のケースは刺された場所が足、しかも男性。恐らく「オシッコをかけると良い」と言うからには「かけた」のでしょう。でも私の場合は手だけではなく首筋やら頬やら……「かける」のは少々難しそうです。ってことは、まず尿を一時的に集めるコップのようなものが必要になります。紙コップなんて洒落たものはこの家にありません。食器のカップを使うのは余りにもデンジャラスです。ビニール袋では収集が難しいでしょう。何か良いものは……何か……。
 そうだ、洗顔石鹸のケースの蓋が丁度良いコップ代わりになるんじゃなかろうか。患部ごとにちょっと塗る程度なので、小さくてもOK、OK!
 そーと決まれば善は急げ! 早速尿素でレッツ・トライ!

 ……え? コレって「善」なの? などと今でこそ冷静に思いますが、この時はもう痒みに負けて判断力も鈍っていたのかもしれませんし、もしかしたら冴え渡っていたのかもしれません。どちらでも構いませんが、真実はいつだってひとつです。
 ええ、ええ。何も悪いコトなんかしちゃあいない、隠し立てなんてしませんよ。
 私はトイレに直行し、3分ほど思い切り悪く便座に腰をかけた状態で悩んでから意を決し、ほんの少量の尿を採取して、やはり思い切り悪く臭いを確認したり躊躇ったりして洗面所の鏡の前で2分ほど悩んでから再び意を決し、1分ほどかけて全患部23ヶ所に塗ってみましたよ、朝一番の尿を。
 効いているからなのか、単に患部を掻き過ぎたからなのか、染みたね、朝一番の尿は。
 どう頑張ってもキンカンほどの清涼感はなかったけれど、何かこう……皮膚に染み入る感じがひしひしとしたね、朝一番の尿だけに。


 尿が汚いなんて思い込みだよ、思い込み。そもそもよく考えれば尿って血液のなれの果てじゃん! 血も確かに「穢れ」とか評されちゃうことがあるけど、血に対するイメージって「穢れ」とか「不浄」とか、悪印象であるにも関わらずどこかハイソなのに対して、どうして尿は「汚ぇ」とか「ばっちい」とか滑稽なイメージしかないのさっ!
 アタシャ尿を援護するよ。ああ、援護するさ。アタシャ尿の応援団さ。応援団長になったって構わないさ。尿を作り出す腎臓の働きを舐めるなよ! 尿を溜めておく膀胱の苦労を分かってやれよっ! 血ィ啜ったって若返りはしないけどな、尿塗ると痒みは引くんだぞっっ!!

 ――と、いうコトで、完全にではありませんが「尿素でチャレンジ」を2日ほど続けた結果(……かどうかは不明ですが)、痒みは徐々に引いていったのであります。
 めでたし、めでたし!

【追記】
 それでも私の名誉のために……。
 ワタクシ、尿の応援団長になっても構わないと申し上げましたが、それでも尿を飲むには至っておりませんので……。2日間ほど熱烈に付き合ったけれど、やっぱり私たち良い友達よね、みたいな。恋愛と結婚は別よ、みたいな。
 すまん……この期に及んで裏切って……。


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2002年9月6日(金) 冬の到来
 ここ2〜3日、朝夕共に急激に冷え込み、また着実に日が短くなってきていて、このまま一気に冬に突入するような気配が漂っております。完全な冬になれば16時には陽が沈み、朝は8時頃まで薄暗く、もちろん雨もしとしと降り……という日々が続くようなので、未だ「冬」というには早すぎるのですが、それでもさすがに半袖は無理でしょう……という空気に変わりつつあります。
 冬になれば私の広すぎる部屋は暖房効率が悪そうで、冷え込みも一層激しいものになるんだろうな……という危惧を抱きながら、冬の到来に備えるのでした。


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2002年9月7日(土) コリアン・フレンド
 先月中旬に近所の大学の図書館で知り合った韓国人の女の子と、偶然が重なって仲良くしています。結構ちゃんとした友達になりそうな予感がして、非常に嬉しい限りです。最初会った時に私の親しい友人に顔が似ているな……と思ったのですが、似ているのは顔と言うよりも顔つき表情を含む雰囲気で、話してみると話し方や声のトーンまで似ており、ますます「これも何かの縁なのかも……」と思うに至っています。
 彼女は1年前にアイリッシュと結婚し、こちらに住みついている同い年で、語学学校ではなく普通の学校に通っている大学生です。

 彼女とは本日までに大学構内のカフェで2度ほどランチを一緒にしていますが、一緒にどこかに行ったり……という間柄ではありませんでした。しかし本日、朝シティセンターに行くバスで偶然一緒になり、シティセンターで別れ、今度は帰りに大学方面に戻るバスで一緒になったことから「凄い偶然だねぇ。ついでにウチでお茶でも飲んで行く?」と家に誘われ、その誘いに乗ることになりました。

 彼女もシェアフラットをしているので、家を見せて貰うのは参考にもなります。彼女の家は3部屋、4人で住んでおり、「アイリッシュと住むのは嫌だ」というアイリッシュ2人と中国人と彼女で住んでいるだけあって、非常に綺麗でした。しかしそれでもウチの方がかなり広くて綺麗、しかも安いとあって改めて我が家の良さを再確認します。再確認しますが、13時から18時まで、5時間喋って喋って喋り倒した会話の中から、こんな事実に気付かされた訳で……。
鷹瀬 「凄く綺麗に生活してるねー。こんなに綺麗なウチって珍しいんじゃない? でもね、ウチも綺麗なんだよ! 台所もウチの方が広いな。まぁウチは部屋数も人数も多いからかもね」
彼女 「へぇ、何部屋の家なの? 何人(なにじん)と何人(なんにん)で住んでるの?」
鷹瀬 「大きな4部屋+小さな1部屋の5部屋で、バングラディッシュ男2人、インド男1人、南アフリカ女1人と私が基本メンバーだけど、ついこの前までこれに加えて彼らが呼んだ友達のインド男2人が1ヶ月間ほど住み着いてたなぁ……」
彼女 「ええっ?! 1ヶ月?! じゃあ1ヶ月間7人で住んでたの?! それはちょっと多過ぎない……? あ、でも今はもうその2人の友達は帰ったのね?」
鷹瀬 「うん。でもね、今月中旬から南アフリカの女性の旦那と娘が来るらしいよ」
彼女 「ええっ?! 『旦那』はまぁ分かるけど……『娘』って?! どこに住むの?」
鷹瀬 「彼女の部屋に。だから1部屋に3人で住むことになるんだろうね。いやぁ私もこの事実はつい最近知ってビックリしてるんだけどさぁ……こういうのってよくあることなのかなぁ」
彼女 「1部屋にカップルが住む、ってのはよくあるけど、1部屋に家族が住むなんてのはありえないよ!
鷹瀬 「……あ、やっぱ『ありえない』コトなんだ……。人数が多くなるのはまぁ楽しくて良いんだけど、5歳の子供と一緒に住むってのはちょっと嫌だなぁ……って」
彼女 「5歳なの?! それ、子供のためにも良くないんじゃ……。家族で住むなら1軒家を借りるべきだよ」
鷹瀬 「あ、やっぱそう思う? そうかー……いや、他のフラットを知らないもんだから、『家族で住むってのもアリなのかな?』って思ってたんだけど……。それと今気になってるのは、光熱費をどうやって割るつもりなのかな、ってこと。部屋数は5だけど、人数は最大7でしょ? 皆は友達呼んだり家族を呼んだり、2人以上で住んでいるけど、私は友達を呼んだってたかだか1泊だし、それで5で割られたら私だけが損することになっちゃうし……。でも他の人は全員そういうことしているから、私以外に文句を言う人がいないんだよね……」
彼女 「でもそれは言うべきだよ。部屋代はともかく、光熱費は人数割りが普通だって。私も色々あって友人の家に1週間泊まらせてもらったことがあったけど、その時はちゃんと1週間分の宿代と光熱費を払ったよ。それが当たり前だよ。その南アフリカの人が家族を呼ぶ前にきちんとしておいた方がいいよ。大家さんに相談したら?」
鷹瀬 「あ、家を借りている代表者が自ら友達を1ヶ月泊めてるから
彼女 「……じゃあ文句を言うのは本当にトーコだけなんだ?」
鷹瀬 「ま、ね」
彼女 「ええ〜でも言った方がいいよ。そんなのフェアじゃないし、人数割りは常識でしょう」
鷹瀬 「あ……やっぱ『常識』なんだ。まぁね……言った方がいいのは分かっているんだけど、なかなか言い難くて……」
彼女 「気持ちは分かるけど……って言うか、なんで他に移らないの?」
鷹瀬 「いや、その他の面では完璧なんだよ。何だかんだ言って他より安いし。光熱費を部屋割りされても多分他より安いんだよね。ここは1部屋月360って言ってたじゃない? 私の部屋は月235なんだもん。皆綺麗好きだし、勝手なところもあるんだけどフレンドリーで親切なんだよ、色んな面で。結局、私、彼らが好きなんだよね。付き合いも密でさ、大家族ってのも今のところは気に入ってるし」
彼女 「私、日本人の友達、結構いるから国民性とか知っているつもりだけど、普通の日本人ってプライバシーを気にするって言うか、1人になりたがらない? トーコ、ちょっと変わってるって言われない?」
鷹瀬 「……時々ね。でも私も1人になるの好きだよ。ただそれとは別に、彼らと濃密に付き合うのも好きなだけで。子供が加わったら分からないけど」
彼女 「そっか……でも光熱費の件はハッキリさせた方が良いよ。特に、彼女の家族が来る前にね」
 ………………そうか……1部屋に家族が住むなんてのはありえないコトで、光熱費の人数割りも常識なんだ……。いやぁ、知らなければ済んだことかもしれませんが、知ってしまうとかなり不公平感が襲うものですね……。アダムとイブもね……幸せに能天気に生きてたのに、下手に知恵の実食べちゃったせいで色々苦労をしょいこんだっけね……。
 キャルの娘が加わる件はともかく、光熱費の人数割りはやっぱハッキリさせた方がいいよね……。まぁそうだろうね。分かっちゃいるんだけどね……なかなかどうして言い難いものは言い難いのです。

 彼女の家の居間で5時間喋り倒している間に加わった同居人のアイリッシュ男性と彼女とのキッチリした公平な遣り取りから、「ウチってやっぱり変わってるのかも……」という事実を改めて再確認しました。良い所もあるのですが、勿論悪いトコロも多分に含まれている訳で、「引越しかぁ……」という漠然とした選択肢を心に抱きつつ、しかし彼の言ったこんな一言で正気に戻ります。
彼 「どこのフラットも問題は付き物だよ。僕が前に住んでいたフラットはアイリッシュだけで4人で住んでいたんだけど、朝買ったばかりの牛乳が、夜帰ってきたら無くなっていた……なんてのも日常茶飯事だったからねぇ。その時は小さな冷蔵庫を買って、自分の食べ物は自室管理していたくらいだし。勿論トイレットペーパーもね」
 冷蔵庫を買って食べ物の自室管理ってのは嫌だなぁ……。取り敢えずそういうことはない我がフラット……やはり良い点が多いと思う訳で……。揺れる乙女心……。
 今のフラットが我慢できないほど嫌、というのであれば、次のフラットを探そうという気にもなるのですが、そんなことはまるでなく、ただ「光熱費の部屋割り」と「5歳の子供が加わる」(と「ナズの存在」)という点だけが(今のところの)問題なので、まず初めに光熱費問題をクリアにする必要がありそうです。

 今のフラットに住んでからというもの、丁度夏休み期間のため学校に通っておらず、丸々1ヶ月間以上フラットメイトとしか話していなかったので常識が分からなくなっていたのですが、本日彼女と話したことで当初私が抱いていた疑問が鮮明に思い出されました。やはりウチは特殊なケースなのでしょうから、時々外部の人と話して意識を清浄化した方が良さそうです。そういう意味でも、彼女と話せて良かったと思うのでした。

 彼女とのお喋りを存分に楽しんでから寄り道をして、家に着いたのは21時でした。こんなに遅くに帰ったのは久し振りです。するとどうでしょう……キャルはキャルでご飯を食べずに待っているし、食料を置いておく戸棚を開けるとアミットからのプリ(チャパティの膨らんだもの)の差し入れが置いてあるし……。やっぱりこの家、何か暖かいんですわ……。

 そんな訳で、光熱費問題に関しては今日もハッキリさせることができないのでした。


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2002年9月8日(日) 空間の癒し効果
 現在夏休み中ということもあり、近所の大学の図書館や自習室などに行くと、「前後左右見渡す限り誰もない」という状況を満喫できる機会が多々あります。これは大学構内だけの話ではなく、家からショッピングセンターまでの道のりも同様で、7時前の朝早くや21時過ぎの夜遅くになると、延々と続く道に人っ子ひとりいない、というのはほぼ日常です。
 私は東京生まれ東京育ちのため、たとえどんなに早朝でも、どんなに夜遅くでも、「見渡す限り誰もいない」という状況に出会うことは非常に稀でした。そもそもビルが建ち並び、家がひしめき合っている大都会では「見渡す限り」という状況すら覚束ないのが現状で、それが当たり前で生きて来たのですが、現在のこの「広大なスペースに私だけ」という状況を日常生活レベルで満喫している今となっては、再びあの窮屈な空間に戻ることができるのかと少々心配しています。

 都会の空気が殺伐としているのは、生活そのものが忙しいということに加え、恐らく1人当たりに与えられている空間が正常な意識を保てないほどに狭いからではないかと思います。動物実験などでも同じ大きさの空間に、片方はラットを10匹、もう片方は20匹入れて様子を見ると、20匹入れたケージではラット同士が傷付け合ったり破壊行動に走るというのは有名な話です。
 私のように生まれた時から窮屈な空間にいると、自分では何が悪いのか分からないうちに相当のストレスを溜め込んでいるのかもしれません

 空間には癒しの効果がある――そのことをしみじみと体感する日々です。


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2002年9月9日(月) 久し振りの学校
 本日から3週間、シティセンターにある「アイルランド一安い語学学校」に通います。
 約8週間ぶりの学校で、最初はついて行くのが大変かもなぁ……と思っていましたが、覚悟していたほどのギャップはなく、すんなりと初日を終えることができました。ただ、ハウスメイトと友達以上の付き合いをしているせいか、初めて語学学校に通った時のように「馴染まなくちゃ! 友達を作らなくちゃ!」という気概がなく、授業を受けるためだけに学校に行っている感じです。英語を習っている者同士、同程度の語学力で会話をするよりも、家で英語力に問題のないキャルやアミットと話している方が余程勉強になるからです。
 以前はサラだけが私の英語を直してくれていたのですが、サラがいなくなってからはアミットが間違った言い回しを直してくれるようになり、しかもお喋りが大好きなので、改めてこの家の環境が非常に勉強になっていることを知りました。

 さて、話は逸れますが、本日家に帰りキャルと2人で夕食を食べていると、ナズの友人2人がやって来て、2階の彼の部屋で1階まで響き渡るほどの大音量でビデオを観やがり、非常に不愉快な思いをしました。ナズに対して苛立ちを感じているのは私だけでなく、キャルもしかりなのですが、つい10日ほど前の28(水)のドンチャン騒ぎに引き続き本日のドンチャン騒ぎで、少なくとも私は本当に切れそうになっております……。
 そして話は戻るのです。

 このドンチャン騒ぎの際にキャルが吐き捨てるように「No way!」と言い、それが私を喜ばせます。この「No way.」というフレーズは色々な場面でよく聞き、大体の意味は想像できていたのですが、改めて辞書で調べたところほぼ想像通りでした。
no way
≪主に米略式≫
(1) [依頼の返答として;間投詞的に]
   とんでもない冗談じゃない ≪no の強意表現≫
(2) どんなことがあっても…ない

 他にもウチでよく聞くフレーズとしては「Fuck off!」「O.K. love.」「Not really.」「Go home sleep!」「Fucking buster.」「Not so bad.」などがあり、中にはスラングもありますが、ごく自然に使ってみたい……という憧れのフレーズ陣でもあります。「Not so bad.」「Not really.」「Go home sleep!」などは現在では極々自然に口を突いて出る言葉になっていますが、やはり「Fuck off!」「Fucking buster.」などは使うに当たって勢いが必要で、なかなかタイミングが難しいのであります。
 「No way!」に関しては、キャルが使った直後に「その『No way!』ってつい最近、正確な意味を知ってさー。1度使ってみたかったんだよねー」と言って使う機会を人為的に作ってもらって訓練して以来、よく使うようになりましたが、「Fuck off!」などは使おうとするとアミットから「それは覚えなくていいから」と注意されてしまい、未だに使う機会が得られません……。

 ナズへの不満から発展したこのフレーズ論議をキャルとしている間にナズは友人達と共に家を去り、その直後に2階の部屋にいたアミットが台所にやって来ます。アミットはナズと普通に付き合っており、恐らく私がナズを大嫌いなことも知っていますがそれを静観している状態を保っています。
鷹瀬 「アミット、今までの上でのドンチャン騒ぎに加わってた?」
アミット 「まさか。ずっと部屋で手紙を書いていたよ」
キャル 「今までトーコとナズが煩すぎるって話してたのよ。『No way!』って」
アミット 「ああ……まぁちょっと煩かったよね」
鷹瀬 「『ちょっと』じゃないよ。かなり煩かったし、他にも人がいるのにあんなに大きな音立てるなんて非常識だよ」
アミット 「確かにトーコの言ってることは正しいけど、僕が前に住んでたフラットのアイリッシュなんてもっと酷かったよ。毎晩のように酒を飲んでドンチャン騒ぎで」
鷹瀬 「それに比べたら今の方がマシ?」
アミット 「全然マシ」
鷹瀬 「……But that is that. This is this.」
 「それとこれは別問題でしょ」と言いたかったのですが、上手く言えず、「ソレはソレ、コレはコレ」を直訳して言ってみたのですが……これがなかなかどうして受けまして。
アミット 「That's right! You have a nice sense of words!」
キャル 「Exactly! You know a good phrase.」
 表現というのは直訳でも結構伝わるものだなぁ……とちょっと感動したヒトコマでした。
 そして同時に「良い環境にいるなぁ……」と思いました。まぁ来月末にアミットが帰ってしまったら、ナズに対する不満と、キャルの娘の問題だけが残るのですが……。恐い恐い。

【おまけ】
 よく使うフレーズ、口癖から分かる個性がある……ってことで、取り敢えず紹介。

同居人口癖紹介
名前 口癖 解説
ザック  特になし 特にコレといった口癖はない……というか、余り喋っていないだけかも。
アミット  Take it easy.
 Doesn't matter.
 It's up to you.
「気楽に行こうぜ〜」の典型かと……。性格がよく表れています。
ナズ  Why?
 You eat!
トドノツマリ、英語が不自由らしい。ほとんどヒンドゥ語で会話しているので、口癖は分からず。しかし英語を話す時は叫ぶように単語を言うので非常に癇に障る……。
キャル  Serious!?
 Jesus!
 No way!
 Fuck off!
 Go home sleep!
 It's not fair.
感嘆(間投)詞系が多い。Bossy(親分肌)な用語が多いかも。
鷹瀬  Is it correct?
 How can I say?
 Is this O.K.?
アミットから指摘された私の口癖集……。いつもいつも「この言い方でいいの?」「これでいいの?」と聞いているらしい。
 同居人紹介はこちら



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2002年9月10日(火) ゴタゴタの予感
 10月中旬にザックが今年度末まで一時帰国し、10月末にアミットが永遠に帰国し……2人が去った後、2つの部屋に次に入る入居者についてですが……。
 次の入居者が決まらなければこの家を3人だけで引き続き借りるのは不可能で、ザックから「トーコの友達で誰か日本人を探してくれ」と言われていますが、私は出来れば日本人と住みたくはありません。仲の良し悪しなど全く関係なく、単に日本人と住んでしまったら日常生活で絶対に日本語を使ってしまうと思うからです。せっかく全く日本語を使わない生活を送っているのに、自らこの環境をぶち壊すのは勿体無い。
 しかしそうは言っても次の入居者が決まらなくては私の滞在も危うい訳で、丁度語学学校が昨日から始まったことで、部屋を探している学生に11月からの入居を打診してみますが、「それまで待てない」「シティセンターから遠すぎる」ということに加え、「子供がいるなら嫌」という厳しい現実も見えてきます。

 そして本日、上記のこととは別にずっと引き摺っている光熱費問題と、入居者が決まらない場合の家賃の変動について事態をクリアにすべく、ザックが1人でいるときに話し掛けます。
鷹瀬 「ザック、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……、もし次の入居者が見付からなかったら家賃って値上がりするの?」
ザック 「この家は月1100で借りてるから、それを人数割りにすることになるよ」
鷹瀬 「でも今日学校で、『普通は出て行く人が次の入居者を見付けて来て、その他の入居者の家賃は変わらない』って聞いたんだけど……。もし今の家賃から値上がりするようなら、私も別のフラットを探さなくちゃならないから」
ザック 「……トーコの友達で誰か部屋を探している人はいないの?」
鷹瀬 「皆、『子供がいるなら嫌』だって」
ザック 「子供? 子供って何の話?」
鷹瀬 「もうすぐキャルの旦那さんと子供が加わるじゃない?」
ザック 「キャルの子供は南アフリカにいるんだろ? 旦那が来るってのは聞いているけど、子供が来るなんて聞いてないよ。子供なんか来ないよ」
鷹瀬 「聞いてない、って……私はそう聞いているよ。ザックはちゃんと確かめたの?」
ザック 「キャルは『夫が来る』とは言ったけど、『子供が来る』なんて言ってないよ」
 だからそれは本当に「聞いてない」ってだけの話なんじゃ……。ってか、じゃあ聞けよ、今。だから「確かめたのか」って聞いてるんだろーが。
ザック 「きっと『子供を連れてきたいわ』って言ったのをトーコが勘違いしたんだよ」
鷹瀬 「そうは思わないけど……。あと、光熱費の問題なんだけど、光熱費は何で割るつもり? 部屋数? 人数?」
ザック 「……勿論、人数割りするよ」
鷹瀬 「そう。でも、じゃあ、先月分のサラとルシの分は誰が払うの?」
ザック 「……」
鷹瀬 「ザックがサラの分を払って、アミットがルシの分を払うの? 8月は7で割るのね?」
ザック 「Don't worry.」
 この「Don't worry.」という微妙な返答が引っ掛かりますが、取り敢えず「光熱費は人数割り」ということは確実なようです。過ぎてしまった過去はもしかするとどうすることも出来ないのかもしれませんが、キャルの旦那が加わる前に事態をクリアに出来て良かった……。

 こうして事態は3分の1ほど解決しましたが、依然として「次の入居者」と「キャルの娘」という問題は解決していません。
 ザックは「聞いていない」「大丈夫」を繰り返しますが、では子供が来たらどうするつもりなのでしょう……。ってか、確実に来ると思うんですけど、すべて私のヒアリング・ミスなんですか?
 だってキャルってば私がチョコレートをあげた時に、「チョコは嫌いなんだけど、娘が来た時のために取って置いてるのよ。彼女はチョコが大好きだから」って言って戸棚にしまったんですよ? 「娘さんが来たらどこに寝るの?」と聞いた私に、「私の部屋の床に寝るわ」って言ったんですよ? つい1週間ほど前、「近くの保育園に空きが出たのよ! グッド・タイミングだわ!」ってめちゃめちゃ喜んでいたんですよ? 現在台所の片隅に置いてある汚いテニスボールを私が捨てようとしたら「それは私の娘の遊び道具にするから捨てないで」って言ったんですよ……?
 ――これって全部ヒアリング・ミスなんですか?

 丁度夜サラから電話があり、その際に「ねぇねぇ、キャルって旦那さんと娘さんをこの家に呼ぶって言ってたよねぇ?」と確認すると、力強く「言ってたけど、それが?」と言われてしまいました……。ほら見ろ、やっぱり来るんじゃないか〜。
 家の元締めであるザックがこの事実を知らないとなると……ああ、何だかゴタゴタの予感……。


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2002年9月11日(水) やはりゴタゴタの予感
 家に帰る途中でザックに会い、昨日の確信を元に再びザックに迫ります。
鷹瀬 「やっぱりキャルの娘さん、来るってよ」
ザック 「え……? でもじゃあ誰が面倒見るんだよ。キャルも旦那も働いてるんだし」
鷹瀬 「だから先週、キャル、『近くの保育園に空きが出た』って喜んでたよ。平日は朝9時くらいから夕方4時頃まで、そこに子供を預けるんだって。でも当然他の時間は家にいることになるんだろうけど……。私達はもうキャルを知ってるから良いけど、新しく入る入居者が、最初から5歳の子供がいるっていう家を選ぶのは難しいと思うよ。万が一、私も家が煩くなるようだったら次のフラットを探さなきゃならなくなるし……」
ザック 「トーコが出て行く必要はないよ。大体、キャルの旦那が来るって知ったのもつい1ヶ月前なんだ! 子供が来るなんて、常識じゃ考えられないだろ! カップルならいいよ、でも子供なんて……」
 うわ〜……泥沼……。何だか、もしかしたら私、11月には別のフラットに引っ越す羽目に陥るかもしれません……。まぁアミットが去ってしまったら今のフラットも魅力が半減するので引越ししても良いのですが、物理的に面倒という感は否めません。
ザック 「トーコからキャルに言えよ。『子供がいるから次の入居者を探せない』って」
 それはアンタの義務でしょーが……。全く……。

 クッタリして家に帰ると、台所にナズが1人、キャルは部屋にいるのでしょうか、とても静かです。ナズとは話すことなど何もない私は彼が夕食を作り終えるのを自室で待ち、彼が2階に上ってくる音を確認して入れ替わりで台所に向かいます。すると、キャルも同様のタイミングで台所に現れました。
キャル 「……今日、職場でナズと遣り合ったのよ。あの馬鹿、まるで子供よっ!」
 キャルの怒りは治まっていないようで、怒涛の勢いで本日あったことを報告されたのですが、早口でほとんど聞き取れませんでした……。辛うじてキャルが最後に吐き捨てた言葉だけキャッチすることが出来たのですが……。
キャル 「彼と一緒に住むなんて、もう嫌っ! これ以上、我慢できないわ! 夫が来たら即、次の家を探すわっ!」
 う〜わ〜……もう本当にあっちゃこっちゃで泥沼……。
 1ヶ月後、私はどこで生活しているんでしょうね……。トホホ……。


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2002年9月12日(木) 太ったカモ
 体重計がないので分からないけれど、確実に太った気がします。自炊生活になり、食べたい物を作ることに加え、つい多めに1人分を作ってしまうことから、我ながらよく食べているのです。
 また、もしかしたらストレスを感じているのでしょうか? 単にシンプルライフを送っているからでしょうか? 夕食をパクパク食べた後に追い討ちをかけるように甘いものを思う存分食べています……。

 アイルランドに持ってきたズボンは4本、どれもウエストに余裕があるものばかりだったので気付きませんでしたが、先日家から送ってもらったジーンズを履いて「う……キツ……」と思った時点で、現在のこの奔放な食生活を振り返るのでした。


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2002年9月13日(金) 器用なインド人
 たまたまなのかもしれませんが、サラと言いアミットと言い、インド人はかなり器用です。私だけがそう思っているのではなく、キャルも「Indian are very talented people.」と評し、感心しています。
 アミットは姉妹がいないことも手伝って平均レベル以上に料理が上手なのですが、ほぼ毎日違うものを作っていて、またそれがどれもこれも美味しいのです。(……どれもこれも試食させてもらっているのですが……。しかし代わりと言っては何ですが、毎回私が食器の後片付けをしています。えっへん!)

粉、玉ねぎ、チリ、スパイス、水を混ぜ合わせて生地を作り揚げる。
ヨーグルトにスパイスを混ぜたソースを付けて食す。

 インドの食文化を初めとし、彼の目前に控えている結婚から派生して結婚式や年間を通じてのお祭りなどの儀式文化の話、13歳の時に婚約した彼女とのラブ・ストーリーなど、アミットは話題に絶えない青年です。また彼自身、優秀なエンジニアリングの学生で、彼の友達も一流どころが多いらしく、学問的な面でも色々な分野の興味深い話を聞くことができ、非常に面白いのです。
 しかしそんな彼が帰ってしまうのも6週間後、引き続きフラット問題は山積みで、ああ11月はどうなっているのでしょう……。

【おまけ】
 本日18時頃に家に帰ると、ナズが5人の友人を呼んで居間で煙草を吸い、自室の扉を開けっ放しにしたまま大音響でテレビを観ていました……。「友達を呼ぶ」というのも1〜2人であれば普通のことですが、5人ともなると「常識知らず」としか言い様がありません。マジ、殺意が芽生えます……。


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2002年9月14日(土) 戦い論議と vs ナズ
 本日の出来事の前に、基本情報を……。人物紹介はこちら
 ほんの3日前、11日にキャルとナズが職場で口論をし、キャルは「もう彼には我慢出来ない!」とナズの存在を完全に無視していたのですが、結果、先日ナズがキャルに謝ったようで、キャルは「依然としてナズのことは嫌いだけれども、表面的には普通に話すようになった」という解決に落ち着いて今に至っています。

 一つ屋根の下、他人同士が暮らしているのです。「アイツが嫌い」「許せない」「我慢できない」などの小さなイザコザはどこのフラットにも付きもので、一見平和に見える我が家でも、ナズがサラを嫌ったり、私がナズを嫌ったり、キャルがナズを嫌ったり、ザックとアミットが深刻な喧嘩をしたり(※注:解決済み)、ザックがキャルに不満を抱いたり、キャルが男連中に不満を抱いたり……と色々あります。特に私以外のメンバーは職場が同じで付き合う時間も長いため、小さな鬱憤は溜まっているのかもしれません。
 私に関して言えば、恐らく「会話が不自由」「付き合っている時間が短い」という2大特典のため、そういうゴタゴタから少々離れたところに位置していたのですが、ナズに対する不満は、その2大特典を持ってしても無視することが出来ないほど塵積もっていたようです。

 キャルとナズが戦おうと友好関係を築こうと、私は先月20日の無礼千万事件(※注:名前を付けてみました)以来ナズとはほとんど口を利いておらず、「キャル vs ナズ」とは全く無関係に冷ややかな関係を保っています。
 続く8月28日にヤツが3人の友人を呼んで大音響でテレビを観たり台所を思う存分に汚した時も、つい先日9日に2人の友人を呼んで大音響でテレビを観ていた時も、つい昨日5人ほど友人を呼んで共有空間で煙草は吸うわ毎度お馴染み扉を開けたままテレビは観るわをしていた時も、取り敢えず何も言わず、やはり冷ややかな関係を保っています。

 ナズが台所や洗面所を使った後はいつも汚く、私かキャルのどちらかが後始末をしているのですが、これらを汚すのはザックやアミットも同様なので辛うじてヨシとして、しかし毎朝洗面所で何度も何度も痰を吐く「カ〜ッッッッペッ!」という生理的嫌悪感を催す騒音を作り出すことや、時間や状況をわきまえずにいきなり大声で歌い出したりする非常識な態度、この家で唯一煙草を吸うという事実に、こちらの苛々も着実に塵積もっていました。しかし「痰を吐くな」とも言える訳がなく、その他も一つ一つは小さなことなので、取り敢えず何も言わずに冷ややかな関係を保っています。
 ただ1度だけ、8月28日のドンチャン騒ぎの翌日に
「テレビを観るなら扉を閉めて。昨日はうるさくて集中できなかった。ここは貴方だけの家じゃないんだし、そんなの常識でしょ」
とかなりキツめに言ったことがあり、それ以後10回に7回くらいは扉を閉めてテレビを観るようになっていました。
 しかし基本的に非常識というか、所作振る舞いが他人を気遣っていないというか……。何はともあれ、思うところは多分にあれど、何も言わずに冷ややかな関係を保っています。
 そして本日、この「冷ややかな関係を保っています」のフレーズは、「いました」と過去形に変化するのであります……。

 本日は朝早くにシティセンターの朝市に行こうと予定していたのですが、8時の時点で天気が悪く、まどろみたい気分も濃厚だったため、2度寝に突入しました。しかし10時過ぎ、ナズが織り成す毎朝お決まりの騒音「カ〜ッッッッペッ!」×12回(※注:数えてみた)が始まり、気分が悪くなって起きることにしました。全く、イイ目覚ましだったらありゃしない。
 今週から学校に通うようになり朝が早くなったため、ここ1週間ほどこの痰吐きを聞いていなかったのですが、久し振りに朝寝坊をしたと思ったらコレかよ……という荒んだ気分で朝を迎えます。

 ナズが洗面所を使った後はシンクに始まって床や鏡も汚れており、しかも彼独特の臭いが残っていて、「……うぷ」と吐き気を催すこともあるのですが、もうそういう事態にも慣れています。なるべく鼻から息を吸わないようにした状態で窓を開け、換気をしつつ顔を洗い、歯を磨き、コンタクトを入れ……と着々と出掛ける準備を整えます。
 すると……ナズの部屋からテレビの音と煙草の煙が……。テレビの音はそれほど大きくはなかったものの、またも開け放たれている扉に……いい加減キレました。
鷹瀬 「ちょっと……前にも言ったけど、テレビを観る時は扉を閉めてよ」
ナズ 「なんでだ? 音はそんなに大きくない! なんでだ!」
鷹瀬 「はぁ? 音が大きくないなんて誰が決めたの? テレビを観る時は扉を閉めるなんて、マナーでしょ?」
ナズ 「なんでだ? トーコは今、勉強してない! なんでだ!」
鷹瀬 「私が勉強してなかったら扉を開けっ放しでテレビを観てもいいなんて、誰が決めたの? それに煙草も吸ってるし。この家で煙草を吸うのはナズだけなんだから、外で吸うか、自室で吸うなら扉を閉めるのが常識なんじゃないの?」
ナズ 「なんでだ! 誰も文句なんか言ってない!」
 だから今私が文句言ってるんだろッッ!(怒) むやみに「Why?」を繰り返すなッ! この馬鹿ッ!
鷹瀬 「この家で煙草を吸うのもテレビを観るのもナズだけなんだから、ちょっとはマナーを守ったら?」
ナズ 「Ha! You can close the door!」
 追い払うような身振りのジェスチャーと共に吐き捨てるように言われた上記台詞、イメージ的には「閉めたきゃ閉めろよ!」に、元々嫌いな人に対してかなり狭量なワタクシがキレない訳がありません……。無言のまま思いっきりナズの部屋の扉を閉め、1階に降ります。
 アミットは本日の朝早くに出掛けており、「アミットがいなくて良かった……」と思いつつ、確実に部屋にいるキャルと、部屋にいるかどうか分からないザックに少々気を揉みます。

 ムカムカしながら台所で朝食兼昼食を作っていると、ナズが台所に現れ一言。
ナズ 「Why? What's your problem?」
 オ・マ・エッ!が私の問題だっちゅーのッ!!
ナズ 「なんで扉を開けてテレビを観ちゃいけないんだ! 煩くないのに! 勉強してないのに! トーコが勉強してる時は扉を閉めてる! たまたま今回開けてただけなのに!」
鷹瀬 「じゃあ言われたら閉めればいいじゃない。それに私が勉強している時でも煩かったことはありました。大体、私が勉強しているかどうかなんて関係ないでしょ。扉さえ閉まってたら文句なんて言わないよ。今までだって文句があっても言ってないでしょ。自室で何をしようと勝手だけど、共有の空間では気を遣うのが常識なんじゃない?」
ナズ 「何の文句があるんだ! 何が問題なんだ!」
鷹瀬 「……騒音、煙草の煙、台所や洗面所を使った後に掃除をしない、汚すだけ。Everything!
ナズ 「そんなことない! いつも綺麗にしてる!」
鷹瀬 「どこを? 言っておくけど、食器洗ったなんてのは『綺麗にしてる』なんて言わないからね。じゃあ聞きますけど、昨晩ナズが夕食を作った後、汚れたコンロは誰が綺麗にしたの?」
ナズ 「綺麗にした!」
鷹瀬 「嘘つけ。油塗れだったのを私とキャルが掃除したんです。アンタが水をジャージャー出して食器を洗って、その後水飛沫が飛び散って水浸しになったシンクを誰が綺麗にしたの?」
ナズ 「……」
鷹瀬 「私です。ここのフロア、掃除したことある? 机の上、拭いた事ある? 居間の掃除したことある? 洗面所を綺麗にしたことある? 共有で使ってる布巾を洗濯したことある?」
ナズ 「……」
鷹瀬 「いつも私とキャルがしてんのよ。アンタ汚すだけで何もしてないじゃない。その上テレビは大音量で観るわ、共有空間で煙草は吸うわ……」
ナズ 「Why? Why are you angry? What's your problem?」
 うっわ、お前、英語理解してンのかッ?! 聞けよッ人の話ッ!
ナズ 「You don't like me! I can't stay with you. I rent other room!」
鷹瀬 「I don't care. It's none of my business.」
 「勝手にすれば?」と素っ気無く言ってみたものの、心の中では「やっべ〜」という思いで漲ります。ナズが出て行くこと自体は本当にどうでもイイのですが、ただいま我が家はザックとアミットが去った後の入居者を募集している身で、しかもキャルが子供を呼び寄せる今となってはただでさえ次の入居者を見付けるのは難しい訳で……。
 嫌ぁな空気のまま一瞬口論が途切れると、どうにもこうにも見るに見兼ねたのか、自室から疲れた様子でキャルが現れます。
 キャルは冷蔵庫を開け、卵のパックを取り出し、私に向かってこう言います。
キャル 「ねぇ、トーコ。私の卵、食べた?」
鷹瀬 「まさか。私、自分の卵持ってるし」
キャル 「そう……一昨日買った卵が3個なくなってるのよねぇ……」
 そう言ってナズを一瞥し、大きく溜息を吐いて卵のパックを元に戻すキャル。この家で卵を食べるのはキャルを除いて私とナズだけです。当然私は人のモノは食べません。恐らくキャルもそう認めてくれていると思いますが……。
 キャルにチラリと見られても何も言わないナズ。事態は改善しないまま、それどころか変に緊迫する空気。
鷹瀬 「……もし確認したいことがあるなら、今、直接聞いた方がいいよ」
キャル 「……もうすぐ夫と娘が来るし、今は問題を起こしたくないの。でも人のものを勝手に食べるなんてフェアじゃないわ」
 黙り込むナズ、黙り込む3人……。
 ――と、その時、ナズの携帯が鳴り響き、彼は友達に会うために家を出て行きました。
 2人きりになったと同時にガラリと雰囲気を変えるキャル。
キャル 「もー、あなたの『Everything!』っていう声が聞こえた時にはハラハラしたわよ〜。私は3日前にナズと遣り合ったばかりだし、その前はザックとアミットでしょ? 明日にでも夫が来るって言うのに、『お願いだから問題起こさないで〜!』って祈っていたのよ」
鷹瀬 「いやー、今日は行くところまで行っちゃったねぇ」
キャル 「何があったの?」
鷹瀬 「えーと、最初はねぇ……あ、そうだ。扉を開けたままテレビを観て、煙草を吸ってたから、『閉めて』って言ったのが始まりだったかな」
キャル 「バタン!って扉を閉める大きな音がしたけど、あれはどっちがやったの?」
鷹瀬 「ごめんごめん、私だわ」
キャル 「信じられないわ……。トーコはこの家で喧嘩をしない最後の人だったのに……」
鷹瀬 「いやぁ、『閉めて』って言ったら『なんでだ?』って言われて……つい……」
キャル 「He never understands anything.」
 いやはや。
キャル 「それにしても私の卵……。この前は玉ねぎ、その前はピーマン。もうたくさんよ!」
鷹瀬 「卵食べるのは私とナズだけだし、さっき直接聞けば良かったのに」
キャル 「ナズとは3日前に遣り合ったばかりだし、今、私が何か言ったら私とトーコが一緒になってナズを責めているみたいになって、フェアじゃないでしょ。この件に関してはまた日を改めて、タイミングを見計らって直接聞いてみるわ」
鷹瀬 「そっか……スマートだねぇ……。私も言い過ぎたかなぁ……」
キャル 「そんなことはないわ。誰かが言わなければ気付かなかったことだし、今ようやく彼は知ったんだし、アレはアレでいいのよ。ただ私が言うタイミングではなかっただけで」
 頭が下がります。

 しかしこの後出掛けて夕方に戻ると、ナズが友人を家に連れて来ており、この友人はザックを通して面識がある女性でキャルのお気に入りでもあり、キャルの計らいで、ナズとこの女性とキャルと私の4人で夕食……ということになりました。食事の後も、キャルが「じゃあこれからナズの部屋でテレビを観ましょう!」と言い出し、やりたいことがあった私としては少々迷惑だったのですが、恐らく彼女的には私とナズのバトルを終わりにさせたかったのでしょう。取り敢えず洗濯の途中でしたが強制的にナズの部屋に引き摺られて行きました。
 長い映画の途中、日が落ちたので洗濯物を取り込みに席を立つと、しばらくしてからキャルが追って来てこう言います。
キャル 「トーコ、早く戻って。ナズが気にしてるわ。『まだ喧嘩してるの?』って聞いたら、ナズは『そんなことはない』って言っていたわよ。さ、皆の分のお茶を用意して2階に行きましょう」
 人間できてるなぁ……としみじみ感心します。
キャル 「トーコ、紅茶と牛乳持ってる? ビスケットか何かない?」
 ………………キャルも持っているんですが。
 まぁ私のバトルを治めるためなので、私が提供するのが当然なのかもしれませんね……。
 こうしてうやむやの展開を経て、「私 vs ナズ」の戦いは幕を閉じたの(……かなぁ?)でした。


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